はじまりの恋

決別05

 最近は毎日があっという間に過ぎていく。創立祭のあとの期末テストも終わり、六月に入るとなにもかもが通常通りに動き始めた。もちろん藤堂との関係もいままで通りだ。途切れていた連絡もまたいつものように来るようになった。 音信不通のあいだは、やはり…

決別04

 弥彦とあずみに初めて会ったのは幼稚園、俺が四歳の頃だ。途中からいまの家に越してきた俺とは違い、二人は物心つく前から一緒にいた。母親同士の仲がよかったらしく、いまと変わらず昔も姉弟同然だった。 めったに送り迎えもなく、家に一人でいることが多…

決別03

 あいつの答えは予想出来ていた。含みがある性格だけど自分の感情には正直な男だ。「好き、か」 けれど改めて聞かされると胸の奥から嫉妬心が沸いてくる。しかし聞かなければいいものを、わざわざ聞いたのは自分だ。 別にあいつの気持ちを確かめて、どうに…

決別02

 ガラスの向こうを見る鳥羽の視線につられ首を動かしたと同時か、コツコツと向こう側からガラスが叩かれた。ひらひらと手を振り、ゆるりとした笑みを浮かべた人物に俺もまた驚きをあらわにする。「お前ら最近、噂になってるぞ」 俺たちのいる席に来るなりそ…

決別01

 慌ただしかった創立祭も終わり、そのまま今度はテスト期間へと入った。春を過ぎてからバタバタと色んなことが過ぎていく。 でもあれから拍子抜けするくらいなにも起きなくなった。家でたまに顔を合わせると、向こうはなにか言いたげな顔をしているが、それ…

波紋13

 扉の向こうに感じていた気配が遠ざかっていく。去っていった様子はないので、そんなに遠くへ行っていないのだろうが、こちらの呼びかけには応えなくなった。 相変わらず扉はガタガタと音を立てるばかりで開きそうにもない。室内は薄暗く、どこになにがある…

波紋12

 藤堂の自由を奪うために、僕は彼の傍にいるわけじゃない。一緒にいることで少しでも藤堂の歩く道が明るくなればいい、そう思っていた。だからこんなことは、望んでいなかった。 ひどく喉が熱くなった。吐き出しそうになる言葉を押しとどめるように、僕は自…

波紋11

 手を握る峰岸に引かれ、来た道を戻る。手を放すタイミングを失ったら、なんだか振り解けずそのままになってしまった。こういうところも本当はよくないんだろうなと、峰岸の言葉を思い返す。 小悪魔とか言う意味はよくわからないが、自分がよかれと思った言…

波紋10

 長い付き合いがある明良のおかげで元々偏見はない。でも自分に向けられる感情にも気づかなかった僕が、なぜ柏木の感情に気づいたのだと聞かれれば。やはりそれは自分もいま想う相手が同性だから、他人の感情もまたそうであってもおかしくない。 まるでそれ…

波紋09

 午前の催しも終わり、いまは昼休憩。しかし休憩と言っても、学校サイドの僕らに休憩というわけではない。すぐそばにある教室の入り口からは、賑やかな話し声が聞こえてくる。中に入れば学校関係者や親族、それに伴われてきた人たちが広いはずの特別教室を埋…

波紋08

 微かに震える指先で紙を拾い上げ、息が止まりそうになる。そこには俺の携帯電話に登録してあるアドレスや電話番号。そして発着信履歴やメールの送受信履歴がずらりと並んでいた。 その中には彼のメールアドレスや電話番号も記載されていた。元々メールも少…

波紋07

 昔からずっと物事に執着することは少なかった。歩いていくために不必要だと思ったものや不自由と思ったものは、簡単に捨ててしまえた。でもいまはどんなことがあっても手離したくない存在がある。それほどに彼は自分の中で大部分を占めていた。あの人がいた…