おいしい恋が舞い降りる

二人のクリスマス

 口づけを交わしたあの日を境に、雄史の毎日はさらに変化をしていった。 一日、また一日と、時間を重ねるたびに――愛おしさが日ごと膨れ上がっていくような気分だ――そんな一文や台詞は、小説や漫画、はたまたドラマや映画で見聞きしたことがある気がする…

心にある想い

 そこにたどり着くまでの時間、雄史の胸に広がっていたのは焦りと不安――そして恐怖だ。震えて何度も足が止まりそうになって、それでも泣きそうになりながら走った。 目的の場所へ着いて、開ききらない自動ドアの隙間に身体を滑り込ませると、飛びつく勢い…

会いたい会えない

 なぜあれほどまでに、ショックを受けたのだろう。冷静に考えてみると、自分の慌てふためき方は、異常だったのではないか。 男性に、同性に告白をされたから、と言うだけでは済まないような。 志織からの思いがけない告白に、しばらくその場で固まったあと…

思いがけない告白

 行き当たった考えに、雄史の口が無意識に口が引き結ばれる。別に彼が自分だけを構ってくれていると、うぬぼれていたわけではない。 そう思うものの、急に見知らぬ誰かに志織を取り上げられたような気分になった。「やっぱり志織さん、彼女いるんですか?」…

小さな嫉妬

 時刻ぴったりにカフェに着けば、人数の変更を伝えていたのか、それとも元より二人で予約していたのか、すんなりと席に通してもらえた。 しかしやはりおいしいケーキのあるカフェは、女性客がほとんどだ。いや、むしろそれしかいないと言ってもいい。 それ…

可愛い人

 棚の雑貨を眺めている志織の元へ戻ると、雄史は嬉々として紙袋を差し出す。「はい、プレゼントです」「……断る隙がないな」「あっ、ごめんなさい! 迷惑でしたか?」「いや、そんなことはない。ただ大したことしていないのに、悪いなと思ったんだ。でもあ…

プレゼント

 あれから仕事は定時きっかりに終わった。いや、終わらせた。 時刻が切り替わった瞬間に席を立ち、周りに挨拶を済ませるやいなや、雄史は会社を飛び出した。待ち合わせ時間には十分余裕があるのに、なぜだか気持ちが急いている。 駅までの道のり、メッセー…

高鳴る鼓動

 昨晩、長居したカフェを出たのは、閉店時刻の二十一時を三十分ほど過ぎた頃だ。 いくら彼の自宅が二階だとは言え、毎度毎度、遅くまで居座るのはどうかと思う。しかし自分でも言葉にしたとおり、いつも雄史はあそこへ行くと根っこが生える。 ひどく居心地…

デートの約束

 まっすぐに見つめ返されると、少しばかり照れくさくなる。そわそわとした気持ちになりながら、雄史は心を落ち着けるように小さく咳払いをした。 言葉を待っているのであろう志織は、そんな様子に小さく首を傾げる。「志織さん、もしかして一人っ子?」「え…

心の変化

 しばらく言い訳を探して雄史が黙っていると、こちらを向いていたブルーグレーの瞳がそれた。 だがその仕草自体にはなんの意味もなく、ただ料理に視線を落としただけなのは、見ていればわかる。それなのにいまは、なぜだか途端に焦りが湧いてきた。「志織、…

あたたかい毎日

 おいしいコーヒーとおいしいケーキが、たっぷりと心を満たしてくれる――温かくて優しい、癒やしの場所に出会ってから、雄史の毎日に楽しみが増えた。 これまでは家と職場の往復だけで、なんの楽しみもなかったのだが、仕事が終わると『Cafeキンクドテ…

半年先の約束

 カリカリと豆を削る音が静かな室内に響く。 いまどき手挽きで淹れてくれるとは珍しい、そう思いながら雄史は彼の手元を覗いた。 小さなミルは随分と年季が入っているように見える。それは汚れているとか、傷だらけとかいうわけではなく、彼の扱いや仕草か…