長編

初候*款冬華(ふきのはなさく)

 一月も半ばを過ぎ、雪が降り積もる毎日。都会ではお目にかかることができない、銀世界だ。積雪は一メートル、あるとかないとか。 雪を掻いても掻いても終わらないが、寒さで冬ごもりしたくなる。 そんなことを考えながら、暁治は居間から見える庭を眺め、…

末候*雉始雊(きじはじめてなく)

 実のところ朱嶺たちも、すっかり忘れていたらしい。 わざとじゃないよ! と、瞳を潤ませながら謝ってきたので、暁治は少しばかりならと話を聞いてやることにした。「だからね、幽世で旅館やるのに、なにか売りを作ろっかってなってね――あ、はる。ここも…

初候*芹乃栄(せりすなわちさかう)

 お正月といえば、たこ揚げ、駒まわし。おせちと雑煮。初詣。 日本はクリスマスから年始にかけて、イベントが目白押しだ。最近はハロウィンも盛況である。 宮古家では暁治が、日本の妖怪どもがなにがハロウィンだと、イベント自体はしなかったのだが、かぼ…

末候*鱖魚群(さけのうおむらがる)

 温泉とは、火山活動や地熱で温められたお湯が沸いた場所、あるいはそのお湯のこと。であるらしい。「わ~い、はる。貸し切りみたいだよ!」 先に戸口を潜った朱嶺は、はしゃいだ声を上げ、こっちだと暁治に手を振った。 目の前には湯口から、こんこんと温…

次候*熊蟄穴(くまあなにこもる)

「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。なんでお前が……て、夢の中!?」 暁治が慌てて周りを見てみると、周りはどことも知れぬ真っ白な空間。ぷかりと浮いたように二人して座り込んでいた。 目の前の朱嶺は、暁治のように動じもせず、徳利をこちらに差し出…