可惜夜に浮かれ烏と暁の月
Twitterリレー小説企画可惜夜に浮かれ烏と暁の月作者:はづき&るし※不定期更新更新しました♪第十七節気 寒露 初候鴻雁来(こうがんきたる)田畑の水を干し始めるほんのり和風ファンタジー風味。Twitter先行投稿、他サイトにも転載していま…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
初候*鴻雁来(こうがんきたる)
見上げると、空を群鳥が渡ってゆく。 この季節に飛ぶのは雁の群れだと、先日石蕗が教えてくれた。春に去って行った鳥が、つばめと入れ違いに戻ってくるのだ。 季節は夏から秋へ、そして冬に移り変わってゆく。光陰矢のごとし。一年も後少しで終わりだと思…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
末候*水始涸(みずはじめてかる)
休日の朝に早起きをすることが、随分と暁治の中で定着してきた。朝のラジオ体操に、一週間分の掃除、洗濯。早く起きなければ、自分の時間が取れない。もはや早く起きるのは必然と言っていい。 今日は以前、米を分けてくれた先輩教師の田中の実家で、稲刈り…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
次候*蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)
彼岸で季節の移り変わりを感じたけれど、日が増すごとに秋めいてくる。冷たい風が吹き抜けて、陽が落ちる時間も早くなった。 すっかり陽の暮れた空を見上げてから、暁治は家の雨戸を閉めて回る。風が冷たくなると、隙間から吹き込む風を感じやすい。凍える…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
初候*雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)
澄み渡る秋晴れの空。涼やかな風が吹き込む宮古家は大掃除の真っ最中。年末でもないのに、とぼやく声があるものの、家長の言葉は絶対だ。 彼岸に入り、祖父母とご先祖様の墓参りを済ませ、ふっと暁治の頭の中に思い浮かんだのがつい先日。常日頃まめに掃除…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
末候*玄鳥去(つばめさる)
春にピィピィと、家の軒下で鳴いていたつばめの声が聞こえなくなって、どれくらい経つだろう。 そのうち親と同じ姿になった子供たちを見かけるようになり、今日久しぶりに箒を片手に玄関に出た暁治は、彼らがいなくなっているのを知った。 玄関の掃除は朱…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
次候*鶺鴒鳴(せきれいなく)
「え、そんなのガーッて行っちゃえばよかったんじゃないですかね」「……お前なぁ」 放課後、部活動、美術教室。目の前にはさらさらとキャンバスに木炭を走らせている石蕗。いつもなら他にも美術部員がいるのだが、たまたま用が重なったとかで、今日の部活は…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
初候*草露白(くさのつゆしろし)
学校を卒業して、残念なことのひとつは、やはり長い休みがないことだろう。 思いがけず、学生時代に取った資格のおかげで、臨時とはいえ教師という職業に就いて数ヶ月。昔は先生なんて、生徒と遊んで一緒に休みが取れていい職業だと思っていたのだが、実の…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
末候*禾乃登(こくものすなわちみのる)
視線の先、あぜ道の両脇で稲穂が揺れている。季節を感じる風景を暁治はぼんやりと見つめた。揺れるバスの車内では、制服姿の少年少女たちがお喋りに勤しんだり、携帯電話に夢中になっていたりする。 長い夏休みが終わり、二学期が始まったのだ。時間という…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月
次候*天地始粛(てんちはじめてさむし)
昼の陽気はまだまだ夏といった感じだけれど、朝夕の風が少しばかり涼しくなってきた。もう八月もあとわずか。都会と違って、田舎町は季節の移り変わりがわかりやすい。気づいた頃には秋の風が吹くのだろう。 そんなことを考えながら、暁治はバスの窓から見…
可惜夜に浮かれ烏と暁の月