長編

家族の団らん

 夕刻が近づき、ナディアルが娘を迎えに来たが、まだレヴィーと離れたがらないので、今夜は一緒に食事をすることとなった。 最近ではわりとよくある展開だ。 国王一家と宰相一家、六人で食卓を囲むのはこれで何度目か。 初めの頃はベルイがナナエルを膝の…

和やかな温室風景

 相変わらず万年春のような庭園では、時折ひらひらと蝶が横切っていく。 ロヴェに聞いた話では、数種の妖精もここで暮らしているらしい。 いまでは昔語りとも言える存在だが、あまり人の目に触れないだけで、案外すぐ傍にいるのだとか。 リトが初めて草原…

賑やかな目覚め

 ウトウトと浅い眠りから覚めると、すぐ傍から可愛らしい子供の笑い声が聞こえてきた。 朝から元気に騒いでいる我が子をたしなめているのは、毎日聞いていてもうっとりとしてしまいそうな、聞き心地のいい優しい低音。 しばらくそのまま、二人の様子に耳を…

愛の誓いは永遠に

 ロザハールの家門が国の力で|潰《つい》えたのは、建国以来初めてのことだった。 獣人を非道に扱い、非人道な研究を行っていたとして、ルダール伯爵家は爵位領地ともに没収。 当主を含む、研究に関与した者たちは一部を除き、全員処刑が執行された。 事…

番として迎えた朝

 囁いた言葉が効いたのか、夜が更けてもロヴェは一向にリトの体を離そうとしない。 さすがに数刻も続くと、指先に力も入らなくなってくる。だがロヴェが時折甘えるように首筋を甘噛みしたり、縋るみたいに名を呼んだりするので、リトも彼を手放せない気持ち…

初めての夜を二人で

 ロヴェに抱き上げられたまま、連れられてきたいつもと違う寝室は、柔らかな室内灯に照らされている。 普段と異なるせいか、やけに空間がしんと静まって感じられ、二人の鼓動や微かな呼気まで響きそうに思えた。 どんどんと胸の音が逸り、恥ずかしくなった…

二人で過ごす夜

 草原や森の散策のあとに、ロヴェが言っていた王族専用の屋敷へ移動した。 屋敷の前には後発の馬車が駐まっており、リトやロヴェの着替え、身の回り品が積み込まれているようだ。 馬を下りて見上げた二階建ての屋敷は、王宮を見慣れたせいか想像以上にこぢ…

こぼれ落ちる愛情

 のんびりと草原を歩いているだけで、爽やかで温かな風が吹き抜けていき、とても心地良い。 森に近い大木の木陰ではミリィを筆頭にして、騎士たちが休憩所を作っている最中だ。 騒がしい世界から隔離された静かで穏やかな空間。 まるで草原にロヴェと自分…

思いやる優しい心

 案内された病室は一人部屋の静かな空間。柔らかな陽射しが降り注ぐベッドの上で、窓の外を眺める横顔があった。 リトの気配に気づいたのか、ゆっくりと振り向いた彼が小さく微笑んだ。 痩せこけてボロボロだった肌は栄養が行き渡り始めたらしく、わずかに…

つかの間の休息を

 リトの誘拐事件は、獣人の統治反対派への調査が本格的に始まる寸前の事態であった。そのため内部に情報を流している者がいる可能性を考えて、徹底調査が始まった。 調査と並行し、リトを誘拐した獣人への取り調べも進み、国に非登録の獣人たちによる暗躍も…

獣たちの悲痛な叫び

 起こす際にリトに水を掛けたのは、ある種の嫌がらせだったようだ。しかしなんだかんだと男は、体や服を乾かして即席の温石までくれた。 彼のほうがよほど寒そうな格好なのにと、月が浮かぶ暗い空を見上げる横顔にリトは視線を向ける。 ボロボロで痩せてい…

忘れていた記憶

 なかなか戻ってこないロヴェを待ちながら読書をしていたリトの元へ、来客の知らせがあったのは日が暮れた頃だ。 ここにリトがいると知っているのは、宿屋のハンナとシグル、タットだけだった。 宿屋に勤める者はあの日、ダイトが迎えに来たので薄々気づい…