答えを問うように見つめ返せば、鶴橋はやんわりと微笑んだ。その笑みは俺の考えていることを見透かしているように思える。だからもっと色んなことが知りたい――その気持ちが先走りそうになった。けれどそれはなんとか飲み込んだ。
「行動時間が似てるのか、顔を見るのが日課みたいになったんですけど。笠原さんを見つけると目で追ってしまうのも癖になって、そうしたら色んな場所で見かけるようになってしまって」
「そんなに最初からストーカー癖が」
「あはは、すみません。ちょっと気持ち悪いですよね。でも毎日見ていると、あなたのいいところばかり目について。毎朝ご近所さんに挨拶して出掛けていく姿とか、いつも見かける猫に声かけてる姿とか。困っている人を見つけると放っておけなくて、自分のことなんか二の次に親身になるところとか。あとは」
至極楽しそうに、至極嬉しそうにあれこれと語る鶴橋にどんどん顔が熱くなってくる。そんなところまで見られていたのかという思いで穴があったら入りたい。思っていた以上に見られていた。
「見ているうちにお付き合いしている人が男性だってことにも気づいてしまって」
「な、なんで気づいたんですか」
「ああ、それは朝に見かけた時、アパートの前でキスしていたのを」
「あっ! そ、それは忘れていいです」
思わず言葉を遮ってしまった。そういえばいたな。やたらとあちこちでキスしたがる元彼が。家の前とか近所の人に見られるから嫌だって言ったのに、って言うか、しっかり見られてるじゃないか。
「なんだかそれを知ってから、ちょっと見る目が変わった気がします。なんていうか、もしかしたら自分でもいいのかな? とか」
「えっ! それは飛躍しすぎでしょう」
「そうなんですけど。こう長くずっと見ていると、愛着が湧いたり、親近感が湧いたりするじゃないですか。それに近い感情が、育ってしまったみたいで」
「いやいや、そんなに簡単に道を踏み外しちゃ駄目でしょ!」
「気づいたら笠原さんのこと見逃せなくなってしまいました」
少し照れたように笑うその顔はちょっと幼くて可愛い。可愛いけれど、好きになった理由があまりにも単純すぎて驚く。そんなことで男に惚れていたら出会い頭に惚れて歩くようなものだ。
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