第28話 再び混じり合う想い
舌や指先が肌を撫でるたび、リューウェイクの口から熱のこもった息が漏れる。
胸の尖りにしゃぶりつく雪兎の頭を抱き込めば、さらに赤く膨らんだ場所をもてあそぶように甘噛みされた。
「んぁっ、あぁっ」
尖りに絡みつく舌の感触がたまらなく、緩く波打つ黒髪に指を通したリューウェイクは、無意識に引き寄せる仕草をする。
体の期待に応えるかの如く、雪兎は執拗に尖りを愛撫しながら、もう片方を優しくつまんで刺激を与えてきた。
「リュイのここ、真っ赤だ。おいしそうなベリーみたいだな」
両方をまんべんなく舌で可愛がり、唾液まみれの場所を指先でなぞる雪兎は至極楽しそうだ。
たったこれだけで、すっかり息の上がったリューウェイクは、濡れた彼の唇から目が離せずにいる。
覚えたばかりの快楽に支配されたみたいに、先を望んでいる。
「さっきの続き、しようか」
――そう囁きかけられ、リューウェイクは素直に頷いてしまった。
そして答えを聞いた瞬間、うっとりと艶めいた笑みを浮かべる雪兎の表情に釘付けにさせられる。
「はっ、んっ……ユ、キさんっ、ユキさんっ、あっぁっ」
リューウェイクはいま、反り立ち蜜をこぼす屹立を手のひらで扱かれ、雪兎を受け入れる場所に熱い舌を招き入れている。
あまりの気持ち良さに、何度もビクビクと腰が跳ね上がった。
「リュイは感じやすいんだな。可愛い」
「ぁあっ、ユキさん! そんなに、奥……ふっ、ぁ」
厚みのある舌が、中をまさぐりたっぷりと舐り、奥を拡げるためにオイルをまとった指がズブズブと入り込む。
舌と指に内側をねっとりと愛撫されて、込み上がる感覚にリューウェイクはぎゅっと目を閉じた。
「だ、めっ、もうっ」
勢いよく放たれたもので自身の腹が汚れた。体が脱力し、リューウェイクの胸が荒い呼吸と共に上下する。
無防備な自分を、舌なめずりしながら見下ろす雪兎の姿に、たとえ彼が本物の獣だったとして、この場で身を食らいつくされても本望だと思えた。
だが美しい獣はひどく優しくて、息も絶え絶えな餌が浮かべた涙を唇で拭い、また甘美な悦楽に落とし込む。
「リュイ、中に入ってもいいか?」
「ぁっ、いい、いいから早く! ユキさんっ」
すりすりと何度も後孔を熱いモノで擦られて、リューウェイクはとっさに願望を口にしていた。
繕わないまっすぐな言葉に、目の前にある雪兎の瞳が喜びを含み輝き出す。
ぐっと力を込めて中へと押し入ってくる圧迫感は慣れないものの、彼を受け入れていると実感できてリューウェイクは心が震えた。
「んっ、ユキさん……すごい、いぃ」
「可愛い、すごく可愛い。リュイ、俺のリュイ」
興奮した雪兎の声が色っぽくて、繋がった腹の奥がじんじんとする。
あの夜とは少し違う、彼の瞳の輝きはどんどんと冷静さを失っていって、リューウェイクの声や体が甘く求めるほど、大胆に――
さらに途方もない情熱さで応えてくれた。
「ユキさん、もっとっ、そこいっぱい欲しい」
「リュイ、こんなにしたら、明日起きられなくなるぞ」
体を揺さぶられ、熱く昂ぶるモノで奥を突かれるたび、リューウェイクは甘く喘ぐ。
そんな声に呼応して、雪兎はなおもリューウェイクに快感を植え付けて、思考をグズグズに溶かしていった。
寝台が軋むほど何度も穿たれれば、繋がった場所がヒクヒクと震えて、リューウェイクは繰り返し甘やかに達する。
その感覚がたまらなく一度の絶頂よりもクセになった。
「イキすぎて辛くないか?」
「嫌だ、お願い、やめないで」
「可愛い。ほんとに可愛いなリュイ」
懇願すると脚を肩に担ぎ上げられ、上から雪兎のモノが深く突き入れられる。
いままでとは比でない刺激に、リューウェイクは顎をのけ反らせて嬌声を上げた。
激しいくらいの抽挿で雪兎はなおも攻め立ててくるが、苦痛は微塵もなく、脳内は快楽で占められている。
躊躇しようとする雪兎を何度も引き止めて、もっともっととねだっているのはリューウェイクで、お互いにブレーキが利かなくなってきた。
「良かった。ほかの男に盗られなくて。夜会の時、着飾ったリュイを見て目の色変えてたやつらを全員殴り倒したくてたまらなかった。リュイ、もう俺のだ。誰にも渡さない」
興奮状態のためか、普段は口には出さないだろう本音をこぼした雪兎に驚いたが、リューウェイクは腕を伸ばして彼を抱き寄せた。
(愛おしくてたまらない。これが人を愛する気持ち……幸せなのか。胸が熱い)
優しさからくる想いも嬉しいけれど、狂おしいほどの独占欲から来る愛情のなんと愛おしいことか。
初めて覚えた愛情に依存してしまいそうで怖くとも、手放せばこの先、二度と手に入らないとリューウェイクは確信できた。
同じ寝台で迎える二度目の朝。重たいまぶたを持ち上げると視線の先に、雪兎の手が見えた。
後ろからリューウェイクを抱きしめている彼は、まだ夢の中のようで、耳元で穏やかな寝息が聞こえている。
徐々に寝起きの頭がすっきりとしてくるほどに、じわじわと湧き上がってくる羞恥で、リューウェイクは身悶えそうになった。
背後にいる恋人に気遣いつつも、両手で顔を覆ったリューウェイクは、声にならないうめき声を漏らす。
(は、恥ずかしい。あんなに、ユキさんにねだってしまうなんて。いくら一度目で散々抱き合ったとはいえ、昨日は素面だ。いや、多少お酒は飲んでいたが……酔ってはいなかった。あれは雰囲気に酔った、の典型では)
初夜の晩は媚薬の効果でと言い訳できるけれど、昨夜はまったく言い訳する部分がない。
夜更けまで雪兎を離さず、行為のみならず何度も口づけをねだった。
甘えるリューウェイクに対して、雪兎は嬉しそうであったが、内心しつこいと思われていたら――
(地中深く埋まってしまいたい。顔を合わせるのが後ろめたい。だけどいつも早起きなユキさんの寝顔を見るのは、貴重なんだよな)
自分を抱きしめる腕に視線を落とし、骨張った男らしい手を見つめる。
武骨な印象はなく長い指は美しくも思えるが、柔らかさがさほどない働き者の手だ。
この手の持ち主は、人を惹きつけてやまない君主の器があり、リューウェイクの憧れだ。
普段は隙を見せない高潔な男性だけれど、心を許した相手だけに見せる、温かな笑みがまた人の気持ちを掴んで離さない。
そんな彼は寝ている時ばかりはあどけない少年のようだった。
(あー、もう可愛らしいし、でもやっぱり格好いいし)
そろりと寝返りを打ったリューウェイクは、寝息を立てる恋人の顔を見つめ、込み上がる感情にムズムズとする。
寝顔を見つめていたい気持ちと、いつものようにあの瞳で見つめられたい欲求が心の中でせめぎ合う。
さらにはジタバタと暴れ出したい衝動が起こり、リューウェイクは再び顔を覆って唸った。
(自分にこんな人並みの感情があるなんて、我ながら驚く)
一人の人を想って心を騒がせるなど、一生ないと思っていたリューウェイクにとって、天地がひっくり返ってもおかしくないほどの驚きだ。
さらに言えば、想い合う関係を築ける相手が現れたいまが奇跡だろう。
雪兎の登場は女神の采配なので奇跡と言えば奇跡だが。
「僕でも、幸せになれるんだろうか」
「俺が幸せにする」
「えっ!」
ぽつんと呟いた独り言に返ってきた声に驚き、リューウェイクが顔を上げれば、優しい光を含んだ暗赤色の目が自分を覗き込んでいる。
眠っているとばかり思っていた雪兎が、こちらを見つめている状況に言葉が続かず、リューウェイクは唇が震えた。
「百面相をするリュイ、コロコロ表情が変わって可愛かった」
「み、見てたのっ? ぐっ……そういうのは知らないフリしてほしい」
「そのつもりだったんだが、あまりにも可愛くて、黙っていられなくなった。おはよう」
「……おはようございます」
複雑さを覚え、リューウェイクは気持ちが落ち着かない。
けれどそんなふて腐れた恋人の機嫌を取るみたいに、雪兎はやんわりと優しい口づけをくれる。
与えられる口づけに、リューウェイクがうっとりとすれば、彼は朝の爽やかさの中、眩しいほどの笑みを浮かべた。
神々しいとはまさに雪兎を示す言葉だ――そんなことを思いつつ、リューウェイクは深まる口づけに酔いしれる。
「リュイとのキスはすごく気持ちがいい。ずっとしてたい」
「んっ、待ってユキさん。あっ、ちょっと、なんでそこっ」
上半身を起こして、覆い被さってくる雪兎は口づけながら、素肌が晒された体をまさぐってくる。
彼の言うように、口づけは舌が溶けそうになるくらい気持ち良く、肌の上を滑る手は昨夜の熱を思い出させた。
「ぁっ、ユキさん」
「リュイ、可愛い。……ちっ」
「ユキさん?」
このまま行為になだれ込む雰囲気であったが、ふいに雪兎が動きを止めた。
かすかに舌打ちが聞こえたかと思うと、彼はゆるりと体を起こす。
毛布が肩から滑り落ち、芸術品の如く美しい雪兎の裸体が朝の光に晒された。
苛立った様子で前髪をかき上げる仕草も麗しいが、ため息交じりの視線の先を認めて、リューウェイクも起き上がる。
「こんな早くに、なにかあったかな」
寝台脇のサイドテーブルに置かれた応答石が点滅していた。
現在は秋の空がようやく白み始めた時分。まだ騎士団が本格的に動くには少々早く、研究棟は本日休みだ。
昼まで休みと言っていたというのに、向こうからとなれば急用だろう。残念ではあるけれど、第三騎士団に所属していれば急務はザラだ。
苛ついた気配を隠さず寝台を降りた雪兎に続き、リューウェイクは彼の背に近づいて背後から頬へ唇を寄せた。
「また今度ゆっくり出掛けよう? 次はちゃんと休みを取って」
「……そうだな」
長く息を吐いた雪兎は、リューウェイクの体を抱き寄せ、心残りを払拭させる口づけをくれる。
お互いをたっぷりと味わい、唇を離すと最後に口先へ小さく触れ、二人で一緒に浴室へ足を向けた。