短編

Days with you/01

 二人の出逢いのはじまり――それは神谷雪羽が一年だった頃。長いゴールデンウィークが終わってしばらくした時のことだ。その日は昼休み前に理科の教師から、教材を授業までに運んで欲しいと頼まれた。そしてそれは旧校舎の教材室にあると教えられる。 古び…

Love you/02

 なんの躊躇いもなくその店の扉を開くと、日向は雪羽の手を握ったまま堂々と店の中に入っていく。扉に付けられたベルで来客を悟ったらしい店員が奥から「いらっしゃいませ」と顔を出す。するとその店員は少し驚いた顔をして日向を見つめ、そしてそれから雪羽…

Love you/01

 休日の街中は人で溢れている。昼前からこんなにもたくさん人が出歩いているのだなと、あくびを噛み締めながらぼんやりと人波を見つめる視線がひとつ。神谷雪羽(かみやゆきは)は人が賑わう駅からほんのわずか離れたコンビニの壁にもたれていた。 楽しげな…

Chocolate/02

「雪羽、今日もぎりぎりセーフだな」「おーい神谷、大丈夫かぁ?」 いつもの調子で雪羽が教室に走り込む頃、丁度予鈴が鳴り響いた。入り口で俯き肩で息をする雪羽に、クラスメイト達は苦笑いや安堵の笑みを浮かべて迎える。無事にたどり着いたことでほんの少…

夏に咲いた花02

 夕刻が近づき、少し太陽の光が和らいできた頃、二人は伊那に声をかけて出かけることにした。 まだ陽射しは強いからと、彼女は敦生に少しつばの広い麦わら帽子を被せてくれる。そして裸足の足にサンダルを履かせてくれた。 どれも朝倉の子供の頃のものだと…

夏に咲いた花01

 都会の夏はじりじりと地面を焦がし、コンクリートで覆われた街は陽炎のように揺らめく。 連日気温が三十度を超えるのは当たり前で、そんなうだるような暑さにげんなりとさせられる。 エアコンと扇風機で、キンと冷やされた部屋から出るのが嫌になるほどだ…

心に芽吹く花

 沈み始めた太陽は、晴れ渡っていた青空をいつしかオレンジ色に変え、高く伸びた建物や道行く人々を照らしていた。 時刻は十八時十六分――大きな噴水が、初夏の暑さを和らげる夕刻の公園、仕事帰りのスーツ姿が多く目に留まる。 みな帰路へつくのか、それ…

君を待つ年の瀬

 大晦日の夜――一人こたつに入って、ぼんやりテレビ画面を見つめる。時刻は二十時半、あと三時間も過ぎれば今年が終わる。 今年を振り返るとそれほど楽しい思い出があるわけではなかった。 けれど秋頃に恋人との関係が進展した。いままで飛び出したら飛び…

独占的04

 初めて好きだと告げたのは中学一年の夏。胸を高鳴らせて告げた言葉に、鷹くんは笑って俺も好きだって言った。 でもその時はまだ僕の本当の気持ちは伝わっていなくて、必死な僕を見て不思議そうな顔をしていた。 それから僕はことあるごとに好きだと繰り返…

独占的03

 僕は生まれてからいままでずっと、親にも周りにも手のかからない子だと言われてきた。 自分のことが自分で出来ない物心つく前も、夜泣きも騒ぎもしない大人しい子だとありがたがられていた。 それに比べたら明博なんてね、とかよく兄と比べられていたっけ…

独占的02

 他人の感情はひどく生ぬるくて絡むようにまとわりついてくる。それに気づいた時には息苦しさを覚えていた。だから曖昧に微笑んで、その場をやり過ごす。 寄せてくる波が過ぎ去るのを待つように、息を潜めてただそこに立ち尽くした。 だけどいつだって僕の…

独占的01

 一緒にいられたのはたった一年。春の訪れと共に鷹くんは高校を卒業していき、大学生になってしまった。 僕も卒業したら同じ大学に行きたいと思っていたのだけれど、鷹くんは服飾専門の大学に入ってしまったので、あとを追うに追えない。 興味もないのに追…