コイゴコロ05

 腰を動かすたびにギシギシと二人分の重みを載せたベッドが軋む。冷えた空気の中でも汗が滴り肌の上を滑り落ちていく。吐き出す息は熱くて、頬も紅潮して火照っている。
 しかしそれ以上に身体が燃えるように熱くて、突き抜けるような快感に腰を振るのをやめられない。律動と共に張り詰めたものが震えるが、それはしばらく熱を吐き出していなかった。腹の底から込み上がる感覚だけが身体を震わせる。

「先輩っ、眺めがよすぎる」

「はあっ、ぁつ、んんっ」

「まだイケるの? ちょっと底なし過ぎるでしょ。先輩の中もう俺のでドロドロだよ。溢れてきてる」

「うる、せぇ、黙って腰振れよ。……んっ」

 際限がない。それは自分でも感じてはいるが、何度絶頂しても、何度腹の奥に吐き出されても気持ちが萎えない。それどころかますます高ぶって、腰を振りたくってしまう。
 いまだけは瑛冶が柔な男じゃなくてよかったと思う。普段は向こうが絶倫すぎて足腰立たなくされるが、いまはこの熱情を受け止めてもらえて助かっている。
 とは言えこんなことになったのも、あの男にそそのかされて変な真似をしたからだ。しっかり責任は取ってもらう。

「あっ、ぁぁっ、いい、気持ちいい。瑛冶、もっと」

「今日の先輩、素直で可愛い。いつもならそんなこと口が裂けても言わないのに」

 やんわりと目を細めた瑛冶は、口の端を持ち上げて笑うと下からの突き上げを強くする。すると押し上げられるように身体が跳ね上がり、銜え込んでいたものが腸壁をめくるようにずるりと抜ける。
 けれど身体が重力に従い下へと落ちれば、それはまた深く奥まで突き刺さった。それを何度も繰り返されると、たまらなくなった俺の口からはひっきりなしに喘ぎが漏れる。

「ぁ、んんっ」

「あ、先輩! 駄目だよ、唇噛んでる。口開けて、キスしてあげるからこっち来て」

「……いやだ、抜ける」

「抜けないようにそっとすれば大丈夫。ね、だから」

 腹の上に突いていた手を引かれてバランスが崩れる。慌てて立て直そうとするが、掴まれた手をさらに引き寄せられて体勢を保っていられない。このまま勢いよく前へ倒れれば銜えた熱が抜けてしまう。渋々繋がれた手に従うようにゆっくりと身体を傾けることにした。
 体重を預けて身体を寄せていくと、伸ばされたもう片方の手に頬を撫でられる。その手はそのまま後ろへ流れて、今度は汗ばんで肌に張り付いた髪をそっと梳いていく。時折指先が肌に触れて、ちりちりとした焦げ付くような疼きを感じてしまった。

「ほら、大丈夫。抜けなかったでしょ」

 広い胸に身体を預けるとそこからドクドクと胸の鼓動が伝わってくる。何食わぬ顔をしているが、いつもより早いその音でどのくらい気持ちを高ぶらせているのかがわかった。
 じっとこちらを見つめてくる目に視線を持ち上げれば、瑛冶は至極嬉しそうに微笑む。そしてそれと同時に胸の高まりが強くなる。

「先輩、口開けて」

「……」

 まっすぐに目をのぞき込まれて、言われるがままに口を開いた。そしてゆっくりと舌を伸ばして目の前にある唇を舐めると、その奥にあるものをまさぐるように口内へとねじ込んでいく。
 すると唇が開かれて、そこから肉厚な舌が伸ばされる。それは俺の舌を撫で、絡みつくと、唾液を滴らせながら押し入ってきた。

「ん、ぅ、ん」

 口の中を舌が好き勝手に這いずり回る。上顎や頬の裏側の粘膜を撫でられると首筋がぞわぞわとして、その感覚に腹のあいだに挟まれている熱が震えた。切っ先をこすりつけるように腰を動かせば、尻を抱えられてゆっくりと抽挿を繰り返される。
 前の刺激と後ろの刺激で身体が甘く疼き、たまらず声を上げてしまう。開いた口から唾液がこぼれて、瑛冶の顎を濡らした。けれどそれに嫌な顔を見せず、それどころかやけに嬉々とした顔で俺を見上げる。

「広海先輩のトロ顔可愛い」

「ぅ、んっ、あっ、ああっ……くっ、ん」

「前もイキそう? 触ってあげようか?」

「さわ、んな。ぁっん、あっあっ、イクっ」

 声を上擦らせれば上擦らせるほど、律動が激しくなってくる。腹に付いた熱がドロドロになって、熱を銜え込んだ孔がうねるようにそれを締めつけると、言葉では表せないほどの刺激が身体を走り抜けていく。前と後ろがいっぺんに痙攣して、腹のあいだに白濁をぶちまけ、中には瑛冶のものを注ぎ込まれた。
 どこもかしこも熱くて、自分の荒い呼吸がやけに耳に付く。べったりと胸に頬をつけて寄りかかると、ぎゅっと身体を抱きしめられる。

「先輩、大丈夫?」

「……大丈夫じゃねぇ」

「お風呂に連れて行ってあげようか?」

「そうじゃねぇよ」

「ん?」

 背中をあやすように叩いていた瑛冶は、俺の言葉に訝しそうな顔をして首をひねる。けれどその顔を思いきり指先でつまんで引っ張れば、驚きに目を見開いて肩を跳ね上げた。だが俺の気持ちはこんなことでは晴れない。どうしてくれるんだこれ。
 おもむろに身体を持ち上げると、瑛冶も一緒に身体を持ち上げてくる。向かい合わせの状態でのぞき込むように見つめてくる顔をもう一度思いきり引き伸ばした。

「痛いです、先輩。なんか、怒ってる?」

「お前どんだけ盛ったんだよ、この馬鹿野郎!」

「あれ? もしかしてまだ足りない?」

「こっちはもうクタクタなんだよ!」

「でもまだ足りないんだ」

 小首を傾げた瑛冶の額を手のひらで力任せに叩いた。けれどちっとも堪えた様子はなくて、むしろニヤニヤとしたいやらしい笑みを向けてくる始末だ。
 さらに繋がった部分を揺さぶってきて、たっぷりと注がれたそこはぐちゅりと卑猥な音を立てる。小刻みに突き上げられると、もう限界だというのに身体がまた熱を孕み始めた。
 泡立つほどぬかるんだ孔はまだ熱を捕まえて離さない。肩を震わせて俯いたら、引き戻すように口づけられて、また口の中を荒らされる。

「瑛冶、やめっ」

「まだ足りないんでしょ? まだ俺イケるよ? 今日は先輩が上に乗って好き勝手するから、あんまり攻められなかったし。最後にいいよね?」

「変な理屈を、こね……んんっ!」

 口の中も唾液まみれで、じゅるじゅると音を立てて啜られると、毛穴が逆立つような感覚が広がった。肌をざわめかせるそれに惚ければ、身体は簡単に押し倒されて脚を抱え込まれる。そして一際強く穿たれた。

「あぁあっ!」

「もしかして先輩、またイっちゃったの? 平気? ほんとに嫌ならやめるよ」

「んっ、はぁ……ぁっ」

 いままで隙間なく埋まっていた熱がずるりと引き抜かれる。それと共に中に溜まっていた瑛冶の白濁がごぼりと溢れ出してくるのを感じた。ひくひくと孔がうごめくたびにそれはこぼれ出る。もうどれくらいしているのか感覚がわからないが、感じる量からすれば普段の倍以上だ。
 もう身体はガタガタだし、尻の孔は感覚がなくなってきてるし、もう声も嗄れてきているし、正直かなりだるい。明日になったら絶対に一日ベッドから起きられないことは目に見えてわかる。それでも身体に付いた火が消えていかない。

「瑛冶、足りねぇ。……早くそれ、突っ込め」

「んふふ、先輩が望むままに。明日はしっかりお世話してあげるね」

「あったり前だ、この馬鹿!」

「中もちゃんと綺麗にしてあげる。でも目いっぱい汚してからね」

 いままでで一番硬く反り立ったものが容赦なく押し込められて、イキながら腰を揺らした。奥の奥まで突き上げられるとガンガンと結腸にぶち当たって喉をひきつらせるほどに感じてしまう。

「あっ、あぁっ、んっ、瑛冶っ、いい、ぁっ」

 掠れ始めた声で喘ぐたびに瑛冶は嬉しそうに笑う。そしてその笑みとは裏腹に激しく追い詰められていく。何度も何度も熱を突き立てられて、身体を好き勝手に揺さぶられて、意識が何回も途切れた。
 それでもこれ以上はないだろうというほどの感覚にうち震えると、自分でもわかるくらいに身体の奥がうねって吐き出されたものを搾り取った。さすがにそれには余裕な顔をしていた瑛冶も焦ったような表情を浮かべる。
 その顔をしてやったりと満足げに見つめれば、ぷっつりとそこで俺の意識は完全に途切れてしまった。

 目が覚めたのはおそらくそれから数時間後。しっかりと肩まで毛布と掛け布団が掛けられていて、視線を向けた先が自分の部屋だと言うことがわかる。
 いつもやる時はあいつの部屋で、そのあと寝るのは俺の部屋。後ろに意識を向けると、背後から俺を抱きしめて寝ている瑛冶の気配を感じる。もう完全に寝落ちているのか静かな寝息が聞こえていた。

 腰がだるくて動くのがきつかったが、そっと寝返りを打って向かい合う。無防備に寝ている瑛冶はうっすら口を開けて、間抜けた顔をしている。その顔に手を伸ばしてほんの少し頬の肉をつまむ。

「んんっ、広海、先輩」

 小さな声が聞こえて起こしてしまったかと焦ったが、寝言を呟いただけのようでムニャムニャと口を動かしてからまた寝息を立て始めた。しかし寝汚いくらいの男だ、この程度では起きないかと息をつく。
 それにしても今日は散々だった。いまはすっかり身体の異変はなくなったが、尋常じゃないだるさを感じる。明日どころか数日は仕事を休みたいくらいだ。しかし休めば絶対に九条が揶揄してくるだろう。それだけは絶対に嫌だ。

「あの男、ほんとに一回絞め殺してやろうか」

 ふつふつと湧いてくる怒りに奥歯がギリギリする。行き場のない感情を発散できず、目の前にある顔を両手で挟んで押しつぶす。しばらくそうしていたが、タコ口になった顔を見ているうちに気持ちが凪いだ。

「先輩」

「お前は寝言も俺のことばっかりかよ」

「んふふ、好き」

「そりゃ、よかったな」

 思いがけずに落ち着いた気持ちはくすぐったさを感じさせる。でもその感情が嫌ではないのだから困ったものだ。やはり少し慣らされ過ぎではないだろうか。こんなに馴染んでしまったら、いなくなった時のことを考えられなくなる。

「瑛冶、指輪買ってやろうか? ……なんて、言うだけタダだよな」

 繋ぎ止めたい――なんて、そんなことをガラにもなく思ってしまった。寝ている人間にそんなことを言ったって伝わりはしないのに。けれど目の前にある顔は、返事をするみたいに満面の笑みを浮かべた。至極幸せそうなその顔に、つられるように笑ってしまう。

「お前はほんとに、俺のこと好きだなぁ」

 こいつにならいつか伝えてもいいと思える。二人の時間の中で生まれた、俺の中にある恋心を。

コイゴコロ/end