はじまりの恋

すれ違い07

 嫉妬している? 僕が片平に? それはあまりにも予想外の言葉で、頭の中が真っ白になってしまった。まさかそんなはずはない、そう思っているのに、あ然としている僕へ片平は小さく首を傾げる。「先生は鈍いくせに、かなり独占欲強いほうだよね」「は?」 …

すれ違い06

 正直、自分でも不思議に思うほど、彼が傍にいないことが物足りないと感じる。「そんなの知らないわよ」 静かな室内にため息交じりの呆れた声が響く。準備室にやって来た片平に僕が開口一番聞いたのは、藤堂の行方だった。クラスも違って毎日監視しているわ…

すれ違い05

 たまに外で食事をするのはいいものだと、そよそよ吹く風に和みながら、ボリューム満点の定食を口に運ぶ。「いただきます」 今日のA定食はハンバーグ。ジューシーなそれはほかほかと湯気を立て、食欲をそそる匂いがたまらない。けれどやはりどうにも自分は…

すれ違い04

 いまどうしようもなく殺意を覚えた。いますぐにでもこの三階の窓から目の前の男を捨ててしまいたい――いや、捨ててしまおうか。 人の神経を逆なでするのが得意な男だと常々思っていたが、それをこの俺にやるということは、よほどのことをなにか企んでいる…

すれ違い03

 晴れ渡った空にゆっくりと流れる白い雲。 窓際に寄せた椅子に腰かけ、俺はぼんやりと外を眺めていた。けれどずっとそんな代わり映えのない景色を見ていると、正直次第に飽きてくる。ため息交じりに室内へ目を向ければ、慌ただしく動き回っている神楽坂の姿…

すれ違い02

 ざわざわとした賑やかな雰囲気の中、ぐるりと辺りを見回し教室の奥を覗き込む。「あれ、いない」 確かめるように何度も視線を動かしてみても、目的の人物は見当たらなかった。 まだ昼休みになったばかりなのでいるかと思ったのだが、定位置である窓際、一…

すれ違い01

 鳴り響く予鈴を聞きながら教室の戸を引けば、ふいに室内の視線がこちらへ集まった。早過ぎる担任の姿を想像していたらしい彼らは、俺の姿を見るなり一瞬だけ驚いた顔をしたが、いつものように口々に挨拶をし、また自分たちの会話に戻って行った。 そんな中…

接近09

 もしかして僕が藤堂に気を許していることがつり橋効果だって言われたのに、藤堂の気持ちもそうだったらって思ってるってことか?「それじゃあ、まるで僕が藤堂を好きみたいだろ」「好きみたいじゃなくて、好きなんだろ!」 目を瞬かせ、まさかと呟けば、呆…

接近08

 いや、でもあれだけオープンなんだから、気づかなかった僕はやはり相当鈍かったのかもしれない。そういえば女の人を口説いているところは見たことがない。「確かになぁ、あいつの場合は、すぐ気に入れば口説く悪い癖があるから、判断は微妙だけどな。それで…

接近07

 周りが顔の整った人ばかりなのに、なぜ自分がそんなに好かれるのかわからない。秀でたところがほとんどない平凡過ぎるほど平凡な僕だ。「佐樹みたいなタイプは結構、モテんだよなぁ」 小さく唸りながらこちらを見る明良に首を傾げると、ため息をつかれた。…