コンビニ

答えはもうずっと前から決まっていたんだ

 驚きに目を瞬かせたその顔に優越感を湧かせて、名前を紡ぎかけた唇を塞いだ。初めて触れた唇は柔らかくてしっとりとしていた。「んっ」 気をよくして深く押し入ったら小さく声が漏れ聞こえる。ちょっと身長差で俺のほうが上向かなくちゃいけないのが癪だが…

そういういじらしさはやっぱりグラッとくる

 俺はすごく傷ついたし、ちょっと怒ってたんだぞ。それなのに簡単にそんな言葉でなだめすかされてしまう。好きだ好きだって言えばなんでも許されるわけじゃないんだって、もっと怒ったって許されるはずだ。それなのに嬉しくなってしまうこの感情はなんなんだ…

そんな言い訳、簡単に飲み込めない

 なんであんたが泣きそうになってるんだよって文句を言ってやりたいのに、声を出したら自分の涙声がバレそうで息を大きく吸い込むしか出来なかった。そのまま口をつぐんでいるとしばらく沈黙が続く。 けれど黙っているとまた扉が叩かれる。小さく数度ノック…

この痛みも感情もすべてがきっと間違いだ

 多分誰が見ても綺麗だと称するだろう人。まつげに縁取られた瞳は黒目がちで、厚みのある唇はひどく色っぽい。胸が大きくてウエストが細くて手足が長くて、どこかの雑誌に載っていても不思議ではない容姿。 いままでどんな人が隣にいたか、想像はしたけれど…

こんな展開は予想をしてなかった

 とっさに顔を背けようと思ったら後頭部を押さえられる。こいつ絶対に口開いたら舌を入れてくる気だ。思いきり文句を言ってやりたくても、迂闊に声を出せない。なんでこうなるんだよ!「笠原、さん?」 身をよじって光喜から逃れようともがいているとふいに…

なにもしてくれないことに傷ついてなんかない

 道の隅にうずくまってどのくらいが経っただろう。静かな住宅街に足音が聞こえて、息を上げた光喜がまっすぐに俺のところへ駆けてきた。膝に埋めていた顔を上げれば、両手で頬を撫でられる。「勝利、泣いてたの?」「泣いてない」「でもすごく泣きそうな顔し…

期待した先がなにも見えなくて怖くなる

 連絡がないから気になっているだけだ。だって昨日の夜はまた明日って言っていた。朝だってなにか予定があるとも言っていなかった。だから来るものだと思ってしまうのは仕方がないじゃないか。「違う、これはそんなんじゃない」「ふぅん、それはこっちとして…

駆け引きになんて絶対乗らないんだからな

 結局、バイトが終わる時間になっても鶴橋はコンビニに来なかった。そして夜に送られてきていたお疲れさまのメッセージも届かない。 ――やめてくれよ。あるものがいきなりなくなったら気になるだろう。それともなにか? 押して駄目なら引いてみろって?「…

いつもと違うだけで落ち着かないのはなぜだろう

 バイトを始めたのは大学一年の夏頃。月水木金、週四日シフトを入れている。鶴橋が来るようになったのは、バイトを始めて一週間くらい過ぎた頃。店長があのお客さん最近よく来るね、なんて言っててそれから気になるようになった。 いま思うと毎回同じものを…

もう少し真面目に考えるべきなのかもしれない

 やっぱり普段とギャップがあると、それを可愛いと思えるか幻滅するかのどちらかだよな。あれだけ普段紳士的イケメンっぷりを発揮してると、落差はデカい。その点、光喜はギャップがない。 付き合い出すとちょっと甘えたになるらしいが、大概の女の子はそれ…