はじまりの恋

疑惑17

 なぜこんなにも峰岸と鳥羽の笑みは恐ろしさを感じるのだろう。考えてることが大抵予想を超えていくものばかりだからだろうか。二人の視線に肩をすくめたら、野上がぎゅうぎゅうと僕を強く抱きしめた。「で、なにがあったんだ?」「うう、前期であまった経費…

疑惑16

 藤堂に隠しごとをする必要がなくなってだいぶ気持ちが落ち着いた。あのあとも写真のほうは相変わらず届いていたが、思い悩むことは少なくなったように思う。 藤堂も母親の動向を以前よりも注意深く見てくれるようになり、その安心感からかもしれない。とは…

疑惑15

 何度も何度も手首に口づけられて、くすぐったいその感触に肩をすくめたら、藤堂の唇が弧を描きゆっくりと距離を縮め僕の唇に触れた。それは優しく触れ合うだけの口づけだったけれど、何度もついばまれていくうちに頬がじわりと熱を持ち始める。「佐樹さんに…

疑惑14

 立て続けに起こった事故から時間が過ぎ、一ヶ月ほど経った。その間も相変わらず小包は不定期に届いている。いったい誰がなんのためにそれを送りつけているのかはいまだ不明だ。 藤堂の写真は入っていたりいなかったり、でも確実にわかったのは写真がどんど…

疑惑13

 それから間宮の紹介してくれた病院で診察を受けたが、手首は幸いなことにひびなどは入っていないようで、どうやら捻挫らしい。 身体のほうも痛みの割に大きな傷になどにはなっておらず、打撲程度で済んだ。しかしどちらも腫れが引くまではしばらく痛みがあ…

疑惑12

 放課後になってから間宮と二人で駅前にある携帯ショップへと向かった。長らく故障することもなく同じ携帯電話を使っていたので、ショップには随分と久しぶりにやって来た。 店頭に並んでいる機種は大きな画面と薄さが売りであろう最新型ばかりで、折りたた…

疑惑11

 二人だけしかいなかった空間が、ふいに現実に返ることでその場所がどこなのかを改めて思い知る。朝のひと気のない学校だけれど、ここはいつ人がやってくるともしれない場所だ。 最近は傍にいることが多くて、その制約を忘れてしまいそうになっていた。前は…

疑惑10

 電車に乗る頃には落ち着きを取り戻したつもりだったけれど、僕は大事なことを忘れていた。そのことに気づいたのは一夜明け、学校に出勤してからだった。いつものように職員室に顔を出してから準備室に向かい、渡り廊下にたどり着いたところで僕は首を傾げた…

疑惑09

 ホームに響いたアナウンスにふいに顔を持ち上げた瞬間だった。まわりで大きなざわめきが広がり、なにごとかと首をめぐらそうとした途端に、背中を強い力で押された。それに気づいて足を踏ん張ろうと思ったけれど、気の抜けていた身体はとっさの動きには対応…

疑惑08

 言葉では推し量ることのできない感情。渉さんの中にある瀬名くんへの感情は、まだ名前がない。好き、でも嫌いでも、愛してるでもないのだろう。そしてそれは色んな可能性を秘めている。 好転するか暗転するか、いまはまだそれさえも見えない。それでも戸塚…

疑惑07

 あれから休憩が終わったと告げに来た峰岸が倉庫の扉をノックした。迷うことのない足取りでまっすぐたどり着いた峰岸に驚いたが、どうやら撮影前に倉庫と楽屋の扉が隣り合わせだから間違わないようにと、スタイリストの宮原くんに言われていたらしい。 けれ…

疑惑06

 渉さんが歩いていった先には喫煙室があるらしく、長い撮影の合間にもし煙草を吸うならと、スタッフの人が場所を教えてくれた。けれど僕は生憎と喫煙者ではないので、気持ちだけ受け取って聞き流していた。 いまどきは禁煙禁煙と言われるが、やはり根を詰め…