長編

83.この恋を抱きしめて

 眠っているあいだの光喜は夢うつつで、楽しげな笑い声や話し声を聞いていた。勝利の笑い声、そういえばあの頃は辛かったなと思い出しながら口元に笑みを浮かべる。そして小津に初めて会った時、いま思えばなぜ視線が吸い寄せられたのだろうと思う。 人より…

82.これから先の未来

 初めて小津を連れてこの店に来た時、千湖はひどく驚いた顔をしたけれど、見る間に涙を浮かべて泣き出した。そして良かったね、と何度も繰り返してぽろぽろと涙をこぼした。もし本当に光喜が誰かを連れてきた時には、祝福してやって欲しい、そう瑠衣に言われ…

81.変わらずの日々

 仕事が一段落すると時刻は十六時を少し過ぎていて、周りに早く帰りなさいと声をかけられる。その声で時間に気づいた光喜は挨拶を済ませると、急いで帰り支度をして飛び出した。今日の約束は十七時、乗り換えに手間取らなければ間に合うはずだ。 ――いま上…

80.新しい始まり

 新しい恋を初めてから光喜は前向きになれたような気がしていた。心が豊かになって、立ち止まっていた足を踏み出せるようなパワーをもらう。疲れても、へこたれても彼のことを考えれば、また立ち上がれる。 若いっていいね、なんて言われても、笑みしか浮か…

79.二人を繋ぐもの

 空が夕闇に染まる頃。小津と二人でのんびり駅までの道を歩く。朝ご飯を食べたあとは昼ご飯を買い込んで家にこもり、夜になってご飯求めて外へ出て、いまは少し寂しい帰り道だ。もう少し傍にいたかったけれど、小津も仕事を抱えているのでまた日を改めてとな…