好きだから身動きできなくなる
24/67

 あの時はなにも見ていないみたいな顔だったけれど、いま目の前にある苦笑いは少し悔しさも滲ませる顔だ。しかしよくあの場面を見て怒らなかったなと思う。手を繋がれたり、抱きしめられたりしただけで、目に見てわかるくらい機嫌が悪くなったのに。

「見ました、しっかりと。ですがあまりにも突然で身動きが出来ませんでした。あなたが身じろぐこともなく受け入れているのを見て、声も出ませんでした」

 ああ――この人、本当に俺のことが好きなんだな。あまりにもショックで動けなくなったんだ。人間ってとっさのことに対応できないことが多い。その衝撃が大きければ大きいほど。

「俺だって驚いて動けなかったんだ。受け入れてたわけじゃない」

「はい、抱きしめられて慌てる姿を見たら、それに気がついてようやく動けました」

「もうちょっと早く気づいて欲しいけど」

「すみません。あなたのことになると自分でも驚くくらい焦ってしまうんです」

 照れくさそうに頬を染めるその顔にくすぐったい気持ちになる。好きで好きでしょうがないって言われたみたいで、ひどく照れくさい。しかし二人で照れながら顔を見合わせていると、大きなため息が聞こえてきた。

「ちょっと! 二人の世界作らないでくれる! 俺を無視しないでよね」

「み、光喜! 重い」

 ため息と共に両腕を伸ばした光喜が抱きついてきて、身体を俺と鶴橋のあいだに割り込ませてくる。ぎゅうぎゅうと抱きしめられてかなり苦しい。ほんとにこいつくっつくの好きだな。

「勝利、俺ともデートするんだよ。平等に扱ってよね」

「わ、わかったよ。わかったから離せよ」

「その扱い傷つく。その人との扱いに差がある! 俺のことも好きになってくれなきゃ嫌だ」

「なに甘えてんだよ! ちょっ、マジで苦しい!」

「来週末、土日にそれぞれデートね。俺、絶対に勝利を惚れさせるから」

 どこからそんな自信が湧いてくるのだろう。だけど光喜ほどの男なら女の子も、きっと男でもぐらっときたりするんだろうな。こうやって甘えられたら可愛いなとか思っちゃったりして。
 それにしてもこの三角関係、一体いつまで続くんだろう。来週末まで? それとも――あ、もしかして俺次第か。んー、ちょっと気が重いな。

リアクション各5回・メッセージ:Clap