一歩前ヘススム02
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 知らぬ間に筒抜けになっていた。それにはひどく驚いたものの、義昭が好意的であったので、早い段階で知られたのはかえって良かったのではと思えた。
 こそこそと付き合っていくのは、やはり限界がある。

 男としても歳の離れた恋人に大して、責任は持つべきだ。淳がずっと親に嘘をついている状況であることも、気にかかっていた。
 彼の家は親一人子一人なので、なるべくなら後ろめたい思いはさせたくない。

 二人の関係を公にするつもりは一切ないけれど、身近な人間は味方に付けておくほうがいい。これから先、雅之だけで解決できないことも出てくるかもしれない。

「こんばんはぁ」

 ぼんやりと考え込んでいたら、玄関のほうから声が聞こえてくる。ちらりと壁掛けの時計を見れば、日付が変わっていた。
 今日も随分と遅かったのだなと、淳を出迎えるために雅之はソファに預けていた身体を起こした。

「お疲れさま」

 玄関に続く扉を開くと、近くまで来ていた淳と目が合う。瞬いた瞳に笑みを返せば、彼はすぐに柔らかい笑顔を浮かべた。

「ごめんなさい。こんな時間になっちゃって。希くんもう寝てますよね?」

「うん、寝かしつけちゃったよ」

 あっくんあっくんと騒いでいた希も、ご飯を食べてお風呂に入るとすぐに睡魔に襲われた。
 それでもしばらく頑なに寝ようとしなかったのだが、明日になったらあっくんが来るよ、と言ったら大人しく寝てくれた。

「遅くまでご苦労さま」

「ありがとうございます」

 近づいてきた淳を、雅之は両腕を広げて抱き寄せる。腕の中に閉じ込めるようにぎゅっと包み込むと、おずおずと背中へ腕が回されて、首筋に柔らかい髪が触れた。
 すり寄るようにしてくる仕草がひどく可愛くて、お日様色の髪を優しく撫でながら、さらに身体を引き寄せる。

「キス、してもいい?」

 鼻先が触れるほどの距離。じっと瞳を覗き込むと少しだけ目を泳がせてから、淳は小さく頷いた。それを認めて、雅之は期待を含ませた瞳で見つめてくる彼の唇に触れる。
 二人の唇が合わさると、長いまつげに縁取られた瞳がゆっくりと閉じられた。

「んっ……」

 やんわりと唇を食むように口づけながら、たっぷりと柔らかさを味わう。そうするとその先を請うように淳の唇が開かれ、赤い舌がちらついた。
 無意識の色香がにじみ出して、喉が鳴りそうになる。

 誘われるままに雅之が舌を滑り込ませれば、舌先に彼のものが絡んできた。積極的な反応に、さらに深く唇を合わせて、水音がするほど舌を絡め合わせる。

「はあっ、……んっ、雅之さん。ぁっ」

 口の中を唾液が滴るほど愛撫して、唇を離すと色づいた彼の唇がやけに目についた。口の端にこぼれた唾液を指先で拭うと、淳の肩が小さく震える。
 潤ませた瞳で見つめてくる、それに雅之は欲を煽られた。

 これまで雅之の性癖は至ってノーマルだった。どんなに可愛い男の子が目の前にいたとしても、こんな風に手の内に収めてすべてを暴きたくなる、そんな気持ちにはならない。

 ましてや淳は中性的というタイプでもない。平均的な成人男性よりも背が高く、身体つきもしっかりしている。
 顔立ちは愛嬌があって可愛いが、美しいと言うよりは一般的に格好いいと言われる部類だ。
 けれど雅之は彼を見ていると、たまらない気持ちになる。

「ご飯は食べた?」

「食べてきました」

「じゃあ、カフェオレでも淹れてあげようか」

「はいっ」

 耳の縁に口づけると、いつも明るい笑みを浮かべている淳の顔が、ぽっと頬を染めた恥じらう表情に変わった。
 気持ちはいますぐにでも押し倒してしまいたい。だがあまりがっつきすぎるのも大人げない。

 彼の前ではできるだけ紳士でいたい、そう常々思っている。それに加えこんな可愛い子を逃してなるものか、そんなことも考えていた。
 こんなにどっぷりと、相手にハマるのは雅之にとっては初めてで、まるで初恋のような気分だった。

「そういえば、淳くんは園長先生にカミングアウトしてたの?」

 キッチンでミルクたっぷりのカフェオレを作りながら、雅之は気になっていたことを問いかけてしまった。
 どこまで希が話しているのかは定かではないが、楽しそうにしていたからと言って、すぐに付き合っている、とは繋がらないはずだ。

 ふと顔を持ち上げると、ソファに座っていた淳がこちらを振り返っていた。その顔に雅之が首を傾げてみせたら、少し考え込むようにしてから唇が開かれる。

「えっと、言ってたわけじゃないんですけど。なんだか早いうちから気づいていたみたいで」

「ふぅん、そっか、ずっと前から知ってたんだね」

 なにかヘマをしたのかとも思っていたが、自分たちの関係に気づくのが早かったのは、息子のことをよく見ていたからこそか。
 淳は素直な性格をしているので、余計にわかりやすかったに違いない。

 思えば付き合う以前から、淳の気持ちは疎いと言われる雅之にも丸わかりだった。付き合うようになって、目に見える変化が大きくなったのだろう。
 疑問がようやく解けた。

 けれど一人納得をした雅之に、淳は不思議そうな顔をする。まっすぐに見つめてくるその瞳に、安心させるように笑みを返した。

「ああ、今日の帰りにね。園長先生に、淳くんをよろしく頼むって言われて」

「えっ!」

「あっ、淳くんっ」

 声を上げて驚いた淳は、身体が跳ねた拍子にテーブルに足をぶつけたようだ。ガタンと音が響いて、慌ててそちらへ向かったら、頬のみならず耳まで紅く染まる。

「す、すみません。バレてるとは思わなくて」

「うん、僕もビックリしたけど。すごく好意的だったし、知っておいてもらえると心強い気がしたよ」

「それなら、いいんですけど」

「大丈夫だよ。……はい、これ飲んで落ち着いて」

「はい」

 そわそわとした様子を見せる淳に、マグカップを差し出すと、そろりと手が伸びてくる。
 その手にカップを引き渡して、雅之は彼の隣に腰を下ろした。そして隙間を埋めるように身体を抱き寄せる。

「まあ、僕は園長先生に怒られても、君を手放せる気はしないんだけど」

 まだ熱の引かない耳へ唇を寄せれば、首筋まで赤くなっていく。もう何度も触れているのに、うぶな反応を見せる彼が可愛くてたまらない。
 しかし無意識に持ち上がっていた口の端に気づき、雅之は努めて冷静を装った。

「淳くん、林檎みたいになってきたよ」

「だ、だって、雅之さんが」

「くっついてるだけなのに」

「ど、どきどきする」

「可愛いね」

 俯きがちになった顔を指先で持ち上げて、うろたえた表情をする彼の唇にキスをする。驚きに瞬いたまつげが、頬に触れる感触がした。
 目を開けば瞳はぎゅっと閉じられていて、必死な様子がまた可愛くて仕方がない。

 先ほどよりも深くねっとりと口づけを交わすと、淳はもじもじと膝を揺らし始める。それに気づいて雅之はそっと手を伸ばした。

「ここキツそうだね」

「え、と、……その」

 羞恥で潤んだ瞳は右往左往と視線をさ迷わせる。それでもきゅっとそこをきつく握れば、上擦った小さな声が漏れた。そしてなにかを言いたげに見つめてくる。

「せっかくカフェオレを淹れたけど。これはまたあとでにしよっか」

「……は、はい」

 彼の両手を塞いでいたものをそっと取り上げて、それをテーブルの上に置く。コトンと小さな音が響くくらい、部屋の中は静寂に満ちていた。
 黙っていたら淳の胸の音が聞こえるのではないか、そう思えるほどだ。

 手を伸ばして、するりと腰から胸元まで滑らせる。触れたそこからは手の平に伝わるくらいの心音を感じた。その音にまた雅之の口元が緩む。

「雅之さん」

 胸の音を聴いていると、焦れったくなったのか、淳の両腕が伸ばされた。それが首元に絡み、引き寄せられるままに雅之は彼の無防備な首筋に歯を立てた。
 そのままソファへと身体を押し倒せば、さらに腕に力が込められる。

「ぁっ……んっ、あっ」

 身体をまさぐるたびに、鼻先から抜けた甘い声が響いて、もう理性が焼き切れる寸前だ。思わず乱暴にしてしまいそうになって、大きく息をつく。

「んっ、んっ、……まさ、ゆきさんっ、欲しいっ、あっ、早くっ」

「淳くん、すっかりおねだり上手になったね」

「あっ、ご、ごめん、なさい」

「いいよ、僕も淳くんが欲しい」

 手を這わせ、シャツの上から胸の尖りを指先で引っ掻く。すっかり刺激を覚えた身体は、それだけで熱を孕ませる。
 デニムの下で窮屈そうにしている熱を取りだしてやれば、か弱く震えながら蜜をこぼした。

「ぁっあっ、すぐイっちゃ……」

「いいよ。キツいでしょ。一回イっておきな」

 手の平でじっくりと扱いていくと、涙を浮かべてしがみついてくる。それでも身体は正直で、刺激を求めるように腰が揺れていた。
 熱に浮かされた目で見つめられると、その熱が移る。

 痛いほど張り詰めたものを取りだして、雅之は淳の熱に重ねた。そのことに気づいた彼は、さらにこすりつけようとする。

「淳くん、すごくやらしい」

「ぁっ、……イ、クっ、イクっ、あっ」

 大きく響いた声を唇で塞いで舌を優しく噛むと、ビクビクと身体を跳ね上げて淳は欲を吐き出した。
 それに続いてこらえきれなくなった雅之の熱も弾ける。ドクドクと脈打つたびに、トロトロと二人分の蜜がこぼれていく。

「淳くん」

「雅之さ、ん、もっと」

「うん」

「まさっ、おしっこっ」

「えっ?」

 シャツをたくし上げて、さらに唇を寄せようとしたところで、この雰囲気にそぐわない声が聞こえた。その声に二人揃って肩を跳ね上げる。
 身体を起こしてソファの向こうを見れば、開いた扉の傍で希がまぶたをこすっていた。

 慌ててティッシュで汚れを拭い、くつろげたズボンを元に戻す。そして驚いたまま固まっている、淳の肩を叩いてから、雅之は急いで息子の元へ駆け寄った。

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