シリーズ

優しい恋人とおねだり

 家に着くなり、またなし崩しに――そう予想していたのに、伊上は以前のようにがっつくことはせず、紳士的に天希を風呂へと促した。 少しばかり拍子抜けではあったが、別段あのシチュエーションが良かったわけではない。 たまに、くらいであれば、一方的に…

何度だって言える

 二ノ宮家に帰り着いたのは日の暮れた頃だった。成治たちの心配をしていた天希は、すぐさま二人を居間に呼んだ。 田島の顔に青あざの一つや二つ、想像していたのに、現実はそれとは大きく異なっていた。その有様を見て、天希は自分を膝に乗せる恋人を睨み付…

すべてを抱きしめてくれる手

 ざわめきが広がる中で、勢いよくふすまが部屋に倒れた。それとともに男が数人、部屋に転がる。 廊下に立つ人物の周りを四、五人ほどの男たちで囲んでいるが、彼らもまたあっという間に部屋に転がされた。 後ろからやって来た屋敷の人間たちは、その様子に…

三度目の正直、なんかじゃない

 二度あることは三度ある、とよく言ったものだ。ただ今回は見知らぬ車に乗せられた――と言うのは優しすぎる。これは完全に拉致された、が正しい。 一回目は戦々恐々だったが、まだ扱いは良かった。二回目はお迎えだったので、カウントする必要はないかもし…

二文字の想いを込めて

 伊上の誕生日と、成治と約束した日が被っていると気づいたのは、あれから数日後。 いまさら約束を反故にするのも気が進まず、昼間に成治と出掛け、夜に伊上と食事をする約束をした。 本人は自分の誕生日に関心がないのか、プレゼントなどくれなくてもいい…

忘れられていた特別な日

 いつでも清潔な香りがする、しわのないシーツ。そこに身体を投げ出して、天希は小さく息をつく。 玄関先でたっぷりともつれ合ったあと、そのまま風呂場へ流れて、そこでも三回くらいイかされた。 伊上とのセックスは気持ちが良すぎて、天希はすっかり癖に…

いつもとは違う眼差し

 普段の伊上は飄々とした、捉えどころのない性格だ。少しずつ慣れてきたけれど、近しい天希でもなにを考えているか、わからないことがある。 それが今日に限って、ひどくわかりやすい顔をしていた。熱っぽい眼差しは雄弁で、見つめられるだけで胸が騒ぐ。 …

好きの気持ちは止まれない

 病める時も健やかな時も、そんな誓いの言葉がある。一緒に歩いて行くということは、相手の一部を預かること。ただ伊上が相手だと、それがかなり重たい。 一部でも背負うと思うほうが、間違いではと思わせるほどに。 だがそもそも彼は天希にそれを望んでい…

恋が報われない理不尽な理由

 やんわりと触れた唇に胸の鼓動が早まり、すがるように天希は伊上の袖を掴んだ。そうするとさらに口づけが深くなって、舌先で唇を割り広げられる。 滑り込んできたものに、口の中を愛撫される感触。気持ち良さでたまらなくなった天希の鼻先から、甘い声が漏…

糖分高めは特別の証し

 しばし沈黙が続き、天希が箸を引っ込めようかと思い始めた頃、ふいに右手を掴まれる。そしてそのまま引き寄せられて、伊上は炊き込みご飯を口に含んだ。 その瞬間、周りの空気が微かに揺れた感じがした。「うん、なかなかおいしいよ」「お、おう。そうだろ…

前途多難な恋模様

 思いきりお茶を吹き出した成治に、一瞬呆気にとられた。しかしそのあからさまな反応で、片想い相手が誰なのか気づいてしまった。 似たタイプ――ではなく、田島が意中の相手だったのだ。「成治さん、大丈夫ですか?」 盛大に気管に入ったのか、咳き込む成…

恋するわんこは花盛り

 突然現れた少年、彼が着ているのはお坊ちゃんお嬢ちゃんが通う、セレブ高校の制服だった。偏差値も高く、超難関の大学進学率が高いことでも有名だ。 深いグリーンのブレザーにタータンチェックのズボン。着る人間を選ぶ洒落たデザインだが、嫌味なく似合う…