移り恋02

 希をあいだに挟み、まるで親子のように小さな手を繋いで家路に就くと、キッチンに立った淳が雅之と希のために晩御飯を作る。それは雅之にとって最近はよく見る光景だ。
 幼い頃から父子家庭だったという淳の料理はどれも美味しく、希に至っては最近、雅之の作る料理ではあまり満足しなくなってきたほどだ。だからか淳が来た日は普段の倍くらいもりもりとたくさん食事をする。そして腹をいっぱいに満たし、風呂に入ればもうあとは夢の中だ。

「希くん、寝ちゃいました」

 食事の片付けを雅之がしているあいだに、淳は希を風呂にまで入れてくれた。そしてうつらうつらし始めた希を寝かしつけると、笑いながらコートを羽織り身支度をはじめる。けれどソファに腰掛けていた雅之は、そんな淳に笑みを浮かべ隣を軽く叩いた。

「珈琲くらい飲んでいけば?」

「……あ、はい」

 促すように雅之が小さく首を傾げて見せれば、ほんのりと頬を染め淳は小さく頷いた。

「牛乳を三分の一にお砂糖一つ半、だよね。覚えちゃったよ」

 珈琲とは言ったけれど、淳に出すそれはもはやカフェオレだ。最初の頃は珈琲が苦手なことを黙っていたが、なんとなく飲みにくそうにしているのに気がついた雅之がそれを白状させた。それ以来自分でカフェオレを淹れていた淳だが、それをじっと見ていた雅之は少しずつ色んな淳の好みを覚えていった。

「いつもごめんね」

「だ、大丈夫です。おれ、あ、自分は嫌いじゃないのでこういうの」

「そっか、ていうか。ずっと気になってたんだけど、淳くん喋り方普通でいいよ。ここ保育園じゃないし」

 普段はすんなり出てくる淳の敬語も、雅之と二人きりという場面になると酷くぎこちないものに変わる。明らかに意識して緊張しているのがわかって、それはそれで可愛いと雅之は思っていたけれど、ずっとそれではなんだか可哀想な気になった。

「すみません。あ、ごめんなさい」

「気にしなくていいよ」

 慌てた様子でカフェオレの入ったマグカップを握った淳は、耳まで赤く染めながら俯いた。猫舌な淳のために淹れたカフェオレは人肌ほどで、雅之にしてはぬるいと感じるほどだけれど、それでも美味しそうに飲む姿を見ていると口元が自然と緩む。
 しばらくそのまま淳の姿をじっと見つめていると、ゆっくりゆっくりと飲んでいたはずのカップがいつの間にか空になったようだ。ソファを立とうかどうしようかと悩んでいるのが言葉にしなくともよくわかる。そんなちらりと横目で自分を見つめてくる淳の視線が可愛いなと思いながら雅之は微笑んだ。

「わっ、あのっ、高遠さんっ」

「なに?」

「えっ、あの、これは」

 子供が一人寝入っただけで部屋の中はしんと静まる。そんな中に淳の上擦った声が微かに響いた。頬を赤く染め、淳は落ち着きなく身体を身じろがせている。雅之はそんな姿を見下ろすと目を細めて口元を緩めた。

「嫌なら嫌って言ってもいいよ」

 手にしていたカップを攫い、テーブルに置いた雅之は、両腕のあいだに収めた淳を見つめる。雅之の言葉に目を泳がせた淳は先程ソファに押し倒した時から、然して雅之に抵抗を示さない。

「それじゃないといい気になっちゃう」

 毎日、愛息の希のことを考えて帰っていたけれど、いつの間にか雅之は淳に会うのも楽しみだと思うようになっていた。こうして繰り返しやってくる淳に会いたいのか、どちらが口実で本音なのか、近頃それがよくわからない。だから雅之はその気持ちを確かめたくなってしまったのだ。
 そっと赤く染まる頬を指先で撫でて、それから少し厚みのある唇に指を這わせる。すると淳の肩が小さくぴくりと震えた。

 気づけばその柔らかな唇に雅之は口付けていた。唇と舌先で淳の唇をたっぷりと味わい、うっすらと開いたそこから口内に舌をすべり込ませる。逃げるように奥へと引っ込んだ淳の舌を絡め取るように吸い上げれば、小さくくぐもった声が漏れる。その声に気をよくした雅之は、シャツの上から手を這わせてぷっくりとした尖がりを弄り指先でその感触を楽しんだ。

「ぁっ……んっ」

 瞳を潤ませながら身をよじる淳の姿は想像以上に雅之の気持ちを高ぶらせた。デニムからシャツを引き抜きその隙間から素肌に手を忍ばせれば、またぴくりと淳の身体が震える。そしてたくし上げたシャツの隙間から現れた肌に口付けを落として、直接胸の尖がりをつまみ上げると、小さな嬌声が聞こえ雅之は腰のあたりが痺れるような感覚を味わう。

「た、高遠さんっ……待って、待って、嘘っ、あっ」

「ごめんね。淳くんが可愛すぎて、もう待てそうにない」

 耳元にそう囁きながら、少し乱雑にデニムのボタンを外してその中に手をすべり込ませれば、淳の腰が大きく跳ねた。先走りで濡れ始めていた淳の熱を雅之が手のひらと指先で擦りこね回せば、堪えきれなくなってきたのか、小さな嬌声が噛み締めた淳の唇から漏れ聞こえ始める。
 そしてその嬌声に混じりうわ言のように何度も「待って」と繰り返されるが、雅之の手は止まらずに淳を追い詰めていく。均整のとれた引き締まった淳の身体に、赤い花びらのような痕をいくつも刻みながら、時折胸の尖がりを丹念に舐めしゃぶる。

「ひ、んっ、あぁっ、ん」

 繰り返される身体への愛撫に雅之の手の中で濡れそぼった熱が弾けた。けれどその手の動きは止むことはなく、荒い呼吸を繰り返す淳へ更に強い刺激を与えていく。

「駄目っ、あっ、たか、とぉさんっ……ぁっ、ふぁっ、やっ」

「ねぇ淳くん、全然これじゃあ伝わらないよ」

 言葉では抵抗を示すけれど、無理やりデニムを引き下ろされても淳は弱々しく雅之にしがみつくばかりで、いいように身体を弄ばれる。そして顔を真っ赤にしながら瞳に涙を溜めるその表情は雅之の気持ちを煽ることしかしない。下着とデニムを足先から抜き取り、足を押し開くと、隠れていた秘所が上を向いた。
 まじまじとそこを見つめる雅之の視線に淳は顔を赤らめながら、足を閉じようとする。けれど大して力の入っていない抵抗は簡単に雅之の手によって押し留められてしまう。

「ここでしてもいい?」

 こぼれた白濁が伝い落ちる尻たぶを掴みその奥に雅之が指を滑らせると、淳の目が大きく見開かれ雫が一筋頬を伝った。その雫を舌先ですくい上げ、耳元で再び同じ問いかけをすれば、小さく肩が震える。

「お、俺そっちはまだ、したこと、ない」

「……、まだってことは、男の人と経験はあるんだ」

 思いの寄らない返答に少しばかり戸惑い雅之は目を瞬かせてしまった。自分に好意を向けてくれている時点で淳の恋愛傾向は想像をしていたけれど、まさか男性経験まであるとは雅之も想像していない。

「えっ、あっ」

 そんな固まった雅之の反応に、少し顔を青ざめ急に慌てたように淳は目をさ迷わせた。けれどその表情に気がついた雅之はふっと小さく笑い、子供をあやすように腕で頭を抱き寄せそこに頬を寄せる。

「いや、男の子だもんね。経験はあるよね。でもこっちは初めてなんだ」

 固く閉ざされた蕾を指先で何度も撫でると、淳はぎゅっと雅之の腕にしがみついてくる。なんだかその必死な淳の様子が可愛くて、雅之は額や頬やこめかみに幾度も口付けていった。すると少し伏せられていた瞼が持ち上がり、じっと雅之を見つめる。その視線に気づいた雅之は高まった体温とともに、ほんのり色づいていた淳の唇に口付けた。
 唾液が口内で混ざり合いくちゅくちゅくと小さな音が響く。一生懸命に舌を絡ませてくる淳が愛おしくなって、雅之は何度もそれを吸い上げ、舌裏を擦り反応を楽しんだ。

「高遠さん、なんか……慣れてる?」

「え?」

 テーブルの下にある引き出しを雅之が漁っていると、ふいに小さな囁きに似た声が聞こえてきた。その声に雅之が振り返ると視線が真っ直ぐにぶつかり合い、淳は慌てて目を伏せる。

「ん、一応勉強はした」

「えっ」

「君のこと想像した時に、どうすれば気持ちいいのかな、とか?」

 ようやく引き出しから軟膏を探し当てた雅之はそれを持ち上げて、口の端を持ち上げると淳を見つめる。するとその視線に伏せられていた瞼がゆるりと持ち上がり、潤んだ瞳が雅之を真っ直ぐに見つめた。

「ねぇ、その目……誘われてるようにしか見えない」

「そう、思ってくれても、いいです」

「淳くん、僕のこと好き?」

 試すような雅之の言葉に淳の視線は何度も空を泳ぐけれど、しばらくすると下唇をきゅっと噛み淳は顔を上げた。

「好きです」

「じゃぁ、このまま君を僕のものにしていい?」

「……はい」

 囁きにも似た小さな声だったけれど、雅之はその言葉は聞き逃さなかった。食らいつくように淳の唇に口付けて、再び艶めかしい姿態に溺れていく。