雨の調べ

心にある面影

 なぜだかわからないけれど、いつも宏武は自分に自信がなさげだ。思っているよりずっと素敵だと、何度も伝えても曖昧に笑う。 もしかしたらそれは昔、大切だった人を不幸にしてしまったと言っていたことに、関係するのかもしれない。 もう吹っ切れたとも言…

煌めく音

 駅前から商店街を抜けて、コンビニ前を通り過ぎると公園がある。その小さな公園は、天気のいい日は子供の声が賑やかに聞こえている。 けれどいまの季節は雨続きなので、夕刻の公園はしとしと降る雨と共に、静けさをまとっていた。 特別変わったところもな…

終演

 電車を降りたら、雨脚がさらに強くなった気がする。だがいまはそんなことなど気にもとめず、足早にマンションへと向かって歩いた。 そうしていつもの通り道である、公園にさしかかる。 そういえばここで彼と出会ったんだったと、ふいに懐かしさが込み上が…

リスタート

 朝から雨がしとしと降っている。 低気圧の影響は、今日も身体を重苦しくさせる。それでも以前ほど、雨の日が嫌いではなくなった。 蒸すような湿気や、服が肌にまとわりつく感触はいまだに苦手だけれど、恨みがましく文句を呟くことは少なくなったと思う。…

約束

 それでもリュウには心が傾いた。傍にいると、あの悪夢も忘れられるほど心穏やかにいられた。 だからあの人の存在を強調するように、白昼夢を見たのだろう。人を死に至らしめてしまったことを忘れるなと、幸せになろうなどと考えてはならないと、教えるため…

哀哭

 重たいまぶたを持ち上げてみると、自分は清潔な乾いたシーツの上に横たわっていた。触り心地のいいシーツに、誘われるように寝返りを打つが、身体がひどく重くてだるい。 尻の孔にはいまだに、なにかが入っているかのような違和感があった。 途切れ途切れ…

熱情※

 見つめる視線を感じ、そこを見せつけるように広げていく。 したたり落ちてくるローションが、ぐちゃぐちゃと音を立てるほどに指を抜き差しすれば、目の前でそれを見ている彼の喉元が上下した。 さらに指を増やして、奥へと突き入れていくと、次第に指先は…

身体の熱※

 ベッドに腰を下ろして、目の前にいるリュウが着ているシャツのボタンを、一つずつ外していった。彼の肌に触れるたびに、ドキドキと胸が高鳴っていく。 デニムのボタンに手をかけ、ゆっくりとファスナーを引き下ろすと、彼の熱は下着にその形を浮かび上がら…

想い

 車の中は終始無言が続いた。誰も一言も話すことなく、どんどんと見慣れた道を過ぎ、マンションへと近づいていく。 もう少しで繋いだこの手を離さなくてはいけない。そう思うと、無意識に手に力を込めてしまう。「宏武、ついた」「ああ、うん」 マンション…

再会

 目が覚めたら、真っ白な天井が見えた。 見覚えのないその景色に、瞬きを何度か繰り返して視線を動かすと、自分が白いベッドの上で横になっていることを知る。 ゆるりとさらに視線を動かしていけば、左腕に点滴の管が刺さっていた。そこでここは病院かと理…