ゆっくりと食事とお酒を楽しんで、九竜さんも久しぶりに伸び伸びとした様子だった。
いままでは仕事が忙しくても、飲みに出歩いていたようなので、もしかしたら気を使わせているのかもしれない。
一緒に暮らすのが嬉しかったけれど、彼の生活を制約してしまっていないだろうか。そこだけが心配だ。
「九竜さん、お先にお風呂どうぞ」
「竜也」
「……あ、えっと、先に済ませて、来ます」
部屋に帰り着いたところで、ふいに後ろから抱き寄せられる。首筋に寄せられた唇で、その意味を悟った。
ドキドキと高鳴りだした胸の音で、そわそわとした気持ちが生まれる。毎日一緒に寝ているが、このところご無沙汰だった。
忙しいのにねだるのはよくないと、そう思っていたから誘われるのが嬉しい。
引き寄せられるままに上向いて、与えられるままにキスを受け入れた。唇を食み忍び込んでくる舌が、口の中を優しく愛撫する。
「く、りゅうさん」
「俺の我慢が効かなくなる前に行ってこい」
「はい」
ゆるりと離れていく手に寂しさを覚えるけれど、熱くなる頬を誤魔化すように俯きながら、足早にバスルームへと向かう。
そして気が変わってしまってはいけないと、慌ただしくシャワーを浴びた。
入れ違いで九竜さんがバスルームへ行ってしまえば、今度は待っている時間が落ち着かなくなる。
さらには飲んでもいいと言われたワインが、すごくおいしくて、ふわふわ酔いが回り始めた。酔い潰れては元も子もないと、顔が火照り始めたところで手を止める。
「早く来ないかな」
ソファに寝転び、クッションに顔を埋めれば、自分の家とは違う匂いがした。
甘いムスクのような香りは、九竜さんに抱きしめられているような心地がする。それはいつもなら安心する匂いなのに、いまは気分がおかしな方向へどんどんと流されていく。
そろりと手を伸ばして、さらにスウェットの中に手を忍ばせれば、そこはわずかに反応を見せていた。
酔いの回り始めた頭では、理性のネジが緩む。下着の中まで手を入れて、刺激を与えるように扱くと、甘い痺れが走った。
「んっ……九竜さん。ぁっ、気持ち、いいっ」
鼻先をクッションに押しつけて、匂いを吸い込みながら、夢中で手を動かす。次第にぬめる水音が響き始め、それだけで興奮を煽られた。
「ぁ、あっ、ど、しよう。止まんない」
ゾクゾクとする快感が身体に広がり、声も止まらなくなる。静かな室内、そこに自分の上擦った声が響く。
いけないことをしているような、背徳感もまた気持ちを昂ぶらせた。こんなところ見られたら、そう思うと恥ずかしさで体が火照る。
それなのに手はまったく止まらず、自分を追い詰めていくばかりだ。
「九竜さんっ、くりゅ、うさんっ、……あぁっ、イクっ」
荒い呼気とともに、吐き出された体液が手のひらに絡みつく。余韻で頭が惚けるけれど、ソファを汚してしまったかもしれないと、すぐに冷静さが戻ってきた。
それと同時に、すぐ傍に立っている人の気配も感じる。
「……あっ、九竜さんっ」
「随分と可愛いことをしてるんだな」
顔を上げると、こちらを見る九竜さんとまっすぐに目が合う。いつから見られていたのだろう。
羞恥で茹で上げられたような熱さを覚える。
「続きはしないのか?」
「し、しないです」
「自分でしているところ、見せてくれてもいいんだぞ」
「九竜さんが、いるのに、……自分でなんて、嫌です」
「そうか。それじゃあ、期待に応えてやるしかないな」
近づいてきた九竜さんが身を屈めるので、手を伸ばしそうになったが、自分の手が汚れていることに気づく。
とっさに引っ込めたら、小さく笑われてしまった。
「可愛いな」
口元に笑みを浮かべたまま、近くにあったティッシュボックスを引き寄せ、彼は優しく手を拭ってくれる。
いたたまれない気持ちになるけれど、体を抱き上げられると、しがみつくしかできない。
「今日は竜也が満足するまで可愛がってやる」
「い、いつも満足してます」
「そうか? いつも最後までねだるのは竜也だぞ」
「それは、あんまり覚えてないですっ」
寝室へ入ると、ぽんとベッドに投げ出されて、体の上に九竜さんがまたがってくる。たったそれだけのことに、胸がはち切れそうになって、壊れてしまいそうなほど胸の音が早くなった。
自分を見下ろす視線に、ドキドキしすぎてめまいがする。
「恥ずかしがっているわりに、体は素直だな」
「意地悪はしないでください」
再び反応を見せ始めていたものを、指先でなぞられて肩が震えた。唇を噛みしめて恋人を見上げると、やんわりと目を細められる。
「本当に、竜也は可愛いな」
「え? くりゅ、さんっ」
スウェットに手をかけられて、あっという間に下着ごと脱がされた。さらにはTシャツまで簡単に、すぽんと身体から抜き取られる。
恥じらう暇がない手際のよさに、思わず呆気にとられてしまった。
「竜也は隙だらけだな」
「そんなに隙、ありますか? だから変わった人に遭遇しやすいんでしょうか」
「ああ、それは違うな。最近、特に増えたのは、竜也が艶っぽくなってきたからだ」
「艶? ……色気が出た、ってことですか? なんで急に?」
「こうして色事を覚えてきたからだろう。これは俺のせい、だな」
「あっ、九竜さんっ、待って……んっ」
弧を描いた唇が近づき、首筋を伝う。触れる唇の熱に、また胸の音が騒ぎ始めた。
昂ぶった熱を大きな手で扱かれたら、頭の中が気持ち良さで埋め尽くされる。こらえる間もなくすがるような声がこぼれて、ひどく恥ずかしい気持ちになった。
「ぁあっ、九竜さん! 駄目、ですっ、すぐにイっちゃう! やぁっ、いや駄目っ」
「あまり余計なことを考えるな。どうせなら可愛くおねだりしてほしいものだな」
「ひぅ、んっ……」
激しくこすられて、ぐちゃぐちゃと音が響く。自分の体液がどれだけ溢れているか、それを知ると茹だった顔がますます熱を帯びる。
しかも無意識に、腰を揺らしていることにまで気づいてしまう。こんな自分は見られたくないのに、刺激を求めるように腰が揺らめく。
「竜也、おねだりは?」
「きす、キスしたい、です」
「キス? どんな?」
「……ぁ、口の中、いっぱい撫でてください。気持ちいいの、したい。溶けちゃうくらいの。あっ、ぁっ、そこは駄目、まだ嫌っ」
ぐりぐりと先端を指先でこねられて、腰がビクビクと跳ね上がる。強烈な快感に襲われ、目の前で光が瞬いたように感じる。
それでもなお、九竜さんに与えられる刺激は止まらず、体をひくつかせながら果てる。
出さないままイってしまったせいか、またすぐに気持ち良さに飲み込まれた。
おねだりのキスに加え、胸の尖りをキツくつままれる。指先でこねられるだけで、腹の奥が疼く。
胸のジンジンとした痛いけど気持ちいい感覚。口の中の熱い舌の感触。全部とろけそうなほど気持ちよくて、腰を揺らして九竜さんの足に、高ぶったものをこすりつけてしまう。
「ごめんな、さい」
彼の履いているスウェットを汚してしまい、恥ずかしさともに申し訳なさを覚える。
見つめられる視線から逃れるように、顔を手のひらで覆うけれど、すぐさまその手を取られる。
「可愛い顔を隠すな。本当になにをしても可愛いな」
「九竜さんは、なにをしても格好いいです」
大きな手に頬を撫でられ、熱が手のひらに伝わっているのではと思える。それでも優しく触れられるのが、たまらなく嬉しくて、自分からもすり寄ってしまった。
そんな様子を九竜さんは、目を細めて見つめている。
「九竜さん、そろそろ……ほしいです」
「ここもご無沙汰だな」
するりと撫でられた丸みを帯びた尻。
少し女性的な気がして、自分はあまり好きでなかったけれど、九竜さんは形が良くて綺麗だと、褒めてくれる。ぴったりとしたパンツスタイルだと、形が良く分かって良いと言っていたが、一人のときは穿くなとも言われた。
「一人で、していたのか? さっきみたいに」
「……たまに、です。一人ですると、寂しくて」
「本当に可愛すぎる」
熱を帯びた九竜さんの瞳が、やけに色っぽくて、思わずじっと見つめたら唇を奪われる。さらには無防備だった体を撫でられ、あっという間に意識はすべて彼へと集中した。
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