中編

二つの熱01

 トクトクと胸を高鳴らせて緩やかに心が動く。ふとした仕草、先を見据えるような大人びた視線、振り返る無邪気で優しい笑み。少し情けない顔やふてくされた顔、どんな表情も愛おしく思える。ただ傍にいるだけなのに、胸の奥が温かくて幸せだと感じた。 あん…

伝わる熱04

 静かな室内では時計の秒針の音がカチカチとかすかに聞こえてくる。放課後の喧騒が時折外から聞こえはするが、時間とともにその声も聞こえなくなっていく。 黙々と仕事をすればするほどに時間は刻刻と過ぎて行き、気がついた頃には一日の終わりを迎える。 …

伝わる熱03

 余計なことを口走ってしまいそうでとっさに口を引き結んだ。そして真っ直ぐと向けられる視線から逃れるようにゆるりと目を伏せる。冷静になると火照った頬が冷めて今度は冷や汗をかいた。 普段崩すことのない表情を思い起こしてなるべく平静を装う。けれど…

伝わる熱02

 こんなこと初めてじゃないのに、いつも怖くて立ちすくんで動けなくなる。彼の存在が大きくなるほどに苦しくなった。自分が弱くなっていくのがわかる。でもこんなところでうな垂れている場合じゃない。震える手を握りしめて涙を拭うと、大きく息を吐き出して…

伝わる熱01

 少しずつ流れていく時間の中で、自然と彼の姿を追いかけることが増えた。彼はいつでも楽しげに笑い声を上げ、光の粉をまとっているかのように煌めいている。 でもそれはたぶん自分から見えるフィルターで、特別に見えているんだと思う。それが眩しくて自分…

心の熱

 好き――そんな気持ちがよくわからなかった。誰かに甘い想いを抱いたり、心焦がれるような気持ちになったり、そんなこといままで一度もなかった。でも時折一人が寂しいと感じることはある。そんな時に誘われると好きな気持ちが湧かなくても、まあいいかと頷…

甘音-Amaoto-/02

「まだこのあいだ三十歳になったばかりだし、おじさんじゃないよ」「三十路になったらやっぱり二十代とはなんか違うよ。紘希と七つも離れてるし」「それこそお兄さんくらいしか離れてない」 少しふて腐れたような表情を浮かべる、蒼二を見つめる紘希の目は、…

甘音-Amaoto-/01

 朝の静けさの中に、目覚まし時計の音が鳴り響いた。 頭に少し響く甲高い電子音。 しばらくベッドヘッドの棚で、けたたましい音をさせていた、その目覚まし時計は、のそりと布団から伸びてきた手に、上部のボタンを叩かれその音を止めた。 しかし時計の音…

君の熱

 昔から恋愛とかそういう甘ったるいものにはあまり興味がなくて、付き合ってみても長続きもしなくて、いつの間にやら周りに貼られたレッテルは――遊び人。 耳に入る噂は、どうにも手当たり次第に食っては捨てていると、おかしなものばかりだ。でも自分は決…