短編

小さな幸せのひととき04

 朝倉とのんびりと週末を過ごしてしばらく。 従兄弟と朝倉の予定が立ち、二人を引き合わせる日を迎えた。「兄ちゃん、朝倉さんに失礼な物言いとかするなよ」「相手による」 七つ年上の従兄弟は、渋々といったていを隠さない敦生の様子に、ふんと鼻で笑う。…

小さな幸せのひととき03

 別に元カノの話は禁句ではないのだが、なんだか敦生的には言ってはいけない気持ちが芽生えている。 朝倉は敦生の元彼、ノブの話も気にせずしていいと言う。 忘れなくていいとさえ言うのだけれど、敦生は自身に置き換えて考えるとあまり良い気分がしない。…

小さな幸せのひととき02

 これまでの誤解を解き、敦生は朝倉にもっと自分を意識してほしいと伝えた。 なにもしてくれない理由が自分自身にあったと、気づかなかった数ヶ月を悔いる気分だ。「朝倉さんはさ、もっとこう、ぐいぐい来てくれていいんだぞ」「そういうことは気安く言っち…

小さな幸せのひととき01

 十月の初め、秋の気配がにわかに漂い始めた頃。 夕刻になり、学生の姿がまばらになった大学のカフェで、|敦《あつ》|生《き》は吉報を大いに祝われていた。 夏が始まる前から就職活動に勤しんでいた敦生の元へ、つい先日、内定通知が届いたのだ。「敦生…

一緒にいるためにできること

 チチチッと小鳥のさえずりが聞こえる。まどろみの中でウトウトしていると、ベッドが軋んで、こめかみにキスを落とされる。 そのまま寝たふりをしていれば、さらに頬や鼻先に口づけられた。 次第に悪戯するように、Tシャツの中に手が滑り込んだので、礼斗…

二人のあいだにある見えない距離

 風呂から上がると、脱衣所にシャツとデニムが置かれていた。半袖シャツはオーバーサイズでも、なんとか着られる。デニムはロールアップすれば、問題ない。 それらを身につけると、やんわりと優しい香りがする。香水などではない、それは柔軟剤の香りだった…