甘やかな時間
ベッドへ行く前に、真澄は写真の貼られた壁を隠してくれた。自分に見られているのは、さすがに幸司でも気分が落ち着かない。
だがそれを聞いた彼が、全部剥がすと言い出したので、それだけは慌てて止めた。あの数を剥がしていては朝になる。
「こうちゃん、ほんとに大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「それ、どっちの大丈夫?」
いそいそと服を脱ぐ幸司の目の前で、同じように上半身裸になった真澄は、ベッドの端に腰かけた。そしてスラックスをくつろげて、自身の反り立つものを取り出す。
思わずそれを見つめてしまった幸司は、ふっと真澄に笑われ、頬を熱くした。
間近に見ると想像よりもかなり大きい。これがいつも自分の中に、と思うと、今度は想像が追いつかなくなる。
「無理しなくていいよ? 初めてなんだから」
「へ、平気」
「そっか。じゃあ、お願い」
「う、うん」
促されるように腕を引かれて、彼の前に跪く。手を添えて口を開けば、奥へと熱が押し込まれた。喉の奥が詰まる感覚に、嘔吐きそうになるけれど、幸司は口をすぼめて一生懸命に頬ばる。
舌を絡めてしゃぶれば、ひくんと熱が震えて、口の中がヌルヌルとした。
雄臭い匂いと、真澄の匂いが混ざり合うと、ひどく興奮させられる。ベッドは彼の香りが染みついているのだろう。少しだけ酔うみたいに頭がクラクラとした。
「んっ」
「こうちゃん、上手」
「んんっ」
真澄のしてくれたことを思い出しながら舌を使うと、先端で上顎や頬の裏を擦られる。その動きがしている時に似ていて、自分のものまでじくじくと熱を持ち始める。
まるで口の中を犯されているような気分、それが恥ずかしくなり、幸司は目を伏せた。
「はあ、いい。その伏し目がちなのも、たまんないな」
「んぅっ」
「苦しい? ごめんね。でもこうちゃんの口の中、熱くて気持ちよくて」
喉の奥にぐりぐりと先端を押しつけられて、息が詰まる。けれど涙を浮かべる幸司を見下ろす彼が、恍惚な表情を浮かべるので、されるがままになった。
無理矢理に好き勝手にされている、その状況が幸司の興奮を高める。
「こうちゃんも口の中、気持ちいいんだ。腰、揺れてるよ」
「んぁっ、あっ、やっ、だめっ、んあぁっ」
ぐっと足の裏で股間を踏みつけられて、ビクンと幸司の腰が跳ねる。とっさに口を離してしまい、甘ったるい声が部屋に響いた。
キツく痛いくらいにされているのに、幸司の熱はどんどんと膨らんでいく。
「ま、すみ、さっん、……あぁっ」
「こうちゃんって、意外とマゾっ気があるよね」
「ひぅっ、い、いたいっ、もう、やっ」
デニムを押し上げるものが張り詰めて、刺激と混ざって快感を呼ぶ。いままでにない感覚に、幸司は真澄の足に縋りつくが、彼はうっとりと目を細めた。
「そのままイってみなよ」
「ぁっ、あっ……は、んんっ」
ビクビクと幸司が身体を震わせて、イクのと同時に、顔に生ぬるいものが飛び散る。たらりとこぼれるものが眼鏡を汚して、目の前が真っ白になった。
「は、はぁっ、……ん」
「可愛い」
「ます、み、さん」
「おいで、もっと気持ち良くしてあげるから」
すっと眼鏡を取り上げられて、それをサイドテーブルに放られる。カシャンという音とともに、腕を引かれ、気づけばベッドの上に転がされていた。
のし掛かってくる真澄は、もう完全にスイッチが入っているのか、普段よりも男性的な色香が増す。
「いっ、痛い」
首筋に顔を埋めた彼は、そこに歯を立てて齧り付いてきた。じわっと広がる痛みに、幸司が眉をひそめても、やめるどころかさらにキツく噛みつく。
「こうちゃんの痛いは気持ちいい、だよな。いまイったばっかりなのに。もうパンパン」
「……っ、あ、駄目っ、触んないで」
「触んないと痛くて辛いのこうちゃんだろう?」
ゆっくりとファスナーを下ろされる、その刺激だけでゾクゾクとする。わざと金具に擦れるようにされて、幸司はまた腰を跳ね上げた。
「最高にエロい」
「んっぁ」
濡れそぼった下着の上から舌を這わされると、堪えきれずに幸司の声が漏れる。たったこれだけのことに乱れている、自分が恥ずかしくて、幸司は自分の口を両手で塞いだ。
「いいね、それもそそるよ」
するっと簡単にデニムを脱がされ、下着一枚にされる。けれどそれもしとどに濡れて、幸司の熱をくっきりと浮かび上がらせていた。
じっとその様子を真澄に見つめられると、さらに身体が熱くなってくる。
「脚、開いてごらん。こうちゃん、自分で誘って見せてよ」
もじもじと膝を合わせると、指先で膝頭をつつかれた。真澄の仕草に顔を横に振るけれど、幸司はすぐに彼の眼差しに負けてしまった。
満足げに笑う彼の表情に熱が高まる。
「いい子だね」
腰を浮かせて下着を下ろし、片脚を抜いて、真澄の前で尻の奥を広げて見せる。
恥ずかしさで顔が燃えるように熱かった。それでも真澄の目に、誘惑に、幸司は一度も勝てた試しがない。
「後ろ、もうトロトロだ」
「ひぁっ、そこっ、……い、痛いのやだっ」
「さすがに俺でも、ここは無理矢理しないよ」
ぐっと窄まりに指先を含まされて、腰が引ける。しかし先走りや、吐き出したものでぬめりを帯びたそこは、簡単に指一本が入り込んだ。くちゅくちゅと音を立てられると、羞恥で幸司の目に涙が浮かぶ。
「指だけでイってみる?」
「やだっ、真澄さん、のが、いい」
「可愛いこと言うね。んー、今日は俺もあんまり我慢できないし、それは今度にしよう。じゃあ、いい子のこうちゃんには、乗ってもらおうか」
「乗る?」
「そう、俺の上に」
頭の上に疑問符を浮かべている幸司をよそに、真澄は棚からローションを取り、腕を引っ張ってくる。向かい合うと胡座をかいた彼の膝に乗せられた。
「ちょっと腰を浮かせて」
「う、うん」
「冷たい?」
「へい、き……ぁっあ」
尻にこぼされたローションが伝い降りて、ぬかるんだ場所に再び真澄の指が挿入される。入り口を広げながら、長い指が幸司の中をかき回す。
肩口に顔を寄せた幸司が熱い息を吐くと、こめかみや頬、首筋にキスをされた。
真澄が漏らす呼気も熱く、これから彼に抱かれる、という期待を煽る。
「こうちゃん、可愛いね。ほらもう一回、腰上げて」
「うん……って、ま、真澄さんっ、ゴ、ゴムはっ!」
「いいからいいから」
「だ、駄目っ」
言われるがままに腰を浮かせてしまった幸司は、窄まりにあてがわれた熱に腰を引く。先走りのぬめりや熱さを直に感じる。
生でされたのは初めての時だけ、それ以降は必ずゴムをしてくれていた。
それなのに今日に限って、真澄は遠慮もなく猛る熱を押し込もうとする。あたふたと腰を上げようとするが、彼は幸司の腰を掴み、熟れた小さな孔に切っ先を飲み込ませた。
「ぁっ、待って」
「駄目、待たない。こうちゃんも期待してるだろ? 下の口がヒクヒクしてる」
「そ、それは、あぁっ、んっんっ」
ずぶずぶと身体の中に押し込まれる真澄の熱は、ゴムをつけてするよりひどく熱くて、小さな反応さえ伝わってくる。
ゴムなしでされるのが嫌、なのではなく、そのままされると気持ち良くなりすぎるのが、嫌なのだ。
「真澄さんの、あ、つい。お腹の中でビクビク、して、る」
「こうちゃんが可愛くて、たまんないから」
興奮しているのか、真澄の瞳の色がいつもより濃く見える。それを見つめながら、幸司が声を漏らすと、唇を塞がれた。
口の中を荒らされて、それだけでうっとりとする。上も下も気持ちが良くて、幸司は真澄にしがみついた。
すると汗に混じった彼の香りが、立ち上ってくる。匂いが濃くなるほどに、幸司の理性がすり切れていく。
腰を揺らされると、さらに刺激を求めるように、自分でも腰を振ってしまった。そんな幸司の反応に、真澄がニヤリと口の端をあげる。
「えっ、やっ、……ぁ、あっ、待って、そんな、に、したらっ」
腰を押さえ込むように、真澄にがっちりと掴まれて、下からガツガツと激しく突き上げられた。
身体が跳ね上がりそうな勢いと、膨れ上がる刺激に、幸司はひくんと震え、喉をさらけ出した。
「あ、いまのでイったんだ? いつもと違うところに当たって気持ちいい?」
「ぁ、あっ、……んあっ、やっ、だっ、ゆ、揺らさ、ないで! な、かっ、熱いっ」
「ほらちゃんと掴まってないと」
背中に腕を回され抱き寄せられると、幸司はぎゅうぎゅうと真澄の首にしがみついた。
そのあいだも下から、幸司の小さな窄まりが何度も押し広げられる。さらに真澄の指が、縁を広げるようにしてきて、自重で深く貫かれた。
「やっ、おなか、こわれるっ」
「大丈夫だよ。こうちゃん、気持ち良すぎてパニックになってるだろ。気持ちいいって言ってごらん」
「ん、ぁっ、あ、……はぁっ、ま、すみ、さんっ、やだ、イク、イクっ、や、きもちいいっ、こわれるっ、もう、む、り」
「可愛すぎて、俺のほうが無理」
ぶるりと背筋を走る快感に、幸司はキツく真澄の背中を掴んだ。爪の先が彼の皮膚を傷つけたとわかっても、尾を引く感覚に打ち震えるしかできなかった。