76.甘さを感じる

 初めて触れた唇は少しかさついていた。けれどなぜだかひどく甘くて蜂蜜を舐めているような気分になる。その甘さを絡め取るみたいに何度も口づけて、かさつく唇が濡れるほど深く合わせた。そして触れるだけだった口づけは次第に熱を帯びて、その先を求めるように舌先で閉じている唇を撫でてしまう。

「み、つき、くん」

「口開けて」

 戸惑うように瞳を揺らす小津をじっと見つめる。再びペロリと唇を舐めるとそっと頭を撫でられた。なだめすかされるようなそのぬくもりに光喜が口を尖らせれば、目の前の顔は優しく微笑む。そして触れていた手に力がこもり、ゆっくりと引き寄せられる。

「んっ」

 食むように口づけられて、うっすらと開いた光喜の唇を割って肉厚な舌が滑り込んだ。その感触に光喜は目を瞬かせる。いままでキスを仕掛けることがあっても仕掛けられたことがない。
 口の中を撫でられ、歯列をなぞられ、舌を絡め取られると小さく肩が震えた。身体の力が抜けると背後のソファに押しつけられて、さらに追い詰められていく。普段穏やかな小津の雄臭さを感じると興奮してしまう。
 昨日の夜も熱を灯した目に見つめられて、光喜は心がざわめき身体が火照った。口の中に溢れた唾液まで啜られると、それだけで気持ち良くなる。鼻先から抜けた甘い声を上げながら、しがみつく腕に力を込めたら、舌を撫でられ吸いつかれた。

「あっ、……んっ」

「……ご、ごめん、ちょっと、がっつき過ぎた」

 唇が離れていくと唾液がこぼれて透明な糸を引く。指先で口元を拭われるとそれだけで身体が疼いて、潤んだ瞳で目の前の人を見上げてしまう。その艶のある光喜の眼差しに小津は頬を赤らめた。

「小津さん、俺、すごくえっちな気分になってきた」

「えっ?」

「もうここ、こんなだよ」

 驚いた顔をして身を引いた小津の手を取ると、光喜はそれを自分の下腹部に当てる。ボクサーパンツにはっきりと浮かび上がった熱に触れて、ますます小津は顔を赤くした。けれどふっと我に返った光喜は視線をキョロキョロとさ迷わせる。

「あ、そうだ。勝利は?」

「さっき、光喜くんがキスしてくれた時に二人とも出てった」

「そうなんだ。じゃあ、誰もいないよね」

「……うん、まあ」

「じゃあ、触って、昨日一回も触ってもらえなかったし」

「え、あ、いや」

「小津さん、昨日のこと、どのくらい覚えてるの?」

 うろたえるような顔をする小津の瞳をじっと見つめる。その光喜の視線に目線はうろうろとするが、ブレることがないとわかると小さく息をついた。

「事細かに全部を覚えているわけじゃないんだけど、割と覚えているというか。ごめん、あの時の自分はひどく都合のいい夢を見ていた気分で」

「ふぅん、じゃあ、あれは小津さんの願望なんだ。結構激しいのが好きなんだね」

「ご、ごめん! 僕、かなり酷くしてしまった気がしていて、身体きつかったよね」

「うん、いまも正直言って腰がだるいけど。気持ち良かったからいいよ。でも初めてなのにあんなに気持ちいいこと知っちゃうと、癖になりそう。責任とってね」

「え! あ、ああ、うん。せ、責任持って一生大事にします。次はもっと優しくするから」

「んふふ、いいよ。小津さんの好きにしてくれて。でもいまは、これ触って」

 いじらしい小津の言葉に口の端を上げると、光喜は腰を上げて下着を引き下ろす。上を向いた熱からは蜜が溢れ出していて、ぬらぬらと卑猥なほど濡れている。そこを見る小津の目の色が変わり、その変化を見た光喜は喉を鳴らしてつばを飲み込む。
 伸ばされた手に包み込まれるだけで、身体がぞくぞくとして足が震えた。いままで何度も光喜は相手に奉仕をされたことはある。あるけれど、いままでとは違う男性らしい大きな手、小津の分厚い手に握られていると思うとそれだけでイってしまいそうな気分だった。

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