01.Non Sugar?

 もしも自分の好きな奴が自分の部屋で無防備に寝ていたとしたら、人として、男としてどれが正しい反応か。一.起こさぬよう静かに見守る二.風邪を引かせては可哀想だから起こしてやる三.据え膳を食わないのは男じゃない 答えは――三、ではなく。四.触ら…

03.Over Pace

「いらっしゃいませー」 扉にぶら下がった重たげな鐘がカランと鈍い音を響かせた。峰岸の手によって押し開けられた扉の向こうはどこかノスタルジックな雰囲気で、独特な空気が漂っていた。 この落ち着いた雰囲気は嫌いじゃない。昼ご飯を食べた店と同様に寧…

02.Over Pace

 結局僕の言葉は聞き入られることなく、あちこちと峰岸に連れ回された。 お勧めだという落ち着いた雰囲気のレストランは、彼が言う以上に美味しかった。けれど普段からこの辺りで遊んでいるのか、峰岸の周りにはどこへ行っても人が集まり、囲まれる。そして…

01.Over Pace

 流れる人波――忙しない足早なその流れをぼんやりと眺めながら、たまらず大きなあくびが漏れてしまった。駅前広場のベンチに腰掛けて早三十分。鳴らない携帯電話を握り、程よいぽかぽかとした陽射しについウトウトしてしまう。 しかし良い気分で頭が舟をこ…

蜜月

 茜色の空が広がる夕刻。佐樹はふと空を仰いだ。 吹き抜ける風が心地よくて、自然と目を閉じてしまう。さらさらと髪が風に揺らされ、ひどく気分が良い、そう思うと自然と口元には笑みが浮かんだ。「佐樹さん、お待たせ」「あ、うん」 ぼんやり空を眺めてい…

変わらぬもの02

 毎日うるさいうるさいと愚痴を零しているが、今日は誰もいない静けさに弥彦はほんの少し寂しさを感じていた。「慣れるとそんなもんなんだろうな。うちはいつも人がいないから気にならないけどな」「寂しいこと言うなぁ。なんならうちに帰ってくる? でもき…

変わらぬもの01

 駅前の通りから少し外れたコンビニ。近所の人たちしか使わないためか人入りは少なく、レジカウンターの内側に立つバイトたちはお喋りに勤しんでいる。 街灯だけがぼんやり光る薄暗い道からは、そんな姿がガラス越しに良く見えた。弥彦はふと駅前のスーパー…

Pure Days02

 店の中に入ると好奇心旺盛な子犬がこちらに向かって尻尾を振っていたり、マイペースにお腹をさらして寝ている姿が窺える。スタッフの女性は先ほどまで彼が見ていた子猫をケージから抱き上げた。「マンションって、確かペット可ですよね? どうせなら飼えば…

Pure Days01

※邂逅以降のお話―――――――― 人の少ない休日の朝。止まらないあくびを噛みしめながら、車内がガランとした電車に揺られる。 現在、時計の針は八時を少し過ぎた時刻を示す。いつもの休みなら間違いなくまだベッドの中で惰眠をむさぼっている時間だが、…

陰日向03

 一番奥まで来ると、そこは若干本棚に明かりを遮られて薄暗い。戸惑いながら藤堂を振り返るが、表情を見る前に腕を引かれてしまい、近くの棚に背中を押しつけられた。「な、なに……」 思わず大きな声を出しかけるが、とっさに藤堂の手で口を塞がれてしまう…