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街角は恋をする

一緒に暮らすきっかけ05

 ゆっくりと食事とお酒を楽しんで、九竜さんも久しぶりに伸び伸びとした様子だった。
 いままでは仕事が忙しくても、飲みに出歩いていたようなので、もしかしたら気を使わせているのかもしれない。

 一緒に暮らすのが嬉しかったけれど、彼の生活を制約してしまっていないだろうか。そこだけが心配だ。

「九竜さん、お先にお風呂どうぞ」

「竜也」

「……あ、えっと、先に済ませて、来ます」

 部屋に帰り着いたところで、ふいに後ろから抱き寄せられる。首筋に寄せられた唇で、その意味を悟った。
 ドキドキと高鳴りだした胸の音で、そわそわとした気持ちが生まれる。毎日一緒に寝ているが、このところご無沙汰だった。

 忙しいのにねだるのはよくないと、そう思っていたから誘われるのが嬉しい。
 引き寄せられるままに上向いて、与えられるままにキスを受け入れた。唇を食み忍び込んでくる舌が、口の中を優しく愛撫する。

「く、りゅうさん」

「俺の我慢が効かなくなる前に行ってこい」

「はい」

 ゆるりと離れていく手に寂しさを覚えるけれど、熱くなる頬を誤魔化すように俯きながら、足早にバスルームへと向かう。
 そして気が変わってしまってはいけないと、慌ただしくシャワーを浴びた。

 入れ違いで九竜さんがバスルームへ行ってしまえば、今度は待っている時間が落ち着かなくなる。
 さらには飲んでもいいと言われたワインが、すごくおいしくて、ふわふわ酔いが回り始めた。酔い潰れては元も子もないと、顔が火照り始めたところで手を止める。

「早く来ないかな」

 ソファに寝転び、クッションに顔を埋めれば、自分の家とは違う匂いがした。
 甘いムスクのような香りは、九竜さんに抱きしめられているような心地がする。それはいつもなら安心する匂いなのに、いまは気分がおかしな方向へどんどんと流されていく。

 そろりと手を伸ばして、さらにスウェットの中に手を忍ばせれば、そこはわずかに反応を見せていた。
 酔いの回り始めた頭では、理性のネジが緩む。下着の中まで手を入れて、刺激を与えるように扱くと、甘い痺れが走った。

「んっ……九竜さん。ぁっ、気持ち、いいっ」

 鼻先をクッションに押しつけて、匂いを吸い込みながら、夢中で手を動かす。次第にぬめる水音が響き始め、それだけで興奮を煽られた。

「ぁ、あっ、ど、しよう。止まんない」

 ゾクゾクとする快感が身体に広がり、声も止まらなくなる。静かな室内、そこに自分の上擦った声が響く。
 いけないことをしているような、背徳感もまた気持ちを昂ぶらせた。こんなところ見られたら、そう思うと恥ずかしさで体が火照る。

 それなのに手はまったく止まらず、自分を追い詰めていくばかりだ。

「九竜さんっ、くりゅ、うさんっ、……あぁっ、イクっ」

 荒い呼気とともに、吐き出された体液が手のひらに絡みつく。余韻で頭が惚けるけれど、ソファを汚してしまったかもしれないと、すぐに冷静さが戻ってきた。
 それと同時に、すぐ傍に立っている人の気配も感じる。

「……あっ、九竜さんっ」

「随分と可愛いことをしてるんだな」

 顔を上げると、こちらを見る九竜さんとまっすぐに目が合う。いつから見られていたのだろう。
 羞恥で茹で上げられたような熱さを覚える。

「続きはしないのか?」

「し、しないです」

「自分でしているところ、見せてくれてもいいんだぞ」

「九竜さんが、いるのに、……自分でなんて、嫌です」

「そうか。それじゃあ、期待に応えてやるしかないな」

 近づいてきた九竜さんが身を屈めるので、手を伸ばしそうになったが、自分の手が汚れていることに気づく。
 とっさに引っ込めたら、小さく笑われてしまった。

「可愛いな」

 口元に笑みを浮かべたまま、近くにあったティッシュボックスを引き寄せ、彼は優しく手を拭ってくれる。
 いたたまれない気持ちになるけれど、体を抱き上げられると、しがみつくしかできない。

「今日は竜也が満足するまで可愛がってやる」

「い、いつも満足してます」

「そうか? いつも最後までねだるのは竜也だぞ」

「それは、あんまり覚えてないですっ」

 寝室へ入ると、ぽんとベッドに投げ出されて、体の上に九竜さんがまたがってくる。たったそれだけのことに、胸がはち切れそうになって、壊れてしまいそうなほど胸の音が早くなった。
 自分を見下ろす視線に、ドキドキしすぎてめまいがする。

「恥ずかしがっているわりに、体は素直だな」

「意地悪はしないでください」

 再び反応を見せ始めていたものを、指先でなぞられて肩が震えた。唇を噛みしめて恋人を見上げると、やんわりと目を細められる。

「本当に、竜也は可愛いな」

「え? くりゅ、さんっ」

 スウェットに手をかけられて、あっという間に下着ごと脱がされた。さらにはTシャツまで簡単に、すぽんと身体から抜き取られる。
 恥じらう暇がない手際のよさに、思わず呆気にとられてしまった。

「竜也は隙だらけだな」

「そんなに隙、ありますか? だから変わった人に遭遇しやすいんでしょうか」

「ああ、それは違うな。最近、特に増えたのは、竜也が艶っぽくなってきたからだ」

「艶? ……色気が出た、ってことですか? なんで急に?」

「こうして色事を覚えてきたからだろう。これは俺のせい、だな」

「あっ、九竜さんっ、待って……んっ」

 弧を描いた唇が近づき、首筋を伝う。触れる唇の熱に、また胸の音が騒ぎ始めた。
 昂ぶった熱を大きな手で扱かれたら、頭の中が気持ち良さで埋め尽くされる。こらえる間もなくすがるような声がこぼれて、ひどく恥ずかしい気持ちになった。

「ぁあっ、九竜さん! 駄目、ですっ、すぐにイっちゃう! やぁっ、いや駄目っ」

「あまり余計なことを考えるな。どうせなら可愛くおねだりしてほしいものだな」

「ひぅ、んっ……」

 激しくこすられて、ぐちゃぐちゃと音が響く。自分の体液がどれだけ溢れているか、それを知ると茹だった顔がますます熱を帯びる。
 しかも無意識に、腰を揺らしていることにまで気づいてしまう。こんな自分は見られたくないのに、刺激を求めるように腰が揺らめく。

「竜也、おねだりは?」

「きす、キスしたい、です」

「キス? どんな?」

「……ぁ、口の中、いっぱい撫でてください。気持ちいいの、したい。溶けちゃうくらいの。あっ、ぁっ、そこは駄目、まだ嫌っ」

 ぐりぐりと先端を指先でこねられて、腰がビクビクと跳ね上がる。強烈な快感に襲われ、目の前で光が瞬いたように感じる。
 それでもなお、九竜さんに与えられる刺激は止まらず、体をひくつかせながら果てる。
 出さないままイってしまったせいか、またすぐに気持ち良さに飲み込まれた。

 おねだりのキスに加え、胸の尖りをキツくつままれる。指先でこねられるだけで、腹の奥が疼く。
 胸のジンジンとした痛いけど気持ちいい感覚。口の中の熱い舌の感触。全部とろけそうなほど気持ちよくて、腰を揺らして九竜さんの足に、高ぶったものをこすりつけてしまう。

「ごめんな、さい」

 彼の履いているスウェットを汚してしまい、恥ずかしさともに申し訳なさを覚える。
 見つめられる視線から逃れるように、顔を手のひらで覆うけれど、すぐさまその手を取られる。

「可愛い顔を隠すな。本当になにをしても可愛いな」

「九竜さんは、なにをしても格好いいです」

 大きな手に頬を撫でられ、熱が手のひらに伝わっているのではと思える。それでも優しく触れられるのが、たまらなく嬉しくて、自分からもすり寄ってしまった。
 そんな様子を九竜さんは、目を細めて見つめている。

「九竜さん、そろそろ……ほしいです」

「ここもご無沙汰だな」

 するりと撫でられた丸みを帯びた尻。
 少し女性的な気がして、自分はあまり好きでなかったけれど、九竜さんは形が良くて綺麗だと、褒めてくれる。ぴったりとしたパンツスタイルだと、形が良く分かって良いと言っていたが、一人のときは穿くなとも言われた。

「一人で、していたのか? さっきみたいに」

「……たまに、です。一人ですると、寂しくて」

「本当に可愛すぎる」

 熱を帯びた九竜さんの瞳が、やけに色っぽくて、思わずじっと見つめたら唇を奪われる。さらには無防備だった体を撫でられ、あっという間に意識はすべて彼へと集中した。

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