中編

森のカントリーハウス

 森の木立の中にある邸宅は、石造りのカントリーハウス。夕日に照らされたそこは、絵本の挿絵のような柔らかな雰囲気がある。 車を降りると、広い敷地に見合った大きな邸宅からは、ピアノやヴァイオリン、チェロやハープの音色が聞こえていた。 その音を聴…

予定外の出来事

 ドイツの三大都市ミュンヘン――音楽都市とも言われて、オペラやコンサートが楽しめることでも有名だ。 七月のいまはシーズンオフだが、音楽祭や野外コンサートなどは各所で催されている。 けれどそこへ赴いて音楽漬けにならなくとも、ここには足を伸ばせ…

すべてが欲しい

 普段は真面目で、大人しそうな顔をしているのに、性に対して奔放でいつも驚かされる。 初めて抱いた時も、宏武は俺に足を開いて、いやらしく腰を振ってきた。 その姿に正直言えば、自分のコントロールが効かなくなったくらいだ。 宏武にこんな一面があっ…

心にある面影

 なぜだかわからないけれど、いつも宏武は自分に自信がなさげだ。思っているよりずっと素敵だと、何度も伝えても曖昧に笑う。 もしかしたらそれは昔、大切だった人を不幸にしてしまったと言っていたことに、関係するのかもしれない。 もう吹っ切れたとも言…

煌めく音

 駅前から商店街を抜けて、コンビニ前を通り過ぎると公園がある。その小さな公園は、天気のいい日は子供の声が賑やかに聞こえている。 けれどいまの季節は雨続きなので、夕刻の公園はしとしと降る雨と共に、静けさをまとっていた。 特別変わったところもな…

終演

 電車を降りたら、雨脚がさらに強くなった気がする。だがいまはそんなことなど気にもとめず、足早にマンションへと向かって歩いた。 そうしていつもの通り道である、公園にさしかかる。 そういえばここで彼と出会ったんだったと、ふいに懐かしさが込み上が…

リスタート

 朝から雨がしとしと降っている。 低気圧の影響は、今日も身体を重苦しくさせる。それでも以前ほど、雨の日が嫌いではなくなった。 蒸すような湿気や、服が肌にまとわりつく感触はいまだに苦手だけれど、恨みがましく文句を呟くことは少なくなったと思う。…

約束

 それでもリュウには心が傾いた。傍にいると、あの悪夢も忘れられるほど心穏やかにいられた。 だからあの人の存在を強調するように、白昼夢を見たのだろう。人を死に至らしめてしまったことを忘れるなと、幸せになろうなどと考えてはならないと、教えるため…

哀哭

 重たいまぶたを持ち上げてみると、自分は清潔な乾いたシーツの上に横たわっていた。触り心地のいいシーツに、誘われるように寝返りを打つが、身体がひどく重くてだるい。 尻の孔にはいまだに、なにかが入っているかのような違和感があった。 途切れ途切れ…

熱情※

 見つめる視線を感じ、そこを見せつけるように広げていく。 したたり落ちてくるローションが、ぐちゃぐちゃと音を立てるほどに指を抜き差しすれば、目の前でそれを見ている彼の喉元が上下した。 さらに指を増やして、奥へと突き入れていくと、次第に指先は…

身体の熱※

 ベッドに腰を下ろして、目の前にいるリュウが着ているシャツのボタンを、一つずつ外していった。彼の肌に触れるたびに、ドキドキと胸が高鳴っていく。 デニムのボタンに手をかけ、ゆっくりとファスナーを引き下ろすと、彼の熱は下着にその形を浮かび上がら…

想い

 車の中は終始無言が続いた。誰も一言も話すことなく、どんどんと見慣れた道を過ぎ、マンションへと近づいていく。 もう少しで繋いだこの手を離さなくてはいけない。そう思うと、無意識に手に力を込めてしまう。「宏武、ついた」「ああ、うん」 マンション…