雨の調べ

距離

 雨曇りの中でも、彼の浮かべる笑顔は華やかで麗しい。 彼がこんなにもまばゆいのは、並の人間が持ち合わせていないものを、持っているからではないだろうか。 普段から見せる、無駄のない洗練された所作も、身にまとう特別な雰囲気も、昨日今日で身につい…

日常

 突然始まった、少し奇妙な同居生活は思ったほど、居心地が悪くない。むしろいいと思えた。 リュウは素直で、まっすぐな性格をしているので「ノン」と言えばすぐに従う、まるで忠犬のようだ。 吸収して覚えるのも得意なようで、数日を過ぎたいまは、言葉も…

はじまり

 それからマンションまで、無言のまま二人で歩いた。青年は電池の切れかけた、おもちゃのように歩みが遅く、時折ついてきているか確認してしまうほどだった。 それでもなんとか部屋にたどりつくと、まず濡れ鼠の彼を風呂場に押し込んだ。 一人で大丈夫だろ…

出逢い

 朝から雨がしとしと降っている。 低気圧のせいかなんだか、頭も身体も重くてだるい。雨の日は昔からあまり好きではない。 雨がぽつぽつ降り注ぐ音が、癒やしだというやつもいるが、正直鬱陶しいと感じる。湿気で髪がうねるのも嫌だし、濡れて服が身体にま…