普段はしおらしく大人しいが、スイッチが入ると淫靡だ。自分から脚を開いて、ねだるように見つめてくる。それに誘われて中へと熱を埋めれば、さらに深くまで飲み込もうとする。いつもよりも熱いそこに我を忘れそうになった。
「ぁあっ、……んっ、くりゅ、さんっ、ぁんっ、もっと、してっ」
「今日はおねだりが多いな。いつもこうでもいいんだけどな」
向かい合う身体を抱き寄せて、下からの突き上げを強くすれば、涙をこぼしながら喘ぐ。そしてもっともっとと、煽るように腰をくねらせる。快楽に飲み込まれているその目は、どこかうつろで、夢見心地と言った表情だ。
肌を舌で撫で、薄い皮膚に噛みつくだけで、肩を震わせて甘い声をこぼすのがたまらない。胸元まで滑らせて、赤く熟れている尖りにかじり付けば、ひくんと身体が跳ねて中がぎゅっと締まる。
それを押し広げるように突き入れれば、吐き出すことなく絶頂を迎えた。ヒクヒクと蠢く中が熱くて、たまらずさらに突き上げる。すると肩が大げさなほど跳ね上がり、首元に絡んでいた腕にしがみつかれた。
「ひぁっ、待って、いま、イってる、あっ、だめっ……んっ、ああっん」
「イってる時に突かれるの、好きだろう?」
「あっあっ、……んぅっ、きもち、いいっ、あっ、駄目、おかしくなっちゃうっ」
「腰が揺れてるぞ」
いやいやと首を振っているのに、腰がいやらしく揺れて、自分の快感を追うように激しく揺らめき出す。ぐちゃぐちゃと音を立てながら、激しく抜き挿しを繰り返し、我を忘れて乱れる姿に口の端が上がる。
「気持ちいいか?」
「ぁっ、いいっ、きもちいいっ、きもち、いいっ、もっとっもっとっ! く、りゅ、うさんっ、もっとっ」
「可愛いな」
「ああっんんっ」
身体をベッドに押し倒し、穿つように深く熱を押し込めば、こぼれ出す嬌声が止まなくなる。跳ね上がる身体を押さえ込んで、何度も深く舐るようにかき回した。泣き喘ぐ声が耳に心地いいくらいに響いて、こちらもどんどんと遠慮がなくなってくる。
「イクッ、イクっ、駄目、いやっ」
「何回でもイかせてやる」
「あ、あ、……っ!」
身体をのけ反らせてまた達すると、きつく締まって搾り取られるように吐き出してしまった。息をついて埋めていたものを抜けば、涙を浮かべた目に物欲しそうに見つめられた。その目が無意識だからこそ、煽られるような気持ちになる。
「大丈夫か? もうどこもかしこも感じるんだろ」
ゆっくりと近づき、色香を漂わせる唇にキスを落とす。するとさらにそれを求めるように腕を伸ばされて、されるがままに身体を寄せた。舌先で唇を舐めてくるのが可愛くて、甘そうな舌をやんわりと囓ると、それだけで肩を震わせる。
「んっ」
「今日の感度の良さはアルコールか」
「酔って、ないです」
「そうか? そのわりにあちこちトロトロだな」
潤んだ瞳、濡れた唇、熟れた尖り、濡れそぼる熱、ぬかるんだ孔、どれも竜也の中の熱を示すように赤らんでいる。たっぷりと唾液が滴るほど口づけて、涙がこぼれてくるのに口を歪めながら、もう一度狭い中へと押し入った。
するとそれを喜ぶように中がうねり、少しの動きでも甘い痺れを感じるのか、赤い舌をちらつかせながら声を漏らす。
「ぁっんっ、九竜、さん、気持ちいい?」
「ああ、あんたの中は最高だよ」
「よか、ったっ、あっ」
健気にきゅうきゅうと締めつけてくるが、そろそろギリギリのところまで来ているのは、見ているとわかる。こちらを見つめる瞳の力は弱く、しがみつく手に力がなく、熱い呼気を漏らす唇は弱々しく震えている。ことさら優しく刺激してやると、その快感を追って意識が飛ぶ。
しばらく力の抜けた身体を撫で回し楽しんでいたが、無意識に締めつけてくるその反応が可愛くて、揺り起こすように激しく揺さぶってしまう。すると意識が浮上して、ぼんやりとした目で見つめ返された。もうほとんど落ちる寸前、それでも竜也は先を求めて腰を揺らめかせる。
「今日は随分と欲しがりだな」
「ずっと、くりゅ、うさんと繋がって、たいです」
「そんなこと言ってたらずっとここに繋いで離さないぞ。毎晩俺に泣かされることになるがそれでもいいのか?」
「そしたら九竜さんの、全部、手に入っちゃい、ますね。ずっと自分だけのものなら、いいのに」
「そんなに俺が欲しいのか?」
「欲しいです。九竜さんの全部、誰にも渡したく、ないです」
涙目でそんなことを言われて、縋られたらすべて投げ出したくなる。この男のためだけに生きて行けたら、どれだけいいのかと思う。思っているよりも執着されていたことに驚きもしたが、嬉しくもあった。
この美しい男が自分だけのものに、そう思えば興奮で震えてしまいそうになる。思いのほかお互いに依存が強かったようだ。
「俺はいまあんた以外、竜也以外に欲しいものはないぞ」
「んふふ、嬉しいです。ずっと傍にいさせてくださいね」
「あんたが逃げ出したくなっても逃がさない」
「自分も、九竜さんが嫌気をさしても離れてあげません」
「じゃあ、早いうちにここへ来い。ここで俺が大事に囲ってやる」
「九竜さんのためならずっと籠の鳥でもいいです」
やはりそう答える、想像通り健気な男だ。けれど不自由に繋いで閉じ込めてはおきたくない。純白の翼は広く伸ばして羽ばたいているくらいが丁度いい。
「あんたは自由に生きて笑っていろ。俺はそれを傍で眺めているほうがいい。どこへだって連れて行ってやる。いくらでも望んで我がままを言え」
「九竜さんは優しい」
「その代わりあんたのすべては俺のものだ。そして俺のすべてはあんたのものだ」
「幸せすぎて、どうし、よう。……あっ、んんっ」
ほろほろと涙をこぼす顔に唇を寄せて、しなやかな身体を揺さぶった。背中に回された腕に抱き込まれて、繋がりが深くなる、それだけでも胸が熱くなる。一生分の想いをこの男に捧げてもいいとさえ思う。
手放さないでいるために、どんなものを失っても構わないと思える。溺れるような盲目的な愛。いつか自分が駄目になりそうな気もするが、それでもこの手に抱いたものに代わりはない。
「ご、ごめんな、さいっ、もう、駄目っ」
「仕方ないな。今日はこれで許してやる」
「ぁっ、あっ、ああっ」
瞳が見開かれて喉がさらけ出される。きつくしがみつかれて、爪を立てられた。けれど腕に浮かび上がった赤い筋だけでも、愛おしさが増した。離すまいと必死になるそれが可愛くて、追い詰めるように貪ってしまう。
痙攣するように、身体をヒクつかせて果てた竜也はくたりとベッドに沈む。さすがに限界を訴えていただけあって、深く落ちてしまったようだ。頬に残る涙のあと拭って髪を梳いても、ぴくりとも反応を示さない。
「こうして他人がここにいるのは、やはり不思議な感覚だな」
広いこのベッドで誰かを抱いたのは初めてだ。一人で寝るためだけに、そんな広さは必要なのかと言われたことはあるが、狭苦しいベッドで寝るよりはマシだろう。それでも竜也の部屋にある、小さなベッドで抱き合って眠るのも悪くない。
ここに住まわせて、いつでも傍にいられるようにするのもいいが、正直言えばあの部屋での時間がなくなるのが惜しくもある。あの部屋の香りと自分とは違う生活感を漂わせる空間。それだけでも気持ちが高まるものがある。
しかし傍に置いておきたい気持ちが強い。目の届かないところに置いておくのは心配でならない。これは自分の独占欲から来るものなのは間違いないだろう。
「早めに引っ越しの日取りを決めさせるか」
「く、りゅう、さん」
「ん? 起こしたか?」
あどけない寝顔に唇を寄せると、まつげが震えた。そして長いまつげが瞬くと、ゆっくりと視線が持ち上がる。涙の膜が張るぼんやりとした瞳。それでもまっすぐと見つめてくるその眼差しに、もう一度惹き寄せられるように唇を重ねる。
「眠ってていいぞ」
「傍に、いてください」
「甘えただな。あとでシャワーを浴びよう」
「……はい」
縋るように見つめてくる瞳にことさら弱い。隣に横たわり、毛布を引き寄せて髪を梳く。じっとこちらを見る瞳はなにを考えているのか、そらされることなくまっすぐだ。しばらくそれを見つめていたら、ふっと視線が和らいでなぜか小さく笑った。
その変化に驚けば、伸びてきた手が頬を撫でる。形を確かめるみたいに触れて、頬を滑り落ちると唇をなぞり、それに気づくと、近づいてきた唇がやんわりと触れた。ついばむ程度の小さなバードキス。拙いそれがなによりも愛おしいと感じる。
「いつも目が覚めたら夢だったらどうしようって思うんです」
「夢物語にしてくれるなといつも言ってるだろう」
「だって九竜さんですよ。こんな素敵な人が自分の傍にいてくれるなんて、夢みたいでしょう?」
「それを言うなら俺だってそうだ。あんたがいつこの腕の中からすり抜けていなくなるかと思って気が気じゃない。俺にとってあんたはすべてが初めての存在だ」
「特別ってことですか?」
「ああ、そうだ」
これ以上に特別なものなんて現れないだろうと思う。いままでの自分をすべて覆していく、そんな存在。そしてこれほどまでに、人を愛おしく思ったこともない。血の繋がりのある親や姉弟でさえ、そこまでの想いを抱いたことはないだろう。
「俺は竜也さえ手に入ればほかに欲しいものはないな」
「自分はとっても幸せ者ですね」
「いまはあんたが俺のすべてだ」
「んふふ、ありがとうございます」
すり寄るぬくもりを抱き寄せて、腕の中に閉じ込める。感極まったように涙を浮かべた瞳に、映る自分の姿、それだけで胸が熱く高鳴っていく。翼を折らずに抱きしめるのに、少しばかり苦労するだろうが、それでもこの愛おしい男を手放すことはできないだろう。
その瞳に溺れる/end
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