中編

幸せの本当の意味

 やはり寝顔を何時間も見つめる男なんて、気持ち悪いという言葉しか見当たらない。志織に見つめられるのは本望だけれど、ほかの誰かだったら、少しばかり引くだろと思えた。 いくら懐が深いとは言え、生理的に受け付けないことだってあるはずだ。しかし顔を…

聖夜の贈りもの

 月明かりが広がる静かな室内に、小さな寝息が聞こえる。さすがに積極的だった志織も、雄史のしつこさには勝てなかったのだろう。 眠りは深いように見える。 あのあと奉仕してくれる姿に我慢できず、お願いしてもう一回させてもらった。好きなだけしてもい…

もういっかい

 広めの風呂場は、二人で入ってもさほど窮屈ではない。まだ彼の足の具合が酷かった時はほぼ毎日、雄史が志織の世話を焼いていた。甲斐甲斐しく髪を洗ってあげたり、身体を洗ってあげたり。 最後には決まって二人で一緒に湯船に浸かった。さすがに少しばかり…

二人の初めて

 いつにも増して、触れる肌が熱いように感じる。彼の熱か自分の熱か、いまは混じってよくわからない。それでも触れ合う肌が心地良くて、雄史はうっとりと目を細めた。「志織さん、好き、大好き。もう可愛くて、全部食べてしまいたい。なんか志織さんって、ど…

恋人のお誘い

 口づけだけで、蕩けてしまった彼を見下ろしながら、首筋を指先で撫でればピクリと肩が跳ねた。溢れた唾液がこぼれて、伝い落ちるそれが唇や顎を濡らす。 瞳に熱を灯らせている、その様子に雄史は気持ちが振り切れそうになった。「志織さん、もうスイッチが…

おいしくいただきます

 オーナメントが入っていた、段ボールを片付けて二階へ上がると、志織の部屋に通された。 二階の自宅はゆとりのある1Kで、八畳ほどの部屋と広めのキッチン、バスとトイレは別になっている。カフェの改装と一緒に新しくしたと聞いた。 そして彼の自室はベ…

また来年も

 触れた柔らかな唇。ゆっくりと目を閉じてさらに、もう一度、触れれば口先にふんわりした熱を感じた。けれど柔らかな感触を堪能しようと、さらに踏み出したら、突然頬にぺしんと衝撃が走る。「みゃっ!」「にゃむ、酷いよ。いまいいところだったのに」 深く…

二人のクリスマス

 口づけを交わしたあの日を境に、雄史の毎日はさらに変化をしていった。 一日、また一日と、時間を重ねるたびに――愛おしさが日ごと膨れ上がっていくような気分だ――そんな一文や台詞は、小説や漫画、はたまたドラマや映画で見聞きしたことがある気がする…

心にある想い

 そこにたどり着くまでの時間、雄史の胸に広がっていたのは焦りと不安――そして恐怖だ。震えて何度も足が止まりそうになって、それでも泣きそうになりながら走った。 目的の場所へ着いて、開ききらない自動ドアの隙間に身体を滑り込ませると、飛びつく勢い…

会いたい会えない

 なぜあれほどまでに、ショックを受けたのだろう。冷静に考えてみると、自分の慌てふためき方は、異常だったのではないか。 男性に、同性に告白をされたから、と言うだけでは済まないような。 志織からの思いがけない告白に、しばらくその場で固まったあと…

思いがけない告白

 行き当たった考えに、雄史の口が無意識に口が引き結ばれる。別に彼が自分だけを構ってくれていると、うぬぼれていたわけではない。 そう思うものの、急に見知らぬ誰かに志織を取り上げられたような気分になった。「やっぱり志織さん、彼女いるんですか?」…