いつもとは違う眼差し
18/39

 普段の伊上は飄々とした、捉えどころのない性格だ。少しずつ慣れてきたけれど、近しい天希でもなにを考えているか、わからないことがある。
 それが今日に限って、ひどくわかりやすい顔をしていた。熱っぽい眼差しは雄弁で、見つめられるだけで胸が騒ぐ。

 部屋に向かうあいだも、腰に腕を回されたり、すり寄られたりで、鳴り止まない鼓動がうるさくて仕方がなかった。
 いまにも心臓がはち切れそうで、天希は視線を合わせないよう、必死で俯いた。しかし向けられる目が、まるで夏の陽射しのようで、首筋がじりじりとする。

「あまちゃん」

 部屋の扉が閉まり、オートロックが作動したのとほぼ同時か、後ろから抱き込まれた。予想はしていても、力強い抱擁に容易く胸の音が跳ね上がる。
 うなじに唇が触れ、大きな手に身体をまさぐられるだけで、天希は心臓が壊れてしまいそうだった。

「ま、待った。伊上、ここでは、ちょっ、……っ」

 ふいに首筋に噛みつかれて、天希の口から上擦った声が漏れる。さらにその声を誘うように、伊上は服の下へ手を忍ばせてきた。
 直に触れられると途端に肌が敏感になる。指先が滑らされるだけで熱を持って、じわじわとした心地よさが広がった。

「んっ、伊上、……やだ」

「そんなに嫌?」

「ぁっ、や、……やっぁっ、バカ、揉むなっ」

「あまちゃん、わりと胸が大きいよね」

 肌を撫でる手が胸元までたどり着いて、伊上の大きな手のひらにもてあそばれる。それを止めようと腕を掴んだが、指先で胸の尖りをつままれて、天希は膝を震わせた。

 崩れ落ちそうになる天希の身体を、抱き寄せた伊上は、一向に悪戯を止める気配がない。
 首筋に舌が這うたび、指先が尖りをこね回すたび、肩を跳ね上げてしまい、天希は恥ずかしさに打ち震えた。

「やだ、マジ……で、やっ」

「いやいや言われるのも、なかなかいいね」

「バカ、バカ、マジで馬鹿! ぁっ、触んなっ」

 するりと下りた手に股間を掴まれて、天希はとっさに身をよじる。だが力の入らない身体では、大した抵抗にならない。
 そのままデニムのファスナーを引き下ろされて、侵入を簡単に許してしまった。

「ぁっ、あっ、やだ、そんなにしたら、出る」

「イクところ見せて」

 腰に引っかかっていたデニムがずり落ちて、膝下に溜まる。ますます身動きができなくなった天希の熱が、伊上の手で剥き出しにされ、容赦なく扱かれた。
 いきなり与えられた直接的な刺激に、足がガクガクと震え出し、止まらなくなる。

「あぅっ、……んっ」

 思わずあられもない声を上げそうになり、天希は必死で自分の指を噛んだ。それでも興奮で上がった息が指先から漏れてくる。
 声を殺せば殺すほど、伊上の手は天希を追い詰めて、わざと水音が鳴るように動かされた。その音が耳に響くほどに、羞恥と快感で身体が熱くなっていく。

「い、がみっ、やだ、も、出る」

「いいよ」

「ひぁっ」

 その先を促すように先端を指でこじ開けられて、天希は声を抑えられなくなった。立っていることも辛くなり、必死で恋人の腕にしがみつく。
 口先からは甘え縋るような声が漏れて、無意識に腰を揺らしていた。

「あ、あっんっ」

 ビクンと腰が跳ね、吐き出された体液が勢いよく飛び散る。そしてぱたぱたとこぼれ落ちるものが、艶やかに磨き上げられた床を汚した。

「いっぱい出たね。気持ち良かった?」

 肩で息をする天希の耳朶を噛んで、小さく笑った伊上は、きつく首筋に吸いついてくる。痕を残されたことに気づきはしたが、怒る余裕も抵抗する余裕もない。

「もう一回、イケそうだね」

「だ、駄目だっ、まだ、待って」

 吐き出して萎えたはずのものが、伊上の手でまた芯を持ち始める。ぬめりを帯びて、先ほどよりも気持ちがいい。気づかぬうちに腰を突き出すようにしていて、天希は顔が熱くなった。

「あまちゃん、横、見てみて。すごくエッチだよ」

「え? ……っ、あっ、やだっ」

 ふいに顎を掴まれて、横を向かされたそこには大きな姿見がある。
 下半身を剥き出しにして、惚けた顔をしている自分が目に飛び込み、天希はとっさに目を背けた。

 だが意地の悪い恋人は、それを許してはくれず、鏡に向かい合わされる。さらには真正面を向かされて、恥ずかしい自分の姿がそこに映し出された。

「いつもこんな可愛い顔して、僕におねだりするんだよ。たまらないよね」

「ふ、……ぁっ、やだ、恥ずかしいから、やだ」

「でも恥ずかしくて気持ち良くなってきた?」

 鏡の中で薄く笑う伊上と目が合うと、天希の中にゾクゾクとした快感が湧いてくる。彼の手の内で、自分のものがどんどんと、硬さを取り戻していくのがわかる。
 溢れ出してきた蜜がくちゅくちゅと音を立て、たまらず天希は熱い息を吐く。

「気持ちいい? すぐイケそうだね」

「伊上、これや、だ。俺ばっかり気持ちいいの、やだ。……したい」

「ん? あまちゃんはなにがしたいの?」

「うっ、……セックス、あんた、と、……セックスがしたいっ」

「ほんとに、たまらないね」

「んぅっ」

 ため息とともに無理矢理に上向かされて、唇を塞がれた。舌をねじ込まれて、口の中で暴れるそれに翻弄される。
 そのあいだも昂ぶりへの愛撫は止まず、天希は気持ちの良さに頭がショートしかけた。こぼれたものが太ももを伝う感触にも、興奮を煽られる。

「伊上、はやく」

「可愛いね。だけどそんなにいきなりは入らないよ」

「あっ」

「せめてちゃんとほぐしてあげないと、あまちゃんのここ、怪我するよ」

 天希の身体を鏡に押しつけた伊上は、ヌルつくものを掬い、それを孔に塗り込めていく。そのたび少しずつ指が入り込んでくるのを感じ、天希は何度も甘い声を上げて鏡を引っ掻いた。

「すごい、もうヒクついちゃってるね」

「……もっと、奥、足りねぇよ」

「僕も早く入りたいけど、ちょっとだけ我慢して」

「ゆび、指だけ、でイキそ……」

「あまちゃんって、ほんとお尻いじられるの好きだよね」

 必死で鏡にしがみついて、尻を突き出しながら腰を揺らしている。そんな自分には気づいていたが、天希の頭の中はそれ以上に、気持ち良さに埋め尽くされていた。
 指を増やされて拡げられるだけで、そこがひくんと収縮する。

 もっと太くて硬いもので、中を思いきり擦り上げられたい。めちゃくちゃに揺さぶられたい。
 浮かぶのはそればかりで、いまどんな声を上げているのかも、わからなかった。

「ごめんね。ゴムとか用意してる余裕、ないな」

「んっ、こ、いちっ、紘一、はやくっ」

「それ、ちょっとずるい。可愛すぎて、困る」

「あぁっ!」

 乱雑に腰を鷲掴みされると、一気に奥まで熱いものが入り込んできた。押し広げるように、ねじ込まれる質量で息苦しさを覚えるが、快感にメーターが振り切れる。
 身体が跳ねるほど激しく揺さぶられて、天希の口からひっきりなしに嬌声がこぼれた。

「ぁっ、いい、気持ちいいっ……すげぇあつ、いっ」

「あまちゃんの中も、うねってすごく気持ちいいよ」

「んっ、なんか、いつもよりデカい」

「これ、一番奥まで挿れてあげようか?」

「やっ、駄目、あれ、おかしくなる、からっ」

「でも気持ちいいよね?」

「やだっ、当てんなっ」

 ぐりぐりと最奥を切っ先で擦られて、天希は慌てて振り返る。押し止めるように伊上の腕を掴んだが、中への刺激をまったく止めようとしない。
 それどころか泣きそうに顔を歪めた天希に、笑みを深くした。

「簡単に奥まで、抜けちゃいそうだよね」

「ひ、っ、やだ」

「あまちゃんのえっちな泣き顔を見てると、新しい扉を開きそうになる。お漏らしとか潮吹き、させてみたいよね」

「……ぁ、っ」

 いまにも奥を広げて結腸まで入り込みそうな感覚に、天希は歯を食いしばった。鏡を掴む指先は白くなり、じわりと涙が浮かぶ。

「こら、唇を噛んじゃ駄目だよ。ほら、もうしないから声出して。……ほんと可愛くてたまらないな」

「ほんとに、もう、しねぇ?」

「うん、ちゃんと気持ち良くしてあげるから、いっぱい啼いてごらん」

「そ、いう、変態くさいこと、言うな。……や、ぁっ、そんなにしたら、すぐイ、クっ」

「何回でも気持ちよくしてあげるよ」

 いつもより熱さを感じるもので、身体の内側を擦られるたびに、快感が込み上がる。遠慮の欠片もなく腰を使われて、天希は髪を振り乱して甘ったるい声を上げた。
 気持ち良さで力が抜けると、再び鏡に身体を押しつけられる。

「ふ、ぁっ、……だ、めっ、……こう、いちっ、待って、激しいっ、あっぁっ、気持ち良くて、頭、ばかに、なる」

「こういうの、好きだろう? さっきから中、すごいことになってる」

「いいっ、きもち、いいっ、……ぁっ、やっ、イキそうっ」

「可愛い。いいよ、お尻だけでイってごらん」

 うなじに噛みつかれた途端、快感の波がじわじわと押し寄せて、開きっぱなしになった天希の口から唾液がこぼれる。
 チカチカと目の前で星が瞬くような感覚に、限界を感じる。それでも腹の奥に吐き出された欲の熱さに、天希は身体を震わせた。

リアクション各5回・メッセージ:Clap