シリーズ

二人の距離

※一緒にいるようになって一年くらい―――――― 冷たい冷気を漂わせるアイスが並んだショーケースの前で、じっと立ち止まってもう五分くらい経った。それでも彼はまだ悩むようにじっと見つめている。「先輩、なに悩んでるんですか?」「新作アイス、抹茶と…

レンアイモヨウ07

 お互い真っ正直なんだろうなと思うと、ほんの少し羨ましくもある。自分はひねくれて、素直に心の内側にある気持ちさえ言葉にできない。 それを言葉というカタチにしてしまったら、なにかがガラガラと崩れ落ちていきそうで、隣にある手さえ握れない。 この…

レンアイモヨウ06

 なにか心の隅に残るような、出来事とはなんだろうかと考えてみるが、なにも浮かばなくて次第に考えるのも疲れてくる。 正直言えばもう考えるのもやめたい。いっそこの手に繋いだものを手放したら、楽になれるだろうか、なんてさらにネガティブな考えまで浮…

レンアイモヨウ05

 あちらのほうがやはり早かったようで、駅に着く前にメッセージが届いていた。 また電車に乗るのだろうから、改札を出なくてもいいのに、律儀に外で待っているようだ。 中にいてもらったほうが、説明が省かれて楽だったとも思うが、仕方ない。 駅前の広間…

レンアイモヨウ04

 残りの時間はなんとか仕事をこなして、一日のタスクは完了させた。文句ばかり言う女子たちは、積み上がったファイルを半分ほど片付け、逃げるように帰っていった。 少しだけ仕事が減った穂村と言えば、ほぼほぼ書類が片付いている。 足元にあったファイル…

レンアイモヨウ03

 本当に好きになった人は、あなた一人だけだ。そんなことをウザいくらいの絡み酒で言っていた。 それがいつだったかはもう覚えていないけれど、自分から好きになったのは俺だけだと、言われて少し気分が良かった。 誰の手垢もついていない、まっさらな感情…

レンアイモヨウ02

 いま自分の中にある感情がなにか、それは自覚しているつもりだ。しかしその感情は、それほど珍しいものではない。 いままでだって相手に好意を持っていたし、付き合っていればこれは当たり前の感情だろう。 それでもいままでとは、どこか違うような気はし…

レンアイモヨウ01

 幼い頃は人を好きになることに優劣はなく、誰を好きだと言っても周りは、子供の戯言くらいの反応だった。 そのまま成長をして思春期になった頃も、若気の至り、好奇心によるもの、程度の印象しかなかったのか。 自分の性癖を自覚したのは少し遅かった。 …

その瞳に溺れる08

 普段はしおらしく大人しいが、スイッチが入ると淫靡だ。自分から脚を開いて、ねだるように見つめてくる。それに誘われて中へと熱を埋めれば、さらに深くまで飲み込もうとする。いつもよりも熱いそこに我を忘れそうになった。「ぁあっ、……んっ、くりゅ、さ…

その瞳に溺れる07

 あんな場所で自分の弱い場所をさらして、イかされるなんて恥辱以外なにでもないと思うが、それだけで溜飲が下がるほど自分はお安くはできていない。もし少しでも遅れていたら、もし気づかぬままだったら、そう思うと腹立たしさが増す。 誰が悪いなどと、そ…

その瞳に溺れる06

 この店とも長い付き合いだ。加賀原の前のマスター、いまのオーナーの頃から世話になっている。一本気な人で、曲がったことやいい加減なことを嫌う、信頼できる人だった。だからその後を継いだ加賀原も、信用していたのだが。 すまんすまんと謝る目の前の男…

その瞳に溺れる05

 最初のうちは、しゃべりが上手い加賀原につられてよく話しよく笑い、少しばかり機嫌が良くなっているくらいだった。しかし時間が経つにつれて、気持ちが大きく浮き上がってきて、それを表すようにずっとにこにこと笑いっぱなしだった。 そんな竜也の表情に…