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街角は恋をする

一緒に暮らすきっかけ06

 逞しい背中に腕を回し、しがみつくように抱きつく。
 長い指が自分の内側をなぞるたびに、甘ったるい声を上げてしまい、九竜さんが耳元で小さく笑った。

「指だけでも十分良さそうだな」

「そんな、意地悪言わないで……九竜さんのが、ほしいです」

「ほら、何度目だ?」

「ひぅんっ」

 すりすりと奥の良いところを撫でられて、数度目の甘イキ。
 刺激的な快感ではないけれど、何度も繰り返し達すると、体の力が抜けてしまう。抱き上げられ、九竜さんの膝の上に載せられれば、自然と体が彼へともたれる。

「竜也は気持ちいいのが好きだろう? このままずっとイかせてやろうか?」

「だめ、やです! 九竜さんのじゃなくちゃ、やだ」

「突っ込んだら、朝まで寝かさないぞ? 久しぶりだしな」

「今日は、九竜さんが満足するまで、していいです」

 首筋や胸元に口づけてくる九竜さんを腕に抱き込んで、黒髪に頬を寄せる。すると彼は赤らんだ胸の先に舌を這わせてきた。
 ぷくりとしたそこを丹念に舐められ、また自分は甘くすがった声を上げる。

「いやらしい体だ」

「いやらしい、僕は、嫌ですか?」

「そんなわけないだろう? 可愛くてたまらない。……挿れるぞ?」

「嬉しい」

 グッと体を引き寄せられ、無意識に自分は腰を浮かせる。
 大きな両手が尻を鷲掴みにして、彼の切っ先があてがわれた。自ら重心を下ろしたら、九竜さんはクスッと笑って熱いモノを中へと押し込んでくる。

「あぁっ、九竜さんっ!」

「キツいか?」

「ちがっ、あっ、もっと」

 ふるふると首を振って首元へ抱きつけば、九竜さんはさらに奥へと入り込んできた。その質量と熱に、めまいを起こしそうだと思った。
 彼を体の内側に飲み込むたび、多幸感が溢れてくる。いまこの瞬間、彼は自分だけのものだと思えるのだ。

「気持ち、いいです」

「俺もいい、竜也の中は最高にいい」

「ぁっ、あっ、九竜さん、キスがしたい」

 腰を揺らしながらキスをねだると、九竜さんは優しく甘い口づけをくれる。口の中は唾液が溢れ、飲み下すたびにまた、余すことなく彼の舌が粘膜を愛撫してくれた。

「好き、好きです。九竜さん」

「安心しろ、俺も竜也が愛しい」

「ずっと、一緒に」

「心配するな。俺は一生、手放す気はない」

 すがる言葉を口にすると、九竜さんは何倍にもして返してくれる。返ってくる言葉はわかりきっているのに、それでも聞いてしまうのは、自分の弱さだろうか。
 こんな自分が情けなくなってしまうのだけれど、九竜さん「竜也の可愛いところだ」と言ってくれる。

「もっと、ください」

「好きなだけ、くれてやる」

 体をベットへ下ろされ、片脚を担がれた。
 こちらを見下ろす九竜さんの目は獰猛な獣みたいに、爛々としているように見える。ぺろりと舌なめずりする仕草に、ぞくりとした快感を覚えた。

「っふ、あぁっ、ん」

 九竜さんは行為に夢中なときでも、乱暴さがない。
 いつでも気遣ってくれる余裕を持っていて、そんな紳士的な彼が素敵だ、と思うのと同じくらい、我を忘れるくらい自分に溺れて欲しいなんて思う。

「どうした? 少し気持ちがそぞろだな?」

「……どうしたら、僕にもっと、夢中になってくれるかと」

「意外と強欲だな。これ以上俺を溺れさせて、どうする気だ?」

「ぁっ、ん……っ、ひぁっ」

 腰を掴まれ、深くまで九竜さんの熱が押し込まれる。
 素肌に汗を滲ませる彼を見つめながら、快感に体をくねらせると、ニヤリと笑われ、さらに激しく揺さぶられた。
 何度も体を重ねて覚えられているから、的確に感じる場所ばかりを突かれる。

 こらえきれず、無意識に体が上に逃げれば、すぐさま引き戻されてしまった。
 こうなればもう、頭の中が真っ白になるくらいに何度もイカされ、ひたすら甘い声を上げるしかできなくなる。

「はあ、たまらないな。竜也のその顔を見てるだけで興奮する」

 力の抜けた僕の体に覆い被さり、九竜さんは何度も腰を揺らす。
 体にはマーキングするかのようにあとを残し、胸の先は赤く腫れるくらい舐られる。
 
 すべてを彼に奪われるような感覚、埋め尽くされるみたいな感覚が、心を満たしていく。
 ほかの誰でもない、九竜さんだから幸せを覚えるのだ。

「竜也、大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。……九竜さん、よかったですか?」

 すっかり脱力しきって枕に顔を埋めていると、優しく髪を撫でられた。視線を上げて、九竜さんへ問いかけたら、わずかに彼は苦笑する。

「竜也は毎度それを聞くな。あんたじゃなくちゃ、勃たないくらいにはいいよ」

「ふふっ、そうなんですね。ほしくなったらいつでも僕を食べてください」

「毎晩でも?」

「九竜さんなら、毎日でもいいです」

「あんまり俺を甘やかすと後悔するぞ」

 笑う九竜さんの横顔を見ながら、それは僕の台詞だ、と思う。こんなに甘やかして、この人なしではもう駄目だと思えるくらいにして、後悔するぞ、と。
 いまだって、甲斐甲斐しく水を与えてくれたり、体を拭いたりしてくれている。

 これまで特定の人と付き合ったり、部屋へあげたりもしていないと言っていたものの、これほどに優しくしていたのだろうかと気になってしまう。
 きっと九竜さんは「あんただけだ」と言ってくれるのだろうが。
 
「部屋が片付いたら、越してきていいですか?」

「いつでもいいぞ。なんなら明日からここへ居着いてくれてもいい」

「九竜さんこそ、あんまり僕を甘やかさないでください」

「竜也が家で待ってると思えば、すぐにでも帰ってくる」

「嬉しいです」

 仕事が趣味、みたいな性格の九竜さんが、冗談でもこんな風に言ってくれると、特別な存在になれた気がする。
 もそもそと体を起こし、ベッドに腰掛けている九竜さんに抱きつけば、彼は優しい手つきで髪を梳いてくれる。

「いっそ一緒に、在宅勤務にするか」

「会社の方たち、九竜さんがいなくて困りますよ」

「余計な仕事を振られなくていい。それに広い部屋で一人いるよりいいだろう? 仕事のあとに犬の散歩に行けばいい運動だ」

「理想的ですね」

 まるで絵に描いたような幸せ。そんな幸せを与えてくれる九竜さんには感謝しかない。
 あの夜に、この人に出会えたのは自分にとって幸運だ。そして普段なら絶対にしない行動をした、己を褒めてもいい。

「どんな瞬間よりも、いまが幸せです」

「もっと欲張ってくれていいんだがな」

「九竜さんは懐が大きいですね」

「竜也の欲がないんだよ」

 いまの自分はとても欲張りだ、と思っているのだけれど。
 九竜さん曰く――まったく、と言えるくらい欲がないのだとか。普通の人はどれほど欲張りなのだろうか。

「僕は九竜さんがいれば、十分です。あっ、あとわんちゃん」

「気に入ったのを引き取れるといいな」

「はい。九竜さんは動物を飼った経験は?」

「実家に大型犬が三頭いるな。子供の頃からなにかしらいる」

「へぇ、すごいです。僕は実家に猫がいたくらいです」

 大きな犬を常に飼っているのだから、きっと実家も立派なのだろうと想像ができる。広い家が落ち着かないと感じる自分とは、少し違う世界。
 そういえば家族の話をあまり聞いたことがなかった。

「九竜さんは兄弟とかいるんですか? 僕は一人っ子です」

「ああ、いるな。上と下にかしましいのが」

「お姉さんと、妹さん?」

「そうだ。二人とも嫁に行ったから最近は会っていないが」

「九竜さんのご家族なら、皆さん美形でしょうね」

 誰もが振り向きたくなる整った顔立ち。キリリとした眉に黒髪だけれど、彫りが深く、日本人離れした印象を受ける。
 足が長くスタイルもいい。彼の要素を持った女性であれば、モデルのような、女優さんのような人ではないだろうか。

 例えるなら今日、出会った蓮花さんみたいな格好いい女性。

「格好いい人は憧れます」

「俺は竜也みたいな可愛い美人が好きだ」

「……九竜さんの好みなら、いまのままでいいです」

「ぜひそうしてくれ」

 程よい疲れにウトウトとし始めたら、九竜さんはそっと体を抱き寄せて、一緒に体を横たえてくれた。
 髪や頬を撫でて、時折口づけてくれるぬくもりが優しくて、自ら胸元へ顔を埋め、僕は目を閉じる。

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