姫始めは待てません
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 なにかそれらしいことを、言ったのかと聞いたら、恋人ができたとしか言っていないという。
 それなのに一目見ただけで、彼に見抜かれるとは、どれほど普段から顔に出ているのか。しかしまあ、素直な性格だからなと、志織はそれ以上はなにも言わなかった。

「さっむ、かったですね」

「かなり冷え込んできたな」

 帰宅すると部屋の暖かさが身に染みる。コートを脱ぎ、マフラーを解いて、エアコンの温度を一度だけ上げた。吐き出される温風で、冷えた身体は少しずつ熱を取り戻す。
 さらに熱を求めて、ベッドに腰かけて肩を寄せ合った。身体に腕を回され、近づいてきた唇に志織は瞳を閉じる。

 やんわりと触れるだけのキス。それだけなのに胸も心もあたたかくなる。

「ホットカーペットか、こたつでも買うか?」

「こたつ! いいですね! ……んふふ、こたつえっちとか」

「……妄想中、悪いけど。うちはそんなに大きなこたつは置けないぞ」

「え? ああ、そっか確かに。俺たちじゃ、この部屋のサイズに合うこたつだと、狭いですね」

 悩ましい顔をして眉を寄せる恋人に、志織はふっと息を吐くように笑う。すると彼は目を瞬かせて首を傾げた。

「あんたってほんと面白い」

「え? あっ、ごめんなさいっ。帰ってきた早々、すっごくがっついてるみたいですよね」

「まあ、そういうところ雄史らしくて可愛いよ」

 顔を真っ赤にして視線を右往左往させる、その様子がたまらなく可愛い。志織はそっと顔を寄せて、今度は自分から唇を寄せる。
 さらには少しばかり体重をかけて、彼を押し倒す。ベッドに倒れた雄史は、またぱちぱちと瞬いてから、相好を崩した。

「志織さんって、積極的ですよね」

「あんたとするセックスは好きだからな」

「そんな風に言われたら、俺、張り切っちゃいますよ」

「うん」

 伸びてきた両手に引き寄せられて、身を屈めて近づく。唇を重ねれば、ついばむようにキスをされた。優しく何度も触れる、それがくすぐったい気持ちにさせられる。
 こんな初恋みたいな恋愛。この歳でするとは思わなかったと、志織はしみじみ思う。

 いままで付き合ってきた相手に、いい加減だったわけではない。それでも触れるだけで愛おしさが募る、そんな想いをしたことがなかった。

「志織さん、好きです」

「俺も、雄史が好きだよ」

「両想い、ですね」

 頬を撫でられて、志織はその手にすり寄った。そして催促するように、彼の着ているシャツを引っ張ると、身体に乗り上がる。

「あ、そういえば姫始めって、二日でしたっけ?」

「今日はやめておく?」

「えっ! やめません! せっかく志織さんも乗り気になってくれてるのに、もったいない! 駄目です!」

「じゃあ早く」

 ひどく真面目な顔をして、子供みたいなことを言う。それに笑いながらも、志織は自分のシャツのボタンを外していった。
 それをまじまじと見つめられて、いささか気恥ずかしくもあるが、瞳に熱が灯る瞬間は好きだった。

「あの、志織さん」

「なに?」

「今日はこの体勢で、しませんか?」

「……そういやしたこと、なかったっけ?」

 おずおずと照れたように視線を上げてくる、雄史の表情に志織は唇を歪める。それとともに少しだけ腰を揺らして、すでに兆しを見せている熱を刺激した。

「やばい、また鼻血が出そう」

「いいところで、それはやめてくれよ」

「極力努力します」

 ボタンを外したシャツを床に落とし、インナーも脱ぎ捨てる。それを下から見ている彼は、鼻を押さえながらも、またじっと見つめてきた。
 さながらストリップショーのようだ、と思うけれど、志織自身も楽しんでいるところがある。

「志織さん、えっちです」

「見物料は高いぞ。ほら、雄史も脱げ」

「は、はいっ! ……志織さんって、色っぽいって言うか、んー、えっと、やっぱりすごくえっちな身体ですよね」

「そうか?」

「胸がこう大きくて柔らかくて、ウエストがきゅっと締まってて、お尻の形もいいし、身体のラインが、見てるだけでもう、ごちそうさまです」

「見てるだけでいいのか?」

「いえ! 触りたいし、めちゃくちゃ愛したいです」

 ふんと鼻息を荒く拳を握りしめる、その様子には笑わずにいられない。可愛い彼氏を、もっとその気にさせるために、志織は手早く彼の身ぐるみを剥ぎ取った。
 そうするとスイッチが入ったのか、ベッドに押し倒し返される。

「今日はいっぱいキスマーク、つけてもいい?」

「ほどほどにな」

 志織に返事に雄史はにんまりと笑って、身体に手を這わせてきた。ラインを辿るように滑らせ、腰の辺りで指先を伝わせる。その感触に志織は、小さく肩を跳ね上げた。
 そこは性感帯の一つだ。そこを撫でながらすると、よく締まると言われたことがある。

 肌を重ねる度に、自分の弱いところを知った。しかしこれまでは、そんな場所は感じもしなかったので、雄史専用かもしれないとも思う。
 彼に慣らされていく、それが志織はたまらなかった。

「ぁっ……んっ」

「志織さんのここ、すごくぷっくりして、可愛くなってきましたよね」

「あんたがしつこく吸うからだろ」

「え、だって、ここをいじると可愛い声、出すから、クセになっちゃって」

 胸の尖りを指先でカリカリと引っかかれて、腰の辺りがぞわぞわとする。くすぐったいのと、気持ちいいのが混ざり合った感じだ。
 刺激を強くされると、堪えても志織の口からは声が漏れる。上擦った情けない声。

 だが雄史にとっては、それがいいのだろう。瞳の熱が揺らめく。

「ぁ、あっ……んぅっ」

「なんだか真っ赤なベリーみたいで、おいしそう」

 舌先でつつかれて、ぬめる感触と生温かい感触に、無意識に身じろいでいた。腰をくねらせると、さらにねっとりと舌で撫でられる。尖らせた舌先で弾かれる度に、身体が跳ねた。

「志織さんの身体ってほんと、敏感ですよね。気持ち良さそうにしてもらえて嬉しいです」

「雄史、そこばっかりじゃなくて、早く」

「んふふ、一番気持ちいいのはここですか?」

 脚を割り開いて、するりと尻の奥へ手を滑らせてくる。トントンと指先でそこを刺激されると、期待が膨らんできゅっと力がこもった。

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