俺の好みは百六十七センチの俺よりも背が小さくて、子猫みたいな丸い瞳の可愛い子。間違っても目の前にいるような俺より十センチ以上も背の高い男前ではない。しかしここで
「笠原さん、嘘ですよね? それを断る口実にしようとしてませんか?」
「えっ!」
やっぱり思いっきり見透かされている。いや、そりゃそうだよな。いままでの相手を知ってるなら、こんな煌びやかで男らしい男を選ぶなんて嘘にしか思えない。
まっすぐに見つめられて、誤魔化そうと思うのに言葉が出てこなくて、ひきつった笑いだけを浮かべる。焦りでもう内心、汗だらだらだ。
「決めつけないでくれる?
おい、ちょっと待て光喜! それは付き合うふりをしように「そうだな」って言ったんだ。「わかった」は大丈夫、うまくいくって言ったからで、お前がいいって言ったのは「どっちかって言われたら」そっちのほうがマシだって意味だ! すべてを歪曲するな! はしょりすぎだ!
「笠原さんのこの人のどこがいいんですか?」
「え、それは、光喜とは長い付き合いだし、一緒にいて楽だし、気を使わないし」
「それって友達と変わらないんじゃないですか?」
うぐっ、そう言われると返す言葉もございません。だってその通りだし。こいつは幼馴染みで友達で、それ以上でも以下でもない。
真剣な目で見つめてくる男に、視線をそらしそうになるが、いまそらしたら嘘だと言葉にするようなものだ。なるべく真面目にその目を見つめ返す。しかし息まで詰まってすでにもう苦しい。
「自分ははっきり言って笠原さんのタイプではないし、断られるのはわかっていました。でもこの人を選ぶというなら、いままでの好みは無視してもいいってことですよね? 自分も諦める必要はないのだと受け止めますけど、いいですか?」
「それは、ちょっと困ります」
「その人との付き合いが長くて気安いというなら、少しだけ自分に時間をください。すべてはそれから考えていただけませんか」
なんだこれ、なんでここまで本気なの? そこまで俺に執着するのはなんでだ。綺麗な女の人でも可愛い女の子でもなくて、俺がいいのはなんで?
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