寄り添う花はなによりも健気だった
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 冬悟の片手が伸ばされて俺の背中を抱きしめる。少し強いくらいの力で抱き寄せられて息が詰まりそうなるが、俺も背中に回した腕に力を込めた。隙間がなくなるくらいに抱きしめ合うと胸から響く音が重なっていく。

「初めて光喜さんに会った時、一瞬頭が真っ白になってひどく焦りました。見るからに断る口実だってわかっていても、笠原さんに触れる手に嫉妬すら覚えた。それと同時に、それほどに自分のことを避けたいんだってことが感じられて、かなりショックでした」

 震えだしそうなほど小さな声で、冬悟は心にたまっていた感情を吐き出す。それは不安よりも酷い、抉られるような傷だ。優しさに甘えて、俺はずっと冬悟に我慢を強いてきた。

「繋がれた手に胸が掻きむしられる思いをしました。キスをしているのを見た時は息の根が止まってしまいそうだった。あなたの心が自分に背を向けているの感じるたびに、苦しくてたまらなかった」

「冬悟さん」

「好きです。笠原さん、あなたが好きで、好きで仕方がないんです。ほかの誰かに、あなたを盗られたくない」

「冬悟さん、傷つけてごめん。我慢ばかりさせてごめん」

 暢気に三人でいるのもいいかな、なんて思っていたあの頃の自分を殴り飛ばしたい。大人だから聞き分けのいい顔をしなくちゃいけなかった、冬悟の気持ちを考えてこなかった。本当は地団駄を踏んででも嫌だって言いたかっただろう。

「こんなに苦しい思いさせて、幸せにしてあげたいなんて、馬鹿な考えだった」

「傍にいてください。自分の隣にいてください。それ以上は望みません」

「冬悟さん、俺はずっと傍にいるし、ずっと隣で一緒に歩いて行く。なんでも言ってよ。二人でしたいこと、二人で行きたいところ、二人でなんでも分かち合おうよ」

 ゆっくりと身体を離して、俯く冬悟の顔をのぞき見る。手を伸ばして頬を撫でると指先が濡れた。冬悟はいつも声も出さずに静かに泣く。はらはらと涙をこぼして、感情を押し殺すみたいに口を引き結ぶ。

「もっと、感情を俺にぶつけていいよ。腹が立ったら怒っていい、悲しかったら声を上げて泣いていい。俺のために我慢しなくていいよ」

 せり上がる感情を飲み込もうとする唇が震えていた。本当にいじらしいくらい健気で、愛おしさが心の中で膨れ上がっていく。手のひらで涙を拭って背伸びをすると、震える唇にキスをする。

「好きだよ、俺はずっと冬悟さんを好きでいる。いつか人生が終わる時まで、俺は冬悟さんの手を離さない」

 まっすぐと向けた告白に冬悟の目が大きく見開かれた。目尻に浮かんだ涙は溢れ出してどんどんとこぼれ落ちていく。だけど唇はゆっくりと弧を描いて笑みを浮かべる。少しぎこちない泣き笑い。それでもひどく嬉しそうに笑うから、もう一度優しくキスをした。

リアクション各5回・メッセージ:Clap