コイゴコロ03

 苺のショートケーキを大雑把にフォークで突き合って半分くらい平らげて、スパークリングワインを二人で一本空けた。それほど度数の高いものではなかったので、ほんの少し酔いを感じるくらい。
 しかしいい気分で風呂に入ろうと思ったら、長湯はしないようにと釘を刺された。アルコールの血中濃度が高くなって倒れたら困る、と言うことらしいがこのくらいでは倒れたりしない。だが遅くなれば風呂まで覗きに来るだろうからいつもの半分の時間で済ませた。

 風呂から出ると瑛冶はまだリビングにいて、ソファに座りなにやら携帯電話をいじっていた。けれどこの男が友人とのやり取りやSNSに熱心なのはいまに始まったことではない。
 返信の遅い俺に毎日何回もメッセージを送ってくるくらいには中毒だ。よほど暇なのかと思うが、向こうはそれが当たり前の感覚らしい。気になったらなんでもすぐに送信――俺には理解しがたい。

「瑛冶、風呂空いたぞ」

「ああ、うん。入る」

「そういやあの人からの、なんだった?」

「え?」

 風呂に入る前に九条から渡された紙袋、誕生日プレゼントを瑛冶に渡しておいた。ろくなものでなかったら捨てろと言っておいたが、結局なにが入っていたのだろう。あの人は正直言って予想がつかない部分があるからまともなものとは思いがたいのだが。
 けれど俺の言葉に瑛冶は曖昧に笑った。いいのか悪いのかよくわからない微妙な反応だ。すごくいいものではないが、悪いものではなかったということだろうか。

「あ、広海先輩。ホットミルク飲みますか?」

「ああ、もらう」

 いまいちよくわからないがソファを立った瑛冶と入れ違いに俺はソファに腰を下ろした。そしてなに気なくテレビの電源を入れて、適当にチャンネルを回す。しかしあまり興味を惹かれるものがなかったので、最後につけた歌番組のチャンネルをそのままにしておいた。
 テレビから流れてくる音楽を流し聞きながら、手持ち無沙汰を紛らわすためにローテーブルに置いてあった本を手に取る。昨日の夜に読みかけだったものだ。それを開いてしばらくするとテーブルにマグカップが置かれた。

「はい、ホットミルク。いつもより甘かったらごめんなさい」

「ん? 砂糖でも入れすぎたか?」

「いや、ちょっといつもと違うシロップを」

「ふぅん」

 じっとこちらの様子を窺う視線に急かされるように、本を閉じてマグカップへ手を伸ばす。シロップと言っているが特別変わった匂いがするわけでもない。口をつけるとホットミルクは程よく温かく、そのままゴクリと喉に流し込んだ。
 すると少し舌に絡むような甘みを感じる。蜂蜜に似たような甘さだけれど、それとは少し違うような。だが言うほど甘くはないので気になることはなかった。

「別にまずくはねぇよ」

「そう、それならよかった」

 俺が飲んでいるのをほっとしたような目で見つめて、ふいに瑛冶は身を寄せてくる。その先は想像できたので、動かずにじっと向かってくる眼差しを見つめ返す。するとそっと触れるだけのキスをして、満足げに笑った。

「じゃあ、お風呂に入ってきますね」

「おう」

 ゆっくりと離れていく気配を背中で感じ、遠くで扉が閉まる音を聞く。いつも瑛冶の風呂は早いので三十分もすれば出てくる。
 半分ほど進んでいる本が読み終わる頃には出てくるだろうと、再び本を開いてそれに視線を落とした。しかし本に集中していたはずの俺は十五分ほど経ってから、自分の異変に気がついてその本を閉じる。

 湯上がりで熱が残っているのは確かだが、それとはまた違う身体の火照りを感じた。少し肌が汗ばむような熱さ。それと共に少し身体のだるさも感じる。けれどエアコンの温度が高すぎるわけでもない。
 やけに喉が渇いた感覚がしてマグカップに残っていたホットミルクを流し込むが、さらに乾きが増した気がする。心拍数が少しずつ上がっていく。それと比例するように吐き出す息も荒くなる。身体のだるさにソファへ横になれば、頭がぼんやりとしてきた。

「ちょっと、待て。これは、おかしい」

 熱が出たとか、風邪を引いたとかそういう感覚ではない。肌に触れる服の生地にさえ身体がざわつくような、明らかな異常な反応。そこまで回らない頭で考えて、掴んでいた本を思いきり力任せに放り投げた。テレビ画面に当たったそれはバサリと音を立てて床に転がる。

「あの野郎、なにが、いつもと違うシロップだ」

 原因に気づくとそれからの行動は早かった。もたつく身体でソファから下りるとまっすぐに風呂場へ向かう。扉を開けると中からはシャワーの音が響いている。それでもお構いなしに近づくと、風呂場の戸を勢いよく開いた。
 突然開いた戸に瑛冶は目を丸くして驚きをあらわにしている。いきなり目の前に現れた俺に理解が追いついていないようにも見えた。けれど俺はそのまま風呂場に足を踏み入れて真っ裸の男を壁際に追い詰める。

「ひ、広海先輩? どうしたの? 服、濡れるよ!」

「あぁん? なにがどうした、だ。ぬけぬけと言ってんじゃねぇよ。お前、俺に一服盛っただろう」

「えっ! 嘘! あれ効いたの? 俺も飲んでみたけどまったく変化なかったのに」

「おい、こら待て。てめぇはよくわからねぇもんを人に飲ませたのか! ふざけんな!」

「ごめんなさい! でも九条さんに確認は取りました! 身体には絶対に害はないって!」

「やっぱりあの男か!」

 嫌な予感がしていたんだ。あの男がまともなものを寄こしてくるはずがないって。だが想像以上に最低最悪だ。ふざけたもんを寄こしてきやがって、大体こいつもこいつだ。興味本位で人を試すとかありえねぇだろう。
 おたおたとして逃げ場を探す瑛冶は、押し進む俺に道を塞がれて誤魔化すような乾いた笑みを浮かべる。その顔に腹が立ったので片手で顎を掴むと無理矢理引きつけて口を塞いだ。驚きに目を見開いたのは気づいたが、構わずに口の中に舌を滑り込ませる。

「んっ、ひろ、み……先輩! 待って!」

 口内を無遠慮に撫で回したら肩を跳ね上げた瑛冶が俺の身体を押し離す。顔を真っ赤にしながら、俺をじっと見つめるその表情にますます腹が立ってきた。なんとか隙を突いて逃げようとする男の両脇に手をついて動きを封じる。

「逃げんな、責任取れよ」

「せ、責任って、な、なに?」

「ごちゃごちゃうるせぇな、黙ってやらせろ」

「ちょ、ちょっと! 広海先輩! ここ風呂場!」

 手を伸ばしてむき出しのものを掴めば、飛び上がって目を見開く。それでも手でじっくりと扱いてやれば少しずつそれは反応を見せ始めた。握る手がヌルつく頃には吐き出す息にも熱がこもり出す。
 それをさらに誘うように裏筋や張り出した部分を指で刺激していくと、こらえるような小さな声が漏れた。視線を上げて俯く顔をのぞき込めば、茹でダコのように紅潮して、目尻には涙を浮かべている。

「なに、初めてみたいな顔してんだよ」

「は、初めてでしょう、こんなこと! 広海先輩のやらしい顔、ベッド以外で見たこと、ほとんどないし! こんな明るいとこでって、どんなご褒、美……いっ、痛いっ!」

「うるせぇ変態。ちょっと黙ってもっとデカくしろよ」

 急に目を輝かせ出した瑛冶のブツを思いきり握りしめた。一瞬痛みに縮んだような気はしたが、すぐに調子のよさを現すように張り詰める。

「先輩、いつもより手が熱くて、気持ちいいです。舌も熱かったし、中に挿れたら」

「挿れたきゃ突っ立ってねぇで動けよ」

「さ、触っていいんですか! いいの? ほんとに?」

「いいから早くしろ!」

「えっと、じゃ、じゃあ、遠慮なく!」

 ふいに手を伸ばされて、肩を掴まれると勢い任せに壁に背中を押しつけられる。体勢が逆転したことに少し呆気に取られるが、濡れた衣服と少しひんやりとする壁にざわりと肌が粟立つ。
 それでもスウェットに手をかけられ、それを無理矢理に引き下ろされると期待で身体が火照った。湯を含んで重くなったスエットがずるりと足元まで落ちて、まとわりつくそれが鬱陶しくて乱雑に蹴り飛ばす。

「先輩のここも熱いですね」

 武骨な手がボクサーパンツの隙間に滑り込み、ガチガチになって反り返っている俺の熱を鷲掴みにする。軽く一二度、扱かれただけなのに甘い痺れが背筋を走り抜けた。

「えっ? 先輩、大丈夫ですか?」

「うっせぇ、黙って続けろ馬鹿」

 あっという間に吐き出してしまったものを、じっと見ろして目を瞬かせるその顔が気に入らない。脛を思いきり蹴りつけたら後ろへ逃げようとする。それも気に入らなくて腕を掴んで引き寄せた。
 イッたばかりなのにまだ身体が熱くて、中心は刺激を待ち望むように疼く。俺の体液でべたつく手をお構いなしにたぐり寄せて、自慰するみたいに強く押しつける。グリグリと手に擦りつけながら腰を激しく揺らせば、目の前にある瞳の奥に熱が灯った。

「先輩、そんなことされると、待てができないんですけど」

「誰が待てって言ったんだよ」

「ああ、もう、やばい。今日の広海先輩、刺激的でたまんない」

 うっとりと目を細めると手のひらでなぞるように扱いてくる。そのぞわぞわと広がる感覚に腕を掴んでいる手に力がこもってしまう。それを感じ取るのか、それとも俺がわかりやすい顔をしているのか、口の端を持ち上げて瑛冶は嬉々とした笑みを浮かべる。

「……っ、んっ」

「もうすごいドロドロ。吐き出したやつか先走りかわかんないくらいぐちゃぐちゃだよ」

 もう片方の手で腰を引き寄せられて、背中から手を差し入れられる。するりと尻を撫でた指先は迷うことその奥へと滑り込み、ぬかるんだ孔に節くれだつ指を押し込んだ。

「あ、今日は準備してくれてたんですね。ここすごく柔らかい」

 一気に二本も指を増やされて、乱雑に抜き挿しされるその刺激だけでまた吐き出してしまう。震える手でしがみついたら唇に顎をすくわれて上を向かされる。先ほどまであんなに弱々しくうち震えていた男は、豹変したように雄の目をしていた。

「可愛い」

「うるさっい! ……んんっ」

 顎を伝って来た唇に口を塞がれる。声まで飲み込むみたいに口の中をなぶられて、溢れた唾液がこぼれ落ちた。それでもさらに追い詰めるみたいに荒らされる。先ほどの仕返しをされていることに気づいて押し返すが、壁に押しつけられて貪るように口づけられた。