はじまりの恋

想い07

 藤堂が女子に人気があるのは知っているが、なんとなくそれとも違うような雰囲気。彼女たちの視線は藤堂だけではなく、峰岸にも注がれているような気がする。「どうしたんですか?」 僕の背に貼りついた峰岸を引き剥がして放りながら、藤堂は首を傾げる。そ…

想い06

 昼休みに入り実行委員指定の会議室へ行くと、三年全クラスの委員が集まっている様子はなく、生徒会役員とまばらに生徒の姿があるだけだった。三年は昼と放課後とで、参加できるほうへ来てもらっているらしいのだが、昼はどうにも片寄って女子が多いのは気の…

想い05

 元々整っている容姿と相まって、峰岸は黙っていれば大人顔負けの落ち着きと雰囲気を醸し出す。けれど実際のところは、幼い子供がそのまま身体だけ大きくなったような性格だ。彼がしでかすことは子供っぽいとは決して言えないけれど。周りはきっとそのギャッ…

想い04

 静かな朝に徐々に広がる喧騒。教科準備室の窓から校庭をまばらに埋める白の群れを眺め、思わずふっと頬が緩んでしまった。こちらを見上げる視線に笑みを返して軽く片手を上げれば、至極幸せそうな微笑みを返された。それだけでなんだか胸が温かくなるのはな…

想い03

 人の一世一代とも言える決死の言葉を、あ然としながら聞いている藤堂。人は予期せぬ出来事に遭遇すると、誰しも同じような反応をしてしまうものなのか。あの日、藤堂に告白された僕の口から思わずついてでた言葉と、まったく同じことを呟き藤堂は瞬きさえ忘…

想い02

 更衣室を飛び出し外へ出ると、すぐさま携帯電話を開いた。耳元で鳴るコール音がもどかしく、その音が響くたび、早く出てくれと思わずにいられない。「もしもし」 数回コールしたあと、ふいに音が途切れのんびりとした声が聞こえた。 話をしていないのはた…

想い01

 煌びやかなシャンデリア。耳に優しく響くピアノとバイオリンの音色。そしてそれに紛れて微かに聞こえる食器の触れ合う音。 温かな明かりが灯る空間はセピア色に映り、どこかノスタルジックな風景。赤い絨毯の上を至極満足気な笑みを浮かべて歩く老夫婦を見…

すれ違い10

 三島も峰岸もお互いを見ながら微動だにしない。いきなり緊迫した空気について行けず呆けていれば、峰岸がため息交じりに打たれた頬をさする。「遠慮ねぇな」 ぽつりと呟き峰岸が小さく笑うと、三島は顔をしかめ息をつく。「あっちゃんの時もそうだったけど…

すれ違い09

 ジタバタともがく僕の身体を押さえながら、楽しそうに笑う峰岸はさながら肉食獣だ。だが、こんなところで弱肉強食を実感している場合ではない。どうにかしてこの状況から逃げ出さないといけないと、僕の中で警戒のサイレンのようなものが鳴り響いている。「…

すれ違い08

 驚いて身体を起こしたのと同時か、カシャリと音がした。「え?」 視線の先で携帯電話を構えているその姿に、思わず目を疑った。そして一見しただけでは誤解を与えかねないであろう、僕と片平の状況にめまいがした。「センセ、密室でいやらしい」「どこが密…