長編

贈り物03

 こうして始まった僕の一人お菓子教室は週に二度ほど開かれた。最初はかなり不安もあったけれど、始めてみれば思いのほか順調だった。レシピが簡単だったこともあり、初心者の僕でもそれなりのものが出来上がったのだ。 作った試作は学校へ持って行って昼休…

贈り物02

 あれこれとお返しについて悩んでいるうちに、前菜の盛り合わせが出され、それを食べ終わる頃には程よくパスタが出てきた。 なにげなく店内を見渡すとほとんどのお客は食事を終えていて、食後にお茶を飲んで話に花を咲かせているところだった。 気づけば三…

贈り物01

 冬の日差しが穏やかな午後。時計の針は十三時を過ぎたところを指している。腕の時計を確認し、オープンと書かれたプレートを目に留めると、僕は生け垣に挟まれた石畳の道をゆっくりと進んだ。 そしてその先に現れた小さな白い一軒家を見つめ、思わず笑みを…

その愛、温めますか?04

 学校に着くといの一番に峰岸がやって来て、その後の調子は? と聞いてきた。なんでもない顔をしているけれど心配はしていたのだろう。だいぶ熱が下がってわりと元気だと伝えたらほっとした顔をしていた。 そして見舞いだと大粒の苺をもらった。袋を見たら…

その愛、温めますか?03

 ベタベタしたい甘えたい、そんなことを思うけれどいまみたいな状況は貴重だ。自分が色々してあげないとって気にさせられる。これまでここまで高熱は出したことがないらしく、節々の痛みと寒気が辛いとこぼしていた。 弱っている優哉はいつもより小さく見え…

その愛、温めますか?02

 翌朝起きたらまだ熱は下がっていないようで寝苦しそうにしていた。移るといけないからとマスクしているのも余計に熱がこもって苦しいのかもしれない。汗を拭いて額に冷却剤を貼り付けると少しばかりしかめていた顔が和らいだ。 昨日の晩はほんの少し口にし…

その愛、温めますか?01

 世の中、相手に求めるのは気遣いや優しさなのだそうだ。放課後の部室で理想の相手談義に花咲かせている生徒たちに曖昧な相づちを打ちつつ、自分を振り返ってみる。 気遣い、優しさ――それは間違いなく優哉にはあるものだ。だが自分にあるのかは甚だ疑問だ…

明日の空に射す光06

 夕飯は母がはりきって作った豪華なおせちを食べてみんなで賑やかに過ごした。こうして家族が集まる空気はいいなと思っていたら、優哉の横顔もそれを感じさせるものだった。向こうにいた時は時雨さんや祖父母と一緒に食事をすることが多かったと聞いている。…

明日の空に射す光05

 優哉を連れて帰った夏休みのあの日、詩織姉はひどく怒って悲しんだ。彼女の心配することもわかったし、反発の気持ちが生まれるのもわかった。たぶんそれはその場にいたみんなが一度は感じたことだ。 いまはなにごともなかったように笑っているけれど、それ…

明日の空に射す光04

 玄関で待ち構えていたのは座っていてもわかる手足の長い男の人。ブロンドの髪に青い瞳、顔立ちから見てもすぐに外国の人だというのがわかる。人なつっこい笑みを浮かべて手を広げるその人の膝では、小さな男の子がこれまた可愛らしく両手を広げて待っていた…

明日の空に射す光03

 カタンカタンと揺れる振動が心地よくなってくる。時折聞こえてくる車内アナウンスに耳を傾けながらウトウトして微睡んでいると、ふいに肩を揺すられた。それに驚いて目を瞬かせれば、こちらをのぞき込む視線に気づく。 その視線は隣にいる優哉のもので、見…

明日の空に射す光02

 参拝を済ませたあとはお守りを二つ預かり、冷えた身体を甘酒で温めた。今年は例年よりも寒く感じて、待っているあいだにかなり冷え切ったので染み入るような感覚になる。そして温まった息は空気の中で白くなった。 ふと横を見ると甘酒の湯気で眼鏡を曇らせ…