あんなにストーカーみたいで嫌だって思ってたのに。俺より顔面偏差値が高いし、すげぇ大人だし。だけどなんだか悪くないって思えてしまうんだよな。いつもみたいなまっすぐさも、いまみたいにちょっと頼りなげなところも、可愛くて愛おしいなんて思えてしまう。
「こんなに短期間で落とされたのは初めてだ」
「じゃあ、粘り勝ちですね」
「粘り強すぎだって」
思わず二人で顔を見合わせて笑ってしまった。一度気持ちが固まるといままでの迷いとか、否定的な感情とかが解けていく。やっぱりマイナスから始まるとプラスになった時のポイントが高くなるんだろうか。
「ってか、いま何時? 俺たちすごい近所迷惑」
「もう二十三時過ぎてますね」
「そういや俺、バイト終わったばっかりで腹が減ってるんだけど」
思い出したら素直なもので、腹の虫がぐぅと鳴いた。部屋に戻ってカップラーメンを食べるのもいいが、ここはなにかもっと美味しいものが食べたい。
「勝利! ラーメン食べに行こうよ」
思案していると光喜が足早に近づいてきて、携帯電話を目の前に差し出してくる。この時間でもやっている近所のラーメン屋だ。確か歩いて十分くらい。
「お、いいな」
「鶴橋さんのおごりで!」
「よし、乗った!」
そうと決まれば即行動だ。開け放したままの扉を閉めてそそくさと鍵をかけた。そして俺の様子に呆気にとられている鶴橋の腕を引くと、先を歩きだした光喜に続く。
「そういや、あの女の人は?」
「ああ、帰ったよ。痴話げんかだってわかったら付き合いきれないから帰るってさ」
前を歩く光喜に声をかけたら肩をすくめられた。返ってきた言葉にちょっと顔が熱くなる。痴話げんかってなんだよ。
「間男もほどほどにって言われちゃったよ。失礼しちゃうよね。浮気じゃなくて本気だっての」
「お前もいつでもまっすぐだな」
「俺のそういうところ、いいでしょ」
「まあ、嫌いじゃないよ。お前のそういうところ、好感が持てる」
答えを出したからには光喜にもまっすぐ向き合わなくちゃ駄目だよな。曖昧に濁すのはなしだ。
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