逞しい背中に腕を回し、しがみつくように抱きつく。
長い指が自分の内側をなぞるたびに、甘ったるい声を上げてしまい、九竜さんが耳元で小さく笑った。
「指だけでも十分良さそうだな」
「そんな、意地悪言わないで……九竜さんのが、ほしいです」
「ほら、何度目だ?」
「ひぅんっ」
すりすりと奥の良いところを撫でられて、数度目の甘イキ。
刺激的な快感ではないけれど、何度も繰り返し達すると、体の力が抜けてしまう。抱き上げられ、九竜さんの膝の上に載せられれば、自然と体が彼へともたれる。
「竜也は気持ちいいのが好きだろう? このままずっとイかせてやろうか?」
「だめ、やです! 九竜さんのじゃなくちゃ、やだ」
「突っ込んだら、朝まで寝かさないぞ? 久しぶりだしな」
「今日は、九竜さんが満足するまで、していいです」
首筋や胸元に口づけてくる九竜さんを腕に抱き込んで、黒髪に頬を寄せる。すると彼は赤らんだ胸の先に舌を這わせてきた。
ぷくりとしたそこを丹念に舐められ、また自分は甘くすがった声を上げる。
「いやらしい体だ」
「いやらしい、僕は、嫌ですか?」
「そんなわけないだろう? 可愛くてたまらない。……挿れるぞ?」
「嬉しい」
グッと体を引き寄せられ、無意識に自分は腰を浮かせる。
大きな両手が尻を鷲掴みにして、彼の切っ先があてがわれた。自ら重心を下ろしたら、九竜さんはクスッと笑って熱いモノを中へと押し込んでくる。
「あぁっ、九竜さんっ!」
「キツいか?」
「ちがっ、あっ、もっと」
ふるふると首を振って首元へ抱きつけば、九竜さんはさらに奥へと入り込んできた。その質量と熱に、めまいを起こしそうだと思った。
彼を体の内側に飲み込むたび、多幸感が溢れてくる。いまこの瞬間、彼は自分だけのものだと思えるのだ。
「気持ち、いいです」
「俺もいい、竜也の中は最高にいい」
「ぁっ、あっ、九竜さん、キスがしたい」
腰を揺らしながらキスをねだると、九竜さんは優しく甘い口づけをくれる。口の中は唾液が溢れ、飲み下すたびにまた、余すことなく彼の舌が粘膜を愛撫してくれた。
「好き、好きです。九竜さん」
「安心しろ、俺も竜也が愛しい」
「ずっと、一緒に」
「心配するな。俺は一生、手放す気はない」
すがる言葉を口にすると、九竜さんは何倍にもして返してくれる。返ってくる言葉はわかりきっているのに、それでも聞いてしまうのは、自分の弱さだろうか。
こんな自分が情けなくなってしまうのだけれど、九竜さん「竜也の可愛いところだ」と言ってくれる。
「もっと、ください」
「好きなだけ、くれてやる」
体をベットへ下ろされ、片脚を担がれた。
こちらを見下ろす九竜さんの目は獰猛な獣みたいに、爛々としているように見える。ぺろりと舌なめずりする仕草に、ぞくりとした快感を覚えた。
「っふ、あぁっ、ん」
九竜さんは行為に夢中なときでも、乱暴さがない。
いつでも気遣ってくれる余裕を持っていて、そんな紳士的な彼が素敵だ、と思うのと同じくらい、我を忘れるくらい自分に溺れて欲しいなんて思う。
「どうした? 少し気持ちがそぞろだな?」
「……どうしたら、僕にもっと、夢中になってくれるかと」
「意外と強欲だな。これ以上俺を溺れさせて、どうする気だ?」
「ぁっ、ん……っ、ひぁっ」
腰を掴まれ、深くまで九竜さんの熱が押し込まれる。
素肌に汗を滲ませる彼を見つめながら、快感に体をくねらせると、ニヤリと笑われ、さらに激しく揺さぶられた。
何度も体を重ねて覚えられているから、的確に感じる場所ばかりを突かれる。
こらえきれず、無意識に体が上に逃げれば、すぐさま引き戻されてしまった。
こうなればもう、頭の中が真っ白になるくらいに何度もイカされ、ひたすら甘い声を上げるしかできなくなる。
「はあ、たまらないな。竜也のその顔を見てるだけで興奮する」
力の抜けた僕の体に覆い被さり、九竜さんは何度も腰を揺らす。
体にはマーキングするかのようにあとを残し、胸の先は赤く腫れるくらい舐られる。
すべてを彼に奪われるような感覚、埋め尽くされるみたいな感覚が、心を満たしていく。
ほかの誰でもない、九竜さんだから幸せを覚えるのだ。
「竜也、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。……九竜さん、よかったですか?」
すっかり脱力しきって枕に顔を埋めていると、優しく髪を撫でられた。視線を上げて、九竜さんへ問いかけたら、わずかに彼は苦笑する。
「竜也は毎度それを聞くな。あんたじゃなくちゃ、勃たないくらいにはいいよ」
「ふふっ、そうなんですね。ほしくなったらいつでも僕を食べてください」
「毎晩でも?」
「九竜さんなら、毎日でもいいです」
「あんまり俺を甘やかすと後悔するぞ」
笑う九竜さんの横顔を見ながら、それは僕の台詞だ、と思う。こんなに甘やかして、この人なしではもう駄目だと思えるくらいにして、後悔するぞ、と。
いまだって、甲斐甲斐しく水を与えてくれたり、体を拭いたりしてくれている。
これまで特定の人と付き合ったり、部屋へあげたりもしていないと言っていたものの、これほどに優しくしていたのだろうかと気になってしまう。
きっと九竜さんは「あんただけだ」と言ってくれるのだろうが。
「部屋が片付いたら、越してきていいですか?」
「いつでもいいぞ。なんなら明日からここへ居着いてくれてもいい」
「九竜さんこそ、あんまり僕を甘やかさないでください」
「竜也が家で待ってると思えば、すぐにでも帰ってくる」
「嬉しいです」
仕事が趣味、みたいな性格の九竜さんが、冗談でもこんな風に言ってくれると、特別な存在になれた気がする。
もそもそと体を起こし、ベッドに腰掛けている九竜さんに抱きつけば、彼は優しい手つきで髪を梳いてくれる。
「いっそ一緒に、在宅勤務にするか」
「会社の方たち、九竜さんがいなくて困りますよ」
「余計な仕事を振られなくていい。それに広い部屋で一人いるよりいいだろう? 仕事のあとに犬の散歩に行けばいい運動だ」
「理想的ですね」
まるで絵に描いたような幸せ。そんな幸せを与えてくれる九竜さんには感謝しかない。
あの夜に、この人に出会えたのは自分にとって幸運だ。そして普段なら絶対にしない行動をした、己を褒めてもいい。
「どんな瞬間よりも、いまが幸せです」
「もっと欲張ってくれていいんだがな」
「九竜さんは懐が大きいですね」
「竜也の欲がないんだよ」
いまの自分はとても欲張りだ、と思っているのだけれど。
九竜さん曰く――まったく、と言えるくらい欲がないのだとか。普通の人はどれほど欲張りなのだろうか。
「僕は九竜さんがいれば、十分です。あっ、あとわんちゃん」
「気に入ったのを引き取れるといいな」
「はい。九竜さんは動物を飼った経験は?」
「実家に大型犬が三頭いるな。子供の頃からなにかしらいる」
「へぇ、すごいです。僕は実家に猫がいたくらいです」
大きな犬を常に飼っているのだから、きっと実家も立派なのだろうと想像ができる。広い家が落ち着かないと感じる自分とは、少し違う世界。
そういえば家族の話をあまり聞いたことがなかった。
「九竜さんは兄弟とかいるんですか? 僕は一人っ子です」
「ああ、いるな。上と下にかしましいのが」
「お姉さんと、妹さん?」
「そうだ。二人とも嫁に行ったから最近は会っていないが」
「九竜さんのご家族なら、皆さん美形でしょうね」
誰もが振り向きたくなる整った顔立ち。キリリとした眉に黒髪だけれど、彫りが深く、日本人離れした印象を受ける。
足が長くスタイルもいい。彼の要素を持った女性であれば、モデルのような、女優さんのような人ではないだろうか。
例えるなら今日、出会った蓮花さんみたいな格好いい女性。
「格好いい人は憧れます」
「俺は竜也みたいな可愛い美人が好きだ」
「……九竜さんの好みなら、いまのままでいいです」
「ぜひそうしてくれ」
程よい疲れにウトウトとし始めたら、九竜さんはそっと体を抱き寄せて、一緒に体を横たえてくれた。
髪や頬を撫でて、時折口づけてくれるぬくもりが優しくて、自ら胸元へ顔を埋め、僕は目を閉じる。
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