第06話 聖女と聖者の格差
夜が明けきらないうちに、裏庭で素振りなどの鍛錬をするのは、リューウェイクの日課だ。 その日の予定によっては、午後の騎士団の鍛錬に参加できないので、天候が悪くない限りは体を動かしてから執務を始める。 官吏たちが登城してくるまでは、王家の宮殿…
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる長編
第05話 国民と聖女の存在
雪兎の両手を掴んだまま、リューウェイクは集中を高めて彼の体内を探る。 手のひらからは温かな魔力が感じられ、意外にも循環する道ができている。 魔力は血液と同じく体内を流れており、循環が良いほど効果を大きく発揮するのだ。本来は道を作る訓練をし…
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第04話 城下町散策
異世界の兄妹は想像以上に自由な人たちだ。 まさか本当に桜花まで城下へ行くと言い出すとは思わなかった。 街の雰囲気に彼らを馴染ませる、簡素なローブですら用意できなかったことが悔やまれた。 黒髪が目立つだけでなく、美男美女で見目が良すぎるせい…
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第03話 女神の祝福
今回の聖女召喚は、喚ばれた者に大きな役割がない旨を雪兎に説明し、帰還については早急に方法を確立させるつもりである、と伝えた。 建国から五百年以上経つが、異世界から聖女が召喚された例は、記録を見る限り両手で数え余るほど。 彼女たちが元の世界…
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第02話 聖女の兄
緩く波打った、前髪の隙間から覗く暗赤色の瞳からは、警戒を感じるがまったく考えが読めない。 言葉が伝えられないせいで余計に掴み所がなく感じる。 王族が居住する宮殿へ向かい、リューウェイクと雪兎が歩いている途中、予想通り神殿の馬車がやって来た…
孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる長編
第01話 救済の聖女
ラーズヘルム王国、第八代国王グレモント・メディダス・ラーズヘルム。 もうすぐ在位十一年目を迎える彼の治世は乱れもなく平和そのもの。 広い大地に女神が降り立って人が営みを始め、建国されてからずっと、大地は彼女の加護に護られている。 王族や民…
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序章~はじまりの日~
木々の合間から見える青い空で鳥が旋回していた。茶色に黒マダラのその鳥は、ラーズヘルム王国第三騎士団が所有している伝令用の鷹だ。 鳴き声につられて頭上を見上げたリューウェイクは、懐に忍ばせた呼び笛を取り出し息を吹き込む。しばらくすると笛の音…
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思い出の中の彼04
最高においしい、優哉特製のシーフードカレーを食べたはずなのに、あまり記憶に残っていない。 それもこれも優哉が食事中にわざと、何度も僕を見つめてくるからだ。 可愛い悪戯ではあるけれど、自分の見た目の良さをもっと自覚してほしい。 いや、自覚し…
はじまりの恋 はじまりの恋~AfterDays長編
思い出の中の彼03
昔は学校へ着けばすぐに教科準備室にこもったものだが、それも懐かしい思い出だ。 いまではすっかり職員室に馴染み、準備室を利用する機会も少ない。 だからこそ、あそこには優哉との思い出がたくさん詰まっているとも言える。 時折、準備室へ行くと当時…
はじまりの恋 はじまりの恋~AfterDays長編
思い出の中の彼02
随分と懐かしい姿だ。 真っ白なブレザーにえんじ色のネクタイ。 すらりとした長身に制服がよく似合っていた、高校時代の優哉。 そういえば、あの頃はまだ名前で呼ぶなんてできなかった。『藤堂』 一歩前を歩く彼に呼びかけたら、ゆるりと振り返る。 わ…
はじまりの恋 はじまりの恋~AfterDays長編
思い出の中の彼01
ベッドの上。けだるさの残る体で寝返りを打つと、すっと伸ばされた腕に抱き寄せられた。 僕を腕に抱き込み、優しく微笑んでいる|優《ゆう》|哉《や》は、何度も何度も薄茶色い僕の髪を撫でている。「|佐《さ》|樹《き》さん、大丈夫?」「うん。大丈夫…
はじまりの恋 はじまりの恋~AfterDays長編
幸せを感じる朝
ロヴェの武骨で大きな手が、優しく肌を撫でる感触がたまらない。 首筋や耳の後ろ、こめかみに降る口づけは求められている感じがした。 腹部に負担がかからないよう、後ろから抱きかかえられていて、ゆっくりゆっくりと中を擦っていくロヴェの昂ぶりに、リ…
遅咲きの番は孤独な獅子の心を甘く溶かす 《閑話》穏やかなある日の風景長編