ハロウィンが食べたい
13/21

 ハロウィン――それはヨーロッパの秋の収穫と先祖の霊を迎え悪霊を追い払うお祭りと言われている。悪霊を仮装で驚かして追っ払ってしまえ! なんて日本じゃ思いつかなさそうな発想だ。
 日本で言うところお盆に当たる期間なわけだが、それを知っている人はどれほどいるのだろう。いまや仮装して大騒ぎするイベントだしな。大きな街では警察がかなり動員されているらしいので、ちょっとはた迷惑とも言える。

 そんな夜、賑やかなイベントに参加するでもなく自宅でビールグラスを傾けている。魔女のコスプレをしている恋人の後ろ姿を見ながら。可愛い彼女が長い脚を剥き出しにして可愛い格好をしていたら、そりゃあ萌えるところだが、うちの可愛い恋人は百八十を超える男前だ。
 キリッとした純和風な顔立ちで横顔は凜々しい。ヒラヒラのスカートから覗く脚もちょっと筋肉質。さて彼はなんでまたこのコスチュームを選んだのやら。しかし決して悪くない。ニヤニヤと口の端を上げながらなぜか片脚だけのボーダーのニーハイを眺める。

 絶対領域ってやつ? お尻ギリギリのスカートとの隙間、なかなかいい。
 けれど写真を撮ることは嫌がられたので目に焼き付けておこう。え、これさ、もう飯食うより恋人を食べたいよな。

「昭博、なに作ってんの?」

「あ、梶、いま危ない」

 キッチンに立つ後ろ姿に近づけば、ダンっと物々しい音が響く。それに驚いて背中から離れると、まな板の上でかぼちゃが真っ二つになっていた。うちの彼氏、力が強いんだよね。結構立派なかぼちゃなのに。

「かぼちゃのパイグラタンとかぼちゃのスープ」

「ふぅん、かぼちゃづくしだな」

「安かった。嫌い? かぼちゃのケーキも作りたいんだけど」

「いや、わりと好き」

「……あの、梶、俺いま包丁握ってるし」

「うん。なあ、この下なに穿いてるの?」

 ぽっと染まった頬が可愛い。剥き出しになった脚を撫でながら恥じらう顔に鼻の下が伸びる。そうそうこの子、恥ずかしがり屋さんなんだよな。
 ほんとなんでこんな格好してるんだろう。ものすごく俺得だけどさ。

「なんだボクサーパンツじゃん。ちっちゃいヒラヒラのパンツでも良かったのに」

「そ、それはさすがに」

「この衣装どうしたの? こういうのって売ってんの? それにしては安っぽくないけど」

「多美さんが」

「え? 姉ちゃん? 姉ちゃんが作ったの? 昭博に?」

 思いがけず実の姉の名前が出て驚いてしまう。確かにあの人は服飾系の仕事に就いていてミシン使いの達人だが、なんで弟の恋人にこんなもの作っちゃったの? 俺も昭博も二十五を超えた大人よ。
 あ、いや、もしかして俺の趣味がバレてる? ああ、もしかしなくてもバレてるか。

「姉ちゃんなんて?」

「えーっと、梶はコスプレものが好きだから、着たらきっと喜ぶよって」

「あー、そう」

 どこでバレた俺の性癖。あれか、部屋に隠したAVが見つかったか? 俺の秘蔵コレクション。ちくしょう実家に置きっぱなしにするんじゃなかった。しかしここに持ってきて昭博に見つかるのもそれはそれで。っていうか、結局バレてんじゃん!

「あっ! ごめん、俺なんかがこんな格好しても」

「いや、いいよ。十分、すごい可愛いから。やっぱり写真撮らせて」

 困った顔をして眉尻を下げるその表情にぐっとくる。ポケットのスマホを取り出したらますます困り顔になって非常に萌える。これを残さずして死ねない! いっそ動画にするか。

「あ、昭博、ちょっと包丁は危ないから置こうか」

 なにかの拍子にぶっすり刺さったらシャレにならない。握りしめている手を解いてまな板の上に刃物を置くとカメラを起動させてまずは一枚。さらにローアングルから舐めるように移動して、ヒラヒラのスカートの裾をちょっと持ち上げる。パンツが見えないギリギリのところまで。

「梶、撮ってるの?」

「うん、ばっちり。なあ、このまま着衣プレイってどう?」

「ええっ? 待って! それは」

「ただ俺に見せびらかして終わりとは思ってないだろ?」

 きゅっと唇を噛んで首筋まで赤くなったその反応に下衆な笑いが込み上がった。うん、ハロウィンってなかなかいいね。こんなにおいしい思いができる日は毎日だって大歓迎だ。ぴったり身体のラインに沿った衣装の上から手を這わせると昭博の肩が震える。姉よ、いい仕事をした!

「そういやスネ毛も剃ったんだな。すべすべじゃん」

 目の前にしゃがみ込んで剥き出しになってる片方の脚を撫でたら触り心地が最高だった。これは剃ったんじゃなくて除毛クリームかなにかだな。足を膝の上に載せてキスをすれば、小さな上擦った声が聞こえる。

「こんなにさらしちゃって無防備。昭博は脚を触られんの弱いのに」

「んっ、多美さんが、梶は脚フェチだって」

「我が姉よ、よくご存じで。んー、マジ触り心地いい」

「ま、待って、梶。そんなにされると」

「感じちゃう? かっわいいなぁ」

 つるつるの脚にキスをして唇で撫でて、手のひらで触りまくると、足先がきゅっと握られた。力が入って逃げ出しそうなのを感じたので、ぱっと手を離す。けれどそれに反して離されたことに驚く顔がある。

「期待しちゃった? しちゃったんだろ。昭博はエロい子だ」

「ご、ごめん」

「いやいや、可愛いから許す。ってかもっとえっちな声、出していいよ」

 下からのアングルかなりいいな。ちょっとスカートの下が心許ないのか膝が寄ってて内股なのがまた可愛い。ゆっくり膝立ちになって唇を寄せたまま脚を上へと辿ると、ヒラヒラのフリルの中に頭を突っ込む。
 ちょっと反応しているものを鼻先で撫でたら、慌てた昭博の後ろでガタンと音が響いた。そしてそれとともに足元に落ちてきたものに思わず飛び上がってしまう。あと数センチずれてたら、包丁が足の甲に刺さってましたよ。
 不埒な自分に天罰が落ちる前にこれはベッドに直行すべし、だ。

「あーきーちゃん。いいコトしよう」

「でも、ご飯」

「ご飯は熱いうちにって言うだろ」

「え?」

「ああ、ここで抱き上げられない貧弱な俺が恨めしいぜ」

 驚きに戸惑って目を瞬かせている、そのうちに片手を掴むと勢い任せに歩き出す。後ろで待っての声が聞こえるけどそんなことはしていられない。
 可愛い魔女はハロウィンのうちに食べなくちゃ。

ハロウィンを食べたい/end

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