第27話 熱いひととき

 自分で中をいじった時はなんとも思わなかった。だというのに希壱が中をまさぐるたび、腰がビクビクと跳ね、震える。

 しまいには再び昂ぶりだしたモノを、彼に擦りつけていた。

「一真さん。ほんとに可愛い」

「――ぁっ」

 指が増やされ、質量が増えると少し圧迫感を覚える。だが器用な希壱が先ほどの場所を指で挟み撫でたので、それどころではなくなった。
 かみ殺しきれなかった一真の嬌声が漏れる。

「可愛い声。やば、腰にクる。早く挿れたいな。一真さんの腰を掴んでめちゃくちゃ突きまくりたい」

「さっきのゆっくり発言、どこに行った」

「……ごめん。いま理性がすっ飛んだ」

「あっ、ん、希壱――もう、そろそろいい」

「え? 大丈夫?」

「平気、だ」

「このままの体勢で挿れたら駄目?」

 おそらく顔が良く見えるからという理由だろう。じっと上目遣いで伺いを立ててくる顔に、一真は黙って首を横に振って了承する。

「無理そうなら叩くなり、引っ掻くなりしていいから」

 ちゅっちゅと頬にキスをしてくる希壱に、こくんと頷き返したら、彼は一真から指を抜いて、ゴムを取り出す。

「つけてやろうか?」

「いや、いまはいい。一真さんに触られたら、興奮で暴発しそうだから」

 頬を赤くしながらいそいそと準備をする希壱に、一真は小さく笑う。普段はすぐさまのし掛かってくるのに、きちんとすべき部分を蔑ろにしない。

 こういった希壱の律儀さと冷静さを一真は好ましく思っていた。

「あー、すごっ、ぬるっと入っちゃいそう」

 準備が整い、一真の腰を支えた希壱が、ゴクリと喉を鳴らす。

「一気に串刺し、は勘弁」

「き、気をつける」

 希壱が非力で、体格が一真と変わらないなら、この体勢での初めては避けた。
 けれど彼はしっかり一真を支えるだけの力があるので、首元へ腕を回し、身を任せられる。

「痛くない?」

「は……っ、そのまま、奥まで挿れていい」

 指はまだマシだったが、さすがに希壱のモノが入り込むと圧迫感がすごい。息を詰めてしまわないようにと思っていても、無意識に一真の体は緊張する。

「もうちょっと奥、入ってもいい?」

「……ん、いい。大丈夫だ」

「ぎゅうぎゅう締めつけられてる感じ、めちゃくちゃやばい。挿れただけで気持ちいい」

 興奮が増してきたらしい希壱の息が熱い。首筋や耳裏にきつく吸い付いてくるので、一真はとっさに止めた。

「せめて、見えないとこにしてくれ」

「わ、ごめん! ここ痕がついちゃった」

「首にはつけんなよ」

 耳たぶの後ろ辺り、髪の毛でなんとかなるかと諦めて、一真は中途半端だった腰を自分で落とした。

「ふぁっ?」

「ははっ、情けねぇ声」

 一気に根元まで飲み込むと、希壱は腰をビクッと跳ねさせた。危うくイキそうだったようで、ムッとした顔をされる。

「出しちゃったら、ゴムをまた付け直さないといけなくなるでしょ!」

「我慢できたならいいだろ?」

「一真さんが可愛くて憎い」

「なんだよそれ。……んっ」

 むすっとした希壱のほうがよっぽど可愛いと思い笑ったら、仕返しとばかりに腰を揺らされた。意図的に前側を擦ってくるのでいいところが当たる。

「一真さんの中、気持ちいい。もっと突いていい?」

「聞く前に、お前――っ」

 両手で腰を鷲掴みしてきた希壱は、一真の体を押さえ込み、下から何度も突き上げてくる。
 いくら興奮していても、勢い任せにしてこないが、本人が思う以上に奥へ届くので最奥に何度か当たっていた。

「一真さん、好き、大好き」

「んぅっ」

 きつく抱き寄せられ、突き上げられながら唇を塞がれる。
 上からも下からも水音が響き、揺さぶられているいまの一真は、希壱にしがみつくので精一杯だった。

「き、いち、希壱っ、もっとゆっくり」

「ごめん。体勢、変えていい? これぎゅっとできすぎて、一真さんの匂いに酔って歯止めが利かなくなりそう」

「勘弁、してくれ」

 やけに先ほどから首筋に顔を埋めていると思ったら、まさかの発言。乱れる息を吐きながら、一真はぺちりと希壱の頬を叩いた。

「ごめんってば」

「一回」

「やだ、抜かない」

「あっ」

 言葉を先回りされ、ぐっと腹筋に力を込めた希壱に、一真は体をベッドに沈められる。さらには間を置かずに脚を掴まれて、律動が再開された。

「これならゆっくりできるね」

「ゆっくりの、意味っ」

「一真さん、えっちな顔すごく可愛い。もしかして感じてる? ここ?」

「ぁっ、や、希壱っ、そこばっかりやめっ」

「気持ちいいんだここ。男の人の性感帯だもんね。感じられなくても、触られるだけでビクッてしちゃうらしいね」

 下からガンガン突き上げられるのも辛いが、ねぶるように中をかき回されるのも辛い。

 対面よりもじっくりと、一真を観察できる余裕ができたようで、顔をそらしていてもひどく希壱の視線を感じる。

「俺、ずっと一真さんの中に入ってたい」

「無理」

「これから頑張って、中イキができるようにしてあげるね」

(恋人の向上心が溢れすぎていて辛い)

 どれだけ予習復習をしていたのやら。そのうち色々開発されそうで、先行きが恐ろしかった。
 だとしても痛いより気持ちいいほうがマシだ、と思う一真も大概前向きだ。

 だが予想外に、希壱は絶倫体質らしい。

「ねぇ、一真さん。後ろからもしていい?」

「お前、ちょっと元気すぎ、ないか?」

 先ほどから一真の体を貪り尽くす勢いの希壱は、暴発のあと三度くらい達している。
 だというのに一真はなかなかイかせてもらえず、内側でくすぶる熱に浮かされ、思考がぼんやりとしてきた。

「駄目?」

「こういう時にその声、やめろ……ぁっ」

「だって、一真さんがもっと欲しい」

「やっぁっ」

 ゆらゆらと希壱に腰を動かされると、注ぎ足されたローションが粘つく音を立てる。ぐちゃぐちゃと鳴るたび、一真はビクッと肩を震わせた。

 舌なめずりする希壱が、指先で一真の昂ぶりをもてあそぶからだ。

「可愛い、ほんと可愛い」

「んっ、希壱。早く……イキたい」

「やばい、その台詞、何度聞いてもいい」

「あぁっ」

 希壱に太ももを掴まれ、奥まで届くように腰を振られると、刺激の強さで一真は顎をのけ反らせる。

 まだ中で達することはできないが、それでも一真の弱い部分を見つけた希壱に、ずっとそこばかりをいじめられていた。

「――っ、き、いちっ、希壱っ」

「後ろから、してもいい?」

「いいっ、いいからっ、もうっ」

「はあ、可愛い一真さん」

 ぐっと身を屈め、覆い被さってきた希壱が、腰を振りながら胸の先に吸いついてくる。散々もてあそばれた乳首は、ぷっくりと赤く膨らみ、その周囲はキスマークだらけだ。

 胸を吸われ、中を舐られ、腰を揺すられるたびに希壱の腹に自身の昂ぶりが擦れる。体中を刺激され、そのまま一真は達した。

「じゃあ、今度はこっちからね」

「んあぁっ、ま、待て……まだ」

 一真の中で達した希壱は、自身を抜くとすぐさま新しいゴムに付け替える。回数が多いせいですっかり手慣れたものだ――が、感心はできない。

 ぐるっと体を反転させられ、うつ伏せにされた一真は希壱を押し止めようとしたけれど、抵抗空しく、後ろからズブズブと欲望を挿入された。

「一真さん、一真さんっ、好き」

「んっ、好きって言えば……許されると、思うな!」

 熱い息がうなじにかかり、したたり落ちた希壱の汗が背中にこぼれる。
 完全に暴走しているかと思いきや、最初に禁止した首には絶対に痕を残さない。

 興奮しているようで、しっかり理性も残っているのだ。それが腹立たしくて仕方がないものの、体を揺さぶられると一真はなにも考えられなくなった。

 散々出し尽くした希壱に体を解放された頃には、一真は息も絶え絶えだった。筋力が戻り体力もついてきたのに、この有様。

「一真さんごめん。初めてでちょっと夢中になりすぎた」

「ちょっとぉ?」

「いや、だいぶ……」

 あまりのだるさで、一真が体をうつ伏せていると、タオルを掛けた腰を、希壱が申し訳なさそうにさすってくる。

 顔に〝反省〟と書いてあるけれど、ここで甘い顔をするわけにはいかない。

 まさか初回で対面に、正常位からバックまで経験するとは思わなかった。この先なにをされるのか、一真はひどく心配になる。

「これは溜まりに溜まったものなのか。それとも毎回これなのか?」

「一真さん?」

 枕に顔を埋めながら、一真がブツブツ言っていると、怪訝そうな表情で希壱が覗き込んでくる。

 自分とは違い、ピンピンしているのが腹立たしく、一真は片手を伸ばし希壱の頬を引っ張ってつねった。

「え? 怒ってる?」

「別に怒ってはない」

 無駄な肉がついていない頬をむにむにと、指先でいじっていたら途端に、不安そうな顔になる。
 怒っているというよりも、これは完全なる八つ当たりだ。

 まったく希壱に体力が追いつかなかった。しかし一真は「いや待てよ」と思う。
 これでもし一真の体力が続いていたら、まだ希壱が離してくれなかった可能性が高い。

「それは困る」

「なにが困るの?」

 独り言が口から出てしまい、希壱が一真の手を掴み、視線を合わせようとさらに近づいてくる。
 とっさに一真はぱっと反対を向いたけれど、隣で横たわった希壱に腰を抱き寄せられた。

「あんまりくっつくなよ」

「えー、一真さん事後は素っ気ないタイプだったの?」

「お前のせいですげぇだるいんだよ」

「それはごめんってば。次にするときはもっとセーブするから。もうしないとか言わないでね」

「その手があったか」

「酷い! そんな意地悪、言わないでよ!」

 ぎゅっと抱きつき、背後から額を肩に擦りつけてくる希壱に、一真はクツクツと笑った。からかわれたのが悔しいのか、希壱が首の根元に噛みついてくる。

「噛むなよ。それでなくともお前、あちこちやばいくらい、痕をつけたんだから」

「一真さんが意地悪だから。あ、ちょっと歯形がついた」

「ふざけんな! お前も噛むぞ」

「いいよ! 俺にも残して」

「……喜ぶならやらん」

 首を押さえて後ろを向いたら、希壱は瞳をキラキラさせていた。噛み痕を残されるのは彼にとって、どうやらご褒美らしい。
 これ以上、希壱をほくほくの上機嫌にしてやるのは癪だ。

「残してよ。一真さんのものって感じがしてすごくいい」

「――はあ、それなら背中にあれこれとついてんだろ?」

「背中? あっ、爪痕!」

「喜ぶな!」

 思い至った途端、にやぁっと緩んだ顔で笑う希壱から、一真は逃げた。
 だるい体にむち打ち、ベッドから降りると、適当にスウェットだけ穿いて部屋を出る。
「どこに行くの?」

「喉、渇いたんだよ」

「いっぱい声、出したもんね」

「うるせぇ」

 ベッドサイドにあったペッドボトルは、わりと早い段階でなくなった。先ほどから水分が欲しかったのだが、だるくて動く気にならなかったのだ。

 寝室を出たら、後ろから希壱もパンツ一枚の格好でついてくる。

「そういや今日は泊まるって、弥彦に連絡したのか?」

「実は、忘れていて。さっきスマホを見たら、着信がすごかった。サイレントモードにしておいて良かった」

「大丈夫かよ」

「うん。とりあえず明日、改めて連絡するってメッセージを送っておいた」

(お付き合い報告させられそうだな)

 グラスに注いだ水を飲みながら、一真は遠い目をしてしまった。希壱に再会した日と同じく、あの二人に呼び出される予感――いや、確信がした。