瓶の口に被せられたセロハンを取り、小さな摘みを引っ張って紙蓋を開ける。そして瓶を傾ければ、喉の奥へ甘い液体が滑り落ちていく。
「んー、風呂上がりはやっぱこれだね」
「ミハネくん、あんたホントによく腹壊さないな」
続けざまに瓶を二本空にした僕に、心底感心したような、呆れたような目を向ける、銭湯のおじさんこと斉藤さん。
彼はここに来て、僕がフルーツオレを飲む度に、こうして目を白黒させる。だがこの程度で腹を冷やすほど、僕の身体はか弱く出来ていない。
「逆に飲まないと調子でないんだよねぇ」
「ミハネくんは丈夫だなぁ」
あははと軽く笑い飛ばした僕につられるよう、斉藤さんもまた乾いた笑い声をあげた。
「あれ、ミハネくん。もしかして身長伸びたんじゃないか?」
「へ?」
ふいに目を丸くして、こちらを見つめる斉藤さんに、僕は思わず首を傾げた。
「少し前から気にはなってたんだけど。群青先生もそう思うだろ?」
「……」
同意を求めるように斉藤さんが、いまだ新聞を読んでいる紺野さんへ声をかけるものの、ゆっくりと持ち上げた顔はうんともすんとも言わない。
「相変わらず先生は口数少ない人だなぁ」
「違うよ斉藤さん。紺野さんは先生って言われんのが嫌いなんだよ」
ふっと苦笑いを浮かべた斉藤さんに、僕は肩をすくめて見せた。ちらりと後ろへ視線を向ければ、紺野さんは何も言わずにまた新聞へ視線を落とす。
「そりゃ悪いな。つい癖で言っちまうんだが」
「怒ってはいないみたいだから大丈夫じゃない?」
紺野さんの職業は、
以前お婆ちゃんが孫可愛さで、紺野さんのことを近所のみんなに話してしまい、いまや大抵の人が紺野さんを群青先生とか、先生とか呼ぶ。
「気をつけるよ」
「うん」
何も言わないけれど、それが好きじゃないことは、なんとなく気づいていた。元々紺野さんは派手なことが嫌いなのだ。
「それにしても、まだ身長が伸びるってことは……ミハネくんは高校生くらいなのかもなぁ。まだ昔のこと思い出さないのかい?」
「全然。……身長、ホント伸びてるのかな」
訝しげに首を捻った、斉藤さんの表情を横目で見ながら、僕は脱衣場の隅に置かれていた、身長測定の目盛りを頭に乗せた。
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