待てもお預けもできない
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 確約を得てのんびりと食事をした雄史たちは、晩酌に移行するとソファでいちゃいちゃし始めた。
 なんとなく甘い雰囲気を察したのか、にゃむがふて腐れて雄史に何度も猫パンチを食らわせ、暴れた結果――

 にゃむの尻尾に引っかかったグラスが勢いよく倒れ、仲裁しようとした志織がビールを浴びる羽目になった。
 さすがににゃむも驚いたのだろう。瞬間、尻尾がぶわっと膨らんで、その後はしなしな~っと力なく床に垂れた。

「にゃむはどうしてる?」

「落ち込んでるみたいで、あそこで寝てます」

 シャワーを浴びて戻ってきた志織は、雄史の視線の先へ顔を動かす。
 そこには用意されたふかふかの猫ベッドで、くるんと丸くなったにゃむの背中があった。志織が戻ってきて気になっているらしく、耳がピクピクしている。

「相当しょげてるみたいですよ。俺が体を拭いても大人しかったです」

「たまには反省させておくのがいい。雄史が優しいから少し図に乗っているんだ」

「でもあんなに落ち込んで、可哀想ですし」

「敵に塩を送るなんて、雄史は余裕だな」

「余裕じゃないですけど。にゃむがしょんぼりしているのを見ていたくなくて」

「まったく、そんなだからいつまで経っても、にゃむに格下扱いされるんだぞ。まあ、雄史のそういうところは俺は好きだがな」

 志織はそのままにしておくつもりだったようだが、雄史の言葉に肩をすくめて、先に雄史の口先へキスを贈ってからにゃむの元へ行った。
 彼が近づくと顔を上げたにゃむは、必死にニャーニャーと鳴いている。

 志織がひとしきり撫でて彼女を諭したら、ちらっと雄史のほうを向き、か細い声で「うにゃぁ」と鳴く。
 もしかして「ごめん」では、と雄史が口を開きかければ、すぐさまにゃむは再びくるんと丸まってしまった。

「これが0.1%のデレ?」

「明日にはけろっとしているはずだ」

「そうなんだ。なら良かった」

「というわけだから、そろそろ俺に気を回してくれ」

 ほっとする雄史の所へ戻ってきた志織は、目の前に立つと肩に両腕を乗せてくる。
 ドキッとしている間もなく、首へ絡んだ腕に雄史は体を引き寄せられた。

「んっ」

 触れた矢先に唇を食べられてしまいそうなキス。
 驚きで怯んだ雄史にお構いなしで、志織は口の中まで侵入してくる。

「ふぁっ、志織さん、待って……お、れが」

 主導権は自分が握りたかったのに、容赦なく志織の舌に口内を荒らされていく。
 経験値の違いなのだろうが、彼にキスをされると雄史のほうが追い詰められてしまうのだ。

 なんとか意思を保とうと、ぎゅっと目を閉じていた雄史だけれど、口づけの合間に漏れる志織の呼気に、熱がこもり始めたのに気づいた。
 そーっと雄史がまぶたを開いたら、真っ黒なまつげが震えているのが目に飛び込み、数秒後――パチリと開いたブルーグレーの瞳に見つめ返される。

「集中力が足りないぞ」

「いやいや、俺、めちゃくちゃ志織さんに集中しまくりですけど」

 顔を離した志織が、唾液で濡れた自分の唇を舌先でなぞるものだから、雄史の股間が痛いほど張り詰めた。

「志織さん、ベッドに行こう?」

「可愛いな雄史は、立ってると身長差を感じるから、あんまり好きじゃないんだよな。たかが数センチなのに」

「うっ、だって……ってちょ、志織さん!」

「ベッドに行くんだろう?」

「そうだけどそうじゃない!」

 ひょいと体を抱き上げられて、足元がブレることもなく志織にベッドへ運ばれた。
 軽々と移動させられた雄史は現在、両手で顔を覆い、恥ずかしさと情けなさと、志織の男前ぶりにときめくという、忙しない心境だ。

「うう、俺も志織さん抱っこしたい」

「それはまた今度な」

 かすかにマットレスが揺れて、志織が乗り上がってきたのがわかる。
 しばらくして、ベッドに横たわる雄史を見下ろす、志織の影が落ちてきた。

 目の前でTシャツを脱ぎ捨てた彼の行動に、雄史の鼓動が騒がしくなる。
 そうなるとわかっているからこその確信的犯行。

「志織さんから俺と同じ匂いがする」

 素肌だからだろうか。ふわっと香ってくるすっきりとした匂い。
 志織の家で風呂に入ることは何度もあったが、自分の家で彼が風呂に入り、同じ香りをさせている状況が雄史の胸をドキドキと高鳴らせる。

 そっと手を伸ばして志織の頬を撫で、わずかに湿った短い髪を撫で、ゆっくりと首筋に手のひらを這わせていく。
 普段よりも少しばかり早い心音が、触れた場所から伝わると、雄史の表情は自然と緩んだものになった。

「志織さん、好き、大好き」

 雄史が触れる手に力を込めれば、察した志織が体を預けてくる。
 完全に体重をかける真似はしないが、それでも重みを感じると嬉しくなるのが不思議だ。

 ちゅっちゅと口先に優しく口づけをしてから、徐々に深くしていくと志織も応えてくれる。
 この体勢も志織の色っぽい顔が見られていいが、雄史は腹筋に力を入れると位置を入れ替え、彼の体をベッドへ押し倒した。

「ふっ、んっ……」

「志織さん、可愛い」

 キスを繰り返しながら体をまさぐっていると、志織の腰が艶めかしく揺れて、彼の昂ぶりが雄史へ擦り付けられる。
 スウェット越しに感じる熱さに、緩む顔を引き締められず、雄史はなおも煽るように志織の性感帯を刺激した。

 適度な筋肉がついているから、志織の体は柔らかな弾力があり、何度触れてもやみつきになる。

「志織さんはあんまり自分でしないの? 結構溜まってそう」

 愛撫をしつつ身ぐるみを剥がしていったら、思った以上に志織の昂ぶりは限界が近そうに見える。
 反り立つものを手で扱くと、切なそうにピクピクと震えた。

「……前だけだと大してすっきりしない」

「えっ、待って、志織さん。俺を失血死させる気?」

「いま鼻血を吹き出すなよ。俺はあんたのせいで性欲が溜まりまくってるんだ」

「ぐっ、志織さんが相変わらずえっちだ」

 鼻の粘膜が弱いのか、興奮しすぎると鼻血をこぼしやすい雄史。ぐっとこらえて鼻を押さえ、天井を向く。
 しばらくすーはーと深呼吸を繰り返し、最後に大きく息を吐き出すと、いま一度志織に向き合った。

「そんなに溜まってるなら、こっちのほうが待ち遠しかったですよね」

 するりと肌を辿り、奥の窄まりに指を這わせたら、ピクンと腰が跳ねた。
 視線の先にいる志織は目元を赤くし、呼吸を乱した色っぽさMAXで、どんどんと雄史自身も余裕がなくなり始める。

 とはいえ志織の話しぶりでは自分でしている様子もない。しばらく使っていない場所へ、無理やり侵入するわけにもいかないので、彼と一緒に雄史もしばし我慢だ。

「志織さんがいつも買ってくれてるのと同じの買っておきました」

 男性同士は専用のローションが一番いいと以前聞いて、しっかり学ぶ忠犬雄史に、志織はクスッと小さく笑いをこぼした。

「今夜はいっぱい気持ち良くなりましょうね」

「んっ、前戯は適当でいいぞ」

「志織さんのせっかち」

 自分で自身の昂ぶりを慰めていても、志織に触れるのは雄史も久しぶり。
 暴走しないよう気をつけているのに、初っ端から煽ってくる恋人には敵わない。

「可愛い、志織さん。気持ちいい?」

 粘度の高いローションがぐちゃぐちゃと音を立てる中で、志織の粗い呼吸音が広い室内に響く。
 つられて自分の息が上がっているのを感じている雄史は、何度も唾を飲み込んでいた。

「はあ、めちゃくちゃえっちな眺め。俺の指をおいしそうに飲み込んでるの、可愛い」

 我慢しきれず志織の腰を引き寄せ、雄史が太ももの内側や付け根、引き締まった尻に口づけていたら、かかとで背中を叩かれた。

「もういい、早くしろ」

「ご、ごめんなさい。体勢がキツいですよね」

 雄史は肩に志織の片脚を担いでおり、彼は仰向けで高く腰を上げた状態だ。
 指を飲み込む熟れた場所から、綺麗に割れた腹筋、張りのある胸へまで。非常に眺めが良いが、志織からすると決して楽ではないだろう。

「そう、じゃない。俺が、限界だ」

「うっ、破壊力……」

 志織の一言でイキそうになり、慌てて雄史は下腹に力を込めた。
 なんとかやり過ごしほっとすれば、すぐに「早く」と急かされる。挿れた瞬間に出てしまいそうで、雄史の中で嬉しさと焦りが交差した。

「志織さん! お願い、俺をあんまり急かさないで」

「一回出しても、まだ何回もできるだろ?」

「そ、そうだけど」

「今日は何箱、用意したんだ?」

「……ぐぅ、三箱です。あ、でも六個入りで」

「ふっ……言い訳しなくても、いつものことだ……んぅっ」

「志織さんの意地悪!」

 からかうみたいに笑われたので、たっぷりほぐした場所から指を抜き去り、雄史は自身のギリギリなほど張り詰めたものをあてがう。
 くぷりと先端を飲み込むと、志織は余裕をなくしぎゅっと眉を寄せた。

「んふふ、志織さん。イキそう? 可愛い」

「あんたのほうが、よっぽど……意地悪だ」

 一度柔く緩んだ場所は、馴染みのある雄史の昂ぶりをどんどんと飲み込んでいく。
 それだけでも我慢がならないのか、強く枕を掴む志織は小さく声を漏らし、顎をのけ反らせた。

「志織さん、いまイったよね?」

「んあぁっ、ゆ……しっ、はっ、ぁっ」

「中、痙攣してるみたいになってて、気持ちいい」

 志織が止めないのをいいことに、雄史はそのまま立て続けに腰を振る。
 こうして体を繋げるのはどのくらいぶりか。

 耳に心地いい志織の嬌声と中の締まり具合に、次第に加減が効かなくなってくる。
 だが志織は優しく抱かれるより、少し乱暴なほうが好みだ。

「めちゃくちゃいい、あっ、駄目だ。一回、俺もイっていい?」

「はっ、ぁ……もう少し、我慢しろ」

「酷い、志織さん! 俺、はち切れそうなんだけど!」

 おそらく志織的にいま、ちょうどいいところなのだろう。
 理不尽に「待て」を言い渡されて、限界ギリギリの雄史は身を屈め、彼の胸元に吸いつく。

 ツンとした場所をきつく吸い、舌で舐れば、少しだけ逃げ出すように志織は体をよじった。
 胸をいじりながら奥を突くと、彼はイキやすいのだ。

 腰を大きく動かさず、グラインドして中をじっくりと擦ってやれば、こらえるように志織の太ももが震える。

「志織さん、一緒にイこ?」

「ゆう、し、こっち……」

「ん、いいよ。ふふっ、可愛い」

 呼びかけに顔を上げたら、両腕が伸ばされていた。
 誘われるままに近づき、望むままに口づけて、志織の手が背中へ回ると雄史は律動を再開する。

 キスの合間に漏れる声が愛おしくて、歯止めが利かない状態で志織を揺さぶり、せき止めていたものを吐き出す。
 同時に彼の指先に力が入ると、力がこもった腹筋にパタパタと我慢の証しがこぼれた。

 さらには中でもぎゅっと締めつけられ、雄史は志織を強く抱きしめる。

「志織さんのイった顔、最高に可愛い」

「語彙力、低下してるぞ」

「無理、いまの俺、志織さんの名前と可愛いしか出てこない」

「回復、早すぎ」

「えへへ、もう一回しましょう?」

 ちゅっちゅと志織の顔にキスを降らしている内に、また雄史の下半身に熱が集まり始める。
 呆れた視線を受け止めながらゴムを交換したら、彼は黙って片膝を立てた。ローションで濡れた場所へ再び昂ぶりを埋めれば、互いに甘い呼気が漏れる。

「雄史、眩しいから明るさを落として」

「あっ、はーい」

 ヘッドボードの棚に手を伸ばし、雄史がリモコンを操作すると、落ち着いた明るさが二人の興奮を助長したみたいに感じた。
 そのあとはお互いに尽きるまで、足りない部分を満たす勢いで抱き合った。

 翌日、昼近くにお腹が空いたと、にゃむに叩き起こされたのは言うまでもない。

 

end

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