二人のあいだにある見えない距離

 風呂から上がると、脱衣所にシャツとデニムが置かれていた。半袖シャツはオーバーサイズでも、なんとか着られる。デニムはロールアップすれば、問題ない。 それらを身につけると、やんわりと優しい香りがする。香水などではない、それは柔軟剤の香りだった…

元には戻らない

 微かな陽射し、それに気づいて礼斗がまぶたを開くと、またベランダで小鳥がさえずっている。そっと寝返りを打って確かめれば、隣で眠る直輝がいた。 あのあと、起こしてはくれなかったのかと、ひどく残念な気持ちが心の内に湧く。前回と同じシチュエーショ…

何度も繰り返してしまう

 あれからどれほど飲んだのか、わからないけれど、頭がふわふわとしていた。 自分がカウンターに、突っ伏していることに礼斗は気づいたが、起き上がれるほどの余力がない。 小さく唸り、ぎゅっと拳を握る。するとすぐ傍で、くすくすと笑う声が聞こえた。 …

可愛くない態度

 直輝と二人で、折り合いをつけたサイトのデザイン。そのあともじっくりと意見を出し合い、さらに変更を加えた。 そうして仕上げたものを、取引先へ提出してみたところ、思いのほか大好評だった。「西崎さん、さすがですね」「いや、俺一人でやったわけじゃ…

もしかして未練?

「ちょっと来い」「アヤ?」 怪訝そうな直輝のことは振り向かずに、礼斗はプリンターで出力されたものを、さっと取り上げる。そして先に立って、空いた会議室に移動した。 黙ってついてきた直輝が、扉を閉めたのを確認すると、今度は紙の束で彼の額を叩く。…

思いがけない展開

 目が覚めるとともに、チチチッと、小鳥のさえずりが聞こえる。ベランダに雀が集まっているのだろう。いつも信昭の家には、小鳥が集まる。 餌をやっているわけでもないのに、不思議なものだ。 そんなことを考えながら、礼斗は柔らかなシーツの心地良さに、…

二人で交わす酒

「すみません。まだ時間、大丈夫ですか?」「ああ、そろそろ」 礼斗が一人でのんびり酒を飲んでいたら、ふいに格子戸が開く音がした。もう閉店間際で、こんな遅い時間に客かと腕時計に視線を落とす。 二十一時半を回ったところなので、残業帰りのサラリーマ…

ぶつかり合いと食い違い

「却下だって言ってるだろう」「いや! これは絶対にオレンジやイエロー系にするべきだよ!」「いや、寒色一択だ。ブルーでいい」「配色のバランスを考えても、ここは」「そんなふわふわした色、このサイトのイメージじゃない」 小さな会議室。そこで机を挟…

Days with you/07

 二人で抱きしめ合って、二人の音が混ざり合うような不思議な感覚になった。触れている熱が伝わっていくようで、ひどく安心する。胸元に頭を預けている日向の髪を撫でながら、雪羽は愛おしさが募るような温かい気持ちにくすぐったさを覚えた。それでもその気…

Days with you/06

 ひと騒動が終わったあともしばらく噂は尾を引いたが、いままでの二人の様子を見慣れているクラスメイトたちの対応でかなり緩和した。 それは日向が雪羽にべったりなのは今更だから、それをいまになってつついてもなにも面白いことはない。好きなら好きでい…