中編

嬉し恥ずかし初デート

 急いでシャワーを浴びて、濡れたくせ毛も乾かして、デニムを履いて、最後によれたプルオーバーのパーカーを着る。 しかし眼鏡を装着して鏡を見ると、これからデートというにはかなりダサい気がした。 真澄は相も変わらず隙がない。今日はフリルのドレスシ…

お付き合いしましょう

 室内に掠れた声が響いている。静かなそこでは、その声とベッドが軋む音と乾いた密着音、それがずっと止むことなく続いていた。 ぎしりぎしりと音がするたび、上擦った声は嫌だ嫌だと繰り返す。それでもそこには縋るような甘さが含まれていた。「ぁっ、やだ…

初めての気持ちいいこと

 身体の内側に、お湯が入り込むという違和感で、ふるりと幸司の肩が震える。しかし真澄は遠慮もなく指を動かし、さらには尻の孔を広げた。「あっ、やっ、真澄さんっ、なにしてるの? そ、そんなとこ、き、汚いよ!」「なにって、真澄のこのふっといのを、こ…

思いがけない再会

 忘れようもない、整った美しい顔立ち。すぐ傍にある真澄の顔に、幸司の声が上擦る。「ま、ます、み、真澄さんっ」「やぁっと顔上げたぁ。もう、ずっと視線を送ってるのに気づいてくれないんだから」「ご、ご、ご、めんなさい。全然声とかわからなくて、顔と…

友人たちの嘘

非日常というものは、通り過ぎると夢や幻のように思えてしまう。 現実の慌ただしさに追われているうちに、思いがけずカメラを構えたあの日から、二週間も過ぎていた。 いつもなら少しばかり長く感じる時間が刻刻と過ぎていき、焦りすら覚える。 学校の講義…

綺麗な花嫁さん

 いざ撮影となると、緊張感が増す。授業でスタジオ撮影は経験があり、手順も覚えている。素材はこの上なく良いので、撮る側の腕のみだ。 しかしそれが一番の問題とも言える。「こうちゃんの準備ができたらでいいよ」「は、はい」「カメラの準備って言うより…

お願いのお願い

 引き止められた人は、大きく瞳を開いて幸司を見ている。突然のことに驚いたのだろう。深みのある赤色のルージュで彩られた唇は、言葉を紡げずにいるのか薄く開いたままだ。 その表情にどうしようかと、幸司は逡巡した。しかしここで引き下がっては、せっか…

理想の人に出会いました

 静かな室内―― カサカサと紙をめくる音や、カツカツとペンを滑らせる音が、不自然なほどよく聞こえる。 沈黙の中、緊張で高まった胸の音は、先ほどからドクドクとうるさく響いていた。膝の上で握りしめられた手も、びっしょりと掻いた汗で濡れている。 …