でもまだはじまりの想いが見当たらない
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 それは二年半ほど前の夏頃。当時の俺は就職活動をしていて、募集の出ていたいくつかの会社へ見学に行っていた。その中で鶴橋の言葉に思い浮かんだ会社がある。それは俺にとっては飛びつきたくなるような求人で、もう絶対そこに受かりたいとその時は思っていた。
 そこはプラネタリウムの番組制作会社。求人は事務職で、直接番組に携われるわけではなかったけれど、好きものを作る会社で働ける滅多にないチャンスだった。

「え? あの会社の人なの?」

「案内役をしていたんですけど、覚えていないですよね」

 思わず指さしてしまった俺に、鶴橋は眉尻を下げて困った表情を浮かべる。しかし言われた通り、どんな人があそこにいたかすら覚えていない。そもそもあの日はハプニングに見舞われてかなりいっぱいいっぱいだった。

「俺、あの日かなり遅刻して、迷惑かけたことしか覚えてないです」

「着いたのはもう最後のほうでしたよね」

「それで覚えてた、とか?」

「それもありますが、すごく熱心で誰よりもまっすぐでした。こちらがびっくりするくらいうちの仕事のことを知っていて、発言に消極的な子たちにも丁寧に説明している姿が印象的でした」

 え? そういうの出しゃばりって言わないの? 俺もあれはちょっと喋りすぎたなと思っていたんだけど。それでもしゃしゃり出てしまったのは、発言の少ない子たちは理解が追いつかないまま話を聞いていたから。
 それじゃあ、せっかく見学しに来ているのにもったいないと思ったからだ。

「笠原さんみたいな子が入ってくれたらいいなって、ほかに人たちも言っていたんですけど。面接にはいらっしゃらなかったので残念に思っていました」

「あー、急に大学に進学できることになって」

「はい、このアパートに引っ越ししてきたのを知って、あ、大学生になったんだなって思いました。ここから大学、近いですからね」

 しかしことの経緯は見えてきたが、それがどうして俺を好きになる、に繋がるのだろう。確かに見知った顔が引っ越ししてきたら気になるのはわかる。けれどついこのあいだまで接点はなにもなかったのだし、好きになるには動機が足りない。
 けれど相変わらず鶴橋の目はまっすぐに俺を見つめる。そらせないくらいの想いを詰め込んで。