もういっかい
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 広めの風呂場は、二人で入ってもさほど窮屈ではない。まだ彼の足の具合が酷かった時はほぼ毎日、雄史が志織の世話を焼いていた。甲斐甲斐しく髪を洗ってあげたり、身体を洗ってあげたり。
 最後には決まって二人で一緒に湯船に浸かった。さすがに少しばかり狭苦しくはあったが、それでもぴったりとくっついていられるのが良かった。

「あー、これ、ちょっと見えそう」

「まあ、しばらくは首元があまり見えないのを着るさ」

「志織さん、ごめんね」

 二人分の汗と汚れを綺麗さっぱり洗い流して、いつものように雄史は後ろから恋人を抱きしめる。首筋に顔を寄せると、赤い痕がかなり際どいところについていた。
 ちょんちょんと指先で触れると、くすぐったいのか志織は首をすくめる。それに誘われるように唇を寄せたら、身体に回していた腕を叩かれた。

「またつける気だろう」

「えへへ、いっぱい残したくなるんです。マーキングってやつです」

「雄史は溜め込むと爆発するタイプみたいだから、これからはこまめにしないと駄目だな」

「ん? どういう意味ですか?」

 ほんの少し重たい息を吐きながら、志織は雄史の両手を握る。ぎゅっと握りしめられたその感触に目を瞬かせて、前を向く顔をのぞき込んだら、彼は指先を引き寄せてそこに唇を落とした。

「雄史はどう見ても性癖は普通だろうと思ったし、男相手に、そういうのはどうかと思っていたんだ」

「えっ! でも、俺は最初からかなり」

「うん、かなり積極的だったな」

 初めて志織が触れることを許してくれた日、今日と変わらず雄史は大暴走した。肌という肌、隅から隅まで舐め尽くして、躊躇うことなく彼のものを口に含んで、驚かれたのはいまでも記憶に新しい。

「え? もしかしてずっと俺に気を使ってたんですか?」

「ほら、熱が冷めて我に返ったら困るだろう」

「ない、ないです! それは絶対にないです! 俺、会えない時は毎晩のように志織さんで抜いてます!」

 そんな主張はどうなのだ、と思うけれど、ここは誤解を解かなくてはならない。けれど雄史の答えは予測済みだったのか、志織はふっと吹き出すように笑った。

「……ん、まあ、そうなのかなとも思った。最近は。……というわけで、あんたは溜めるとろくなことにならなさそうだから、これからは」

「あっ、毎日はさすがに志織さんを壊しそうだから、週に三回、四回……えっと、多いですよね。ああ、俺っ、そんなに性欲強いほうじゃなかったんですけど!」

「好きな時にしてもいい。翌日に響かない程度なら」

「えっ」

 ちらりと振り向いた志織の視線に、雄史は一気に欲を膨らませた。艶っぽいような色っぽいような眼差し。気づけば顎を掴んで引き寄せ、覆い被さるように口づけていた。
 さらに隙間に舌をねじ込めば、それに応えるように絡め取られる。

「はあ、志織さんっ」

「……雄史、当たってる」

「ご、ごめんなさいっ」

「いいよ。そこにあるシェービングジェル使って」

「えっ、な、なんか慣れてる」

「そういうこと言うな。しないのか?」

「しますっ」

 風呂場で一体誰と――それを考えると一瞬、胸の内が複雑になるけれど、単純な雄史はすぐに目の前のものに夢中になる。鼻息荒く答えて笑われながらも、また嬉々として彼の身体を開いていく。
 いままで誰としていようが、彼を抱きしめられるのはこれから先はずっと、自分だけなのだ。そう思うとますます気分も上がっていく。

「足、痛くないです?」

「ぁっ……んっ、痛くない。それより」

「それより?」

「もっと、激しく」

 甘ったるく息を吐き出しながら、誘うような目をされて、平常心でいられる男はどれほどいるだろうか。
 いくら考えても、雄史の頭の中には煩悩しか残らなく、絡みつく内壁がヒクつくたびに鼻息が荒くなる。

 浴室の壁に、しがみついている彼の腰を引き寄せると、お望み通り乱暴なくらい激しく熱を突き入れた。
 するとそれがたまらないのか、志織の上擦った声が湿った空間に響いて、頭に血が上るような感覚がした。

「……んぁっ、いいっ、そこ、もっとっ」

「もう、志織さんがえっちすぎて俺、どうにかなりそう」

「幻滅、した?」

「しません。それどころかますます溺れちゃいそう」

「じゃあ、もっと溺れて」

 小さく笑った恋人に煽られて、さきほどまでの気遣いが、雄史の頭からすっ飛んだ。いままで自分は、わりと淡泊なほうだったと記憶している。
 それなのにこんなにも、性欲に貪欲であったのかと、再認識して自分自身に呆れた。

 それでも志織の甘い声を聞いていると、理性が焼き切れて塵にもならない。後ろからうなじに噛みつく自分は、犬かなにかであっただろうかと思えた。

「ぁっ、雄史、……足」

「え? あっ、ごめんなさい! 待ってください、いま」

 ぎゅっと腕を掴まれて我に返る。顔をしかめる志織の顔に冷や汗を掻いた。足場の不安定な浴槽で、痛めた足に負担がかからないはずがない。慌てて離れようとするが、さらに腕をきつく掴まれた。

「抜かなくていいから、座れ」

「えっ? あ、えっと、はい」

 言われるままに彼を抱き寄せながら、ゆっくりと湯の中へ腰を下ろす。こういう時に、普段身体を鍛えていて良かったとしみじみとする。
 体格差はそれほど大きくはないが、やはり志織のほうが雄史より少しだけ身体は大きい。

「動いても平気、ですか?」

「うん」

「お湯、入らない?」

「平気だ。……んっ」

「くっついてるのいいですね。志織さんがドキドキしてるの感じる」

 後ろから抱きかかえながら、ゆっくりと腰を揺らすと、背中から鼓動が伝わる。顔を覗き込めば、感じ入っている志織の艶っぽい表情が良く見えた。
 ベッドでは夢中になりすぎて、彼の反応をまったく見られなかったので、ここぞとばかりに雄史はじっくりとそれを堪能する。

「志織さん、可愛い。すんごく気持ち良さそうな顔してる」

「んんっ、雄史、そこ」

「ここ? さっきより深いからいいとこに当たるのかな」

「あっ、ぁ、あっ……はっ、んっ」

「志織さん、こっち向いて」

 頬を赤く染める恍惚とした表情に誘われる。顎を引き寄せて口づけると、志織はいつもに増して積極的に舌を絡めてきた。少し熱を持った舌先をかじれば、ひくんと中が収縮する。
 奥をぐりぐりと擦り上げたら、彼の熱が震えて蜜が溢れだした。自分のものだけで――そう思うと、恋人がひどく可愛く思える。しかし思わず口を歪めたら、口の端を引っ張られた。

「痛いです」

「もう、のぼせる」

「わぁっ、ご、ごめんなさい!」

 くたっともたれかかってくる志織に、慌てて雄史は自身の熱を引き抜いた。頬に触れると、本当にすっかりのぼせているようで、かなり熱い。急いで浴槽を出ようと腕に力を込める――けれど。
 彼を抱き上げて立ち上がれば、なぜかにんまりと笑われた。

「志織さん?」

「それどうするんだ?」

「ええーっと、大丈夫です。そのうち」

「してやるから離して」

「……ご、ごちそうさまです」

 思わぬ申し出に馬鹿正直に返事をすると、ぷっと吹き出した彼に、今度は盛大に笑われた。

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