静かな室内で粘る水音と、広海先輩の上擦った声が混じり合う。
相変わらず口を覆っているが、熱い息が指の隙間からこぼれて、かなり限界が近いのがわかる。
「可愛い。先輩、めちゃくちゃ可愛い」
すぐにでもイキそうなんだな、というのが手のひらに伝わってくる。それでも一生懸命に声を殺して、羞恥に打ち震えている姿が、本当にたまらなくて。
わざとギリギリのところで、手を緩めた。
「……んんっ、瑛冶、もう、やめっ」
「やめちゃっていいの? 先輩のビクビクって震えちゃってるよ」
「はやく、……っ」
「イキたい?」
ああ、泣き顔すごい可愛い。もうさっさと丸裸にして、思いきり揺さぶりたい。
肩で息するほど辛そうな恋人を見下ろして、下衆なことを考えている男でごめんなさい。だけどもっと乱れてよがる姿が見たい。
「あっぁ、……はやく、はやくしろっ」
「じゃあキスして」
「いや、だ」
「声、我慢できなくなっちゃうから? 俺は聞きたいんだけど」
「イキたい、もう、むり」
いや、俺のほうが可愛すぎて無理。
ぐにぐにと先端をこね回したら、足をばたつかせて身をよじる。切羽詰まった表情で見上げられると、顔がにやついた。
「じゃあ声、ちゃんと聞かせてね」
「んぁっ」
必死に押さえる手を引き剥がして、口の中に指を突っ込む。驚いたように目を見開くけれど、すぐさま刺激を強くすれば、くぐもった声がこぼれてきた。
苦しそうに喘ぐ、その様子にゾクゾクさせられる。
「すごいね。イキっぱなし」
だらだらと、こぼれてくるものが止まらない。ひくんひくんと震える熱に、溢れるものを擦りつけて、さらに刺激する。
すると彼は一際高い声を上げ、身体をのけ反らせて果てた。
「どうしたんですか? 今日すごく敏感じゃない?」
初っ端から刺激が強すぎたのか、ソファに身体を預けたまま、広海先輩は身じろぎ一つしない。
顔を覗き込むと、熱い息を漏らしながら、目を瞑っている。
「先輩? 大丈夫?」
「くっそ、この馬鹿犬」
「えっ! 怒った?」
舌打ちとともに片脚が持ち上がり、身体を蹴飛ばされた。立て続けに足蹴にされて、とっさにその足を押さえ込んでしまう。
身動きできなくなると、先輩はまた大きく舌打ちをした。
少しばかり意地悪が過ぎただろうか。
とはいえ肌が紅く紅潮して、涙目になっている彼はひどく色っぽい。できたらその続きをしたい、と思うのだけれど。
「風呂」
「は、はい!」
しばらく様子を見ていると、背もたれに腕を乗せた彼が、ゆるりと身体を持ち上げる。黙りこくっているので、俺はいそいそと衣服を脱がせてあげた。
「一緒に入っちゃ駄目?」
抱き上げてバスルームまで連れて行くが、一言もなしに、ぴしゃりと扉を閉められてしまった。しばらくすると、中からシャワーの音が聞こえてくる。
「今日は、やっぱりお預け、かな?」
さすがにこれは無理矢理し過ぎたかもしれない。だけれど悔いはない。
すごくえっちな顔が見られたし、よがり方がすごかったし、最後の声めちゃくちゃ良かった。
「でも先輩、やっぱりいつもより疲れてるのかな?」
あまり抵抗がなかった。それに仕事が忙しくて、身体が疲れている時のほうが感じやすいんだよな。
かなり残念ではあるけれど、今日はゆっくりさせてあげよう。
次に休みが合うのはいつかな。ゴールデンウィークくらいまでお預けになるとか、ないよな? さすがにそれは辛い。
いくら俺が我慢強くてもまた一ヶ月先は、辛いというより泣ける。
「おい、瑛冶」
「え? は、はい?」
汚してしまった先輩の服と自分の服をゆすいでいたら、ふいに風呂場から声をかけられた。扉が薄く開いていて、誘われるように近づいてしまう。
「先輩?」
「入っていいぞ」
「え! いいんですか!」
どういう風の吹き回しだろう?
いやそんなことはこの際どうでもいい。もしかしたらまたチャンスがあるかもしれない。
「お邪魔しまーす」
バスルームに足を踏み入れると、彼は湯船に浸かっていた。ぜひ一緒に入りたいところだが、まず先に身体を洗う。
そのあいだちらちら視線を向けて見たが、頬杖をついて俯いたままだ。
「寝てる?」
「寝てねぇよ」
「あ、起きてた」
浴槽に近づいてそっと覗き込むと、顔を持ち上げた先輩に睨まれた。その顔に苦笑いを返せば、またふいと顔をそらされる。
どうしたものかと思うが、黙って突っ立っているわけにもいかない。
「俺も入れて」
出て行ってしまうかと心配にもなった。しかし俺が湯船に身体を沈めても、広海先輩はまったく動かなかった。
なにを考えているのだろうと、ひどく気になる。
「先輩、こっち来て、ってなんでそんなに睨むの? まだ怒ってる?」
両手を広げた俺を、向かいにいる彼は、黙したまま見つめてくる。その目はなにか言いたそうなのだが、口を開く気はないようだ。
だがそのままも焦れったい。腰を浮かせて近づくと、身体を抱き寄せてやや強引に背後に滑り込んだ。
「よし、これこれ。これがしたかったんです」
背後からぎゅっと抱きしめて、うなじにキスをする。さらには濡れた髪に頬ずりして、嗅ぎ慣れない匂いに胸をドキドキとさせた。
こういうのすごく恋人っぽい。先輩とラブホに来るなんて、想像したことなかったな。
いつもと違うだけでテンション上がる。
マンションも音とか声は響かないが、ここならまったく気にする必要なし。とはいえ体調は大丈夫だろうか?
「広海先輩。あんまり黙ってるとまた俺、暴走するよ?」
「よく言う。言ったって止まらねぇくせに」
「えへへ、そうでした」
ため息交じりの声に小さく笑って、うなじに何回もキスをしていたら、腕の中で身じろいだ彼が振り向いた。
じっと見上げてくる黒い瞳を見ていると、むずむずとした気持ちが湧いてくる。
「キスしたいです」
「……すれば」
「やった」
珍しく即お許しが出たので、やんわりと口先に吸いつく。そうすると唇に彼の熱い吐息が触れた。
瞳を見つめ返せば、すっと手が伸ばされて、俺の濡れた前髪をつまんだ。指先は頬を滑り、首元にたどり着くとうなじを引っ掻く。
いま、スイッチが入ったのがわかった。
「広海先輩、好き、大好き」
「んっ……はあ、もっと」
「可愛い」
何度もキスを繰り返しながら、何度も好きを繰り返す。
そのたびに甘い声が漏れて、どんどんと火をつけられる感覚がする。昂ぶってきたものを、彼の背中に擦りつけてしまうが、気持ちが良くてやめられない。
「先輩、ごめん」
「いいから、……もっと」
「ねぇ、中に挿れないからちょっとそこに立ってください。もう出したい」
「して、やろうか?」
「先輩の太もも貸して」
「……仕方ねぇな」
長いため息をついて、立ち上がった広海先輩は、浴室の壁に手をついた。
しなやかな筋肉がついた背中と、締まったウエスト。きゅっと持ち上がった尻を目の前にして、つい鼻息が荒くなった。
できることなら、いますぐに突っ込みたいのだが、久しぶりだからさすがにそこは無理させるわけにいかない。
その代わり、張り詰めたものを太ももの隙間に挿し入れる。そうすると挟み込むように彼は膝を閉じた。
「先輩って肉がついてないですよね」
「嫌ならやめろ」
「やだ。……十分、気持ちいいよ」
柔らかな美尻を掴んで、する時みたいに腰を揺らす。ヌルヌルとした感触と、擦れる感覚に自然と声が出る。
目の前の彼は、俯いていて顔が見えないけれど、感じているのか小さな声をかみ殺していた。
「ちょっと乱暴にしちゃうけど、ごめんね」
「あっ、……っ」
気持ち良さに耐えきれず、激しく腰を使うと、上擦った声がこぼれた。両手をついているから、声を抑えきれないのだろう。さらに甘ったるい声が浴室に響く。
声が漏れるたびに、背中にキスをして噛みついたら、それだけで彼は軽くイってしまった。
「やばい、今日の先輩ほんと可愛すぎる」
今日一日で可愛いを何回言っただろうと、自分に呆れる。しかし可愛いものは可愛い。
もっと堪能していたかったが、もうこれ以上は我慢しきれない。吐き出したもので、たっぷりと彼の背中を汚した。
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