長編

明日の空に射す光01

 新年のはじまりはいつも決まった神社に初詣に出掛ける。優哉がいないあいだは親友の明良辺りに付き合ってもらっていた。一年の健康を願い、縁結びにも御利益のあるそこで恋人と早く一緒にいられますように、なんてお祈りをしていた。 今年も新しい年を迎え…

あの日の笑顔10

 いまの僕を見たら彼女は笑ってくれるだろうか。想いと心がズレてしまう前は、僕たちのあいだにはいつだって笑みが絶えなかった。そしてこれからも一緒にいよう幸せになろうって約束を交わした。 その誓いは守ることはできなくなってしまったけれど、いま前…

あの日の笑顔09

 楽しい時間というものはあっという間に過ぎる。二次会は披露宴同様、いや、それ以上の盛り上がりを見せて終わりを迎えようとしていた。景品が高級旅館の宿泊券だった新郎新婦クイズはだいぶ白熱したが、陽司さんの親友が勝ち逃げした。 多少ブーイングも起…

あの日の笑顔08

 ゆったりとした音楽が流れていた中に司会役の男性の「お待たせしました」と言う声が響く。普段は店で音楽などは流していないが、こういったパーティーのために音響も整えたようだ。右手の壁には大きなスクリーンがあり、ハッピーウェディング、陽司・あずみ…

あの日の笑顔07

 最寄り駅についたあとは優哉に聞いた言葉を頼りにケーキ屋を目指した。そこは小さなスペースにイートインコーナーがあり、空いていたのでそこでしばらく時間を潰させてもらった。 僕たちの格好を見て結婚式の帰りだと気づいた店主は優哉の店だろうと聞いて…

あの日の笑顔06

 賑やかな披露宴が終わるとごく一部の人たちが二次会へ移動する。優哉の店自体さほど広くないので三十人ほどだったか。もっと広い店も選べただろうけれど、二次会は本当に身近な人たちでいいのだと片平は言っていた。「じゃあ、俺はここまでで」「うん、渉さ…

あの日の笑顔05

 式場に戻るともっとゆっくりしてきても良かったのにと二人に笑われた。そうもいかないだろうと言いながらも、それができたらどれだけ良かっただろうとも思う。しかしだいぶ時間を割いてもらったし、これだけでもありがたいと思わなくては。「そういや気にな…

あの日の笑顔04

 チャペルは祭壇の天井がドーム型のようになっていて、壁面のステンドグラスも煌びやかで美しい。参列者の椅子が並ぶ場所はシャンデリアが下がっていて、ナイトウェディングのような演出もできるようだ。 粛々とした雰囲気の中、牧師が開式を告げたあとに新…

あの日の笑顔03

 電車を降りて徒歩五分くらいの場所に目的地はある。行く先が同じと思われる人たちがにこやかに笑いながら歩いているのを見て、なんとなく心が浮き立つ。たどり着いたのは高級ホテルを思わせる広いエントランスが出迎える専門式場。 今日は片平あずみこと、…

あの日の笑顔02

 のんびりと食事を済ませてから身支度を調える。今日はいつもの着古したスーツではなく礼服。前に作ったスーツもあったのだけれど、優哉に言われて今回は作り直した。以前のものも着るのに特別支障はなかったが、仕上がったものを着たらすごくすっきりとして…

あの日の笑顔01

 厳かな雰囲気――聖歌隊の賛美歌が響いて空気までも煌めかせる。鮮やかなステンドグラスが光を透かす様が美しい。姉が結婚式を挙げたチャペルも採光がとても綺麗だった。そんなことを思い出すとふっと過去がよぎり自分たちの挙げた式はどんなだったろうと思…

始まりの日03

 シャンパンを二杯も空けて四、五十分近くをこらえたのは我ながら頑張ったと思う。酔いで天井がぐるぐると回るけれど、それでも後悔はしていない。優哉のいろんな話を聞けた。男性は顔が広いのかいろんな人が集まってきて、ほかにも店に携わった人たちの話を…